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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十三話

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 そうしてルティウスを取り戻そうと奮戦する光景を前にして、フィデスはただ一人、静かに足元へと視線を落としている。

 レヴィのように剣が得意な訳でもない。

 リーベルのように闘気を操れる訳でもない。

 ウェンティのように飛び回る翼も無い。

 ゼフィラのように補助魔法を使える訳でもない。


 ルティウスがいなければ、何も出来ない。あまりにも無力な自分を悔しく想い、唇をきつく噛み締める。

「⋯どうしてボクは⋯こんな時に⋯⋯!」

 後方へと下がり、せめて邪魔にならないようにと距離を取る。そうして戦える力を持つ者から離れてしまった事が、再び最悪を引き起こしてしまう。

「──⋯⋯フィデス!」

 誰よりも先に気付いていたのは、レヴィだった。

 ウェンティの頭上から落ちてきたカリエスの一体は、そのまま地面へと潜り込んだ。姿を消した黒い蛇は壁面へと回り、一人離れたフィデスへと狙いを定めてしまう。

 姿ではなく魔力を追いかけていたレヴィだけが、その脅威を察し、フィデスの名を呼ぶ。

 自分に向かって駆ける古き友の姿を、名前を呼ばれて見上げた緋色の瞳は確かに捉えていた。

 けれど、真横の壁から迫る脅威の姿は、見えていなかった。

 状況に気付いたゼフィラがレヴィへと魔法を送り込む。その背を押すように強い風を巻き起こし、加速を促した。

 追い風を得たレヴィは一際強く地面を蹴って、フィデスの元へと向かう。


 伸ばしたその手は、今度こそ届いた。

 小さなフィデスの身体を突き飛ばし、代わりにその位置へと到達したのはレヴィ。

 瞬時に身を捻り、辛うじてカリエスに喰われる事だけは回避していた。だがレヴィの身体には、岩壁を溶かしながら現れたカリエスの唾液が付着している。

 竜ならではの身体能力を駆使して、突き飛ばされて転ぶフィデスを守るように着地をした。けれど立ち上がる事は叶わず、その場に膝を着いていた。

「⋯ッ、レヴィ!」

 白いローブにも飛び散った黒い粘液は、肌に触れる前に地面へと流れ落ちていた。けれど伸ばしていた左腕には、ルティウスの首にあったものと同じ爛れた痕が残っていた。

 慌てて起き上がったフィデスは咄嗟に駆け寄ろうとするも、レヴィの一喝がその足を止めさせた。

「来るな!」

 聖石を介したルティウスの魔力との繋がりもなく、封印されているレヴィには魔法として放出するだけの魔力は無い。けれど存在そのものが人間と異なるレヴィにとって、カリエスの毒は死の無い神であっても命を削られる感覚に陥らせた。

 最悪は、尚も続く。

 ウェンティの大剣は、確かにカリエスの頭部へと突き刺さりその動きを止めていた。けれど長い蛇の胴は闇に溶けるように隠れ、静かに地中へと潜り込んでいる。

 僅かな戦線の乱れすら壊滅的な事態に陥りかねない中、レヴィが毒を浴びた事はウェンティも気付いていた。微かな動揺は油断を誘い、回避する間もなく小さな身体が捕らえられた。

「っ、あぁぁ!」

 地中を這うカリエスの尾が、死角から伸ばされウェンティの身体へと巻き付く。体表から溢れ続ける粘液が白い肌へと纒わり付き、焼かれるような痛みに悲鳴が零れていた。

 ついには、その背にあった光の翼さえも掻き消える。剣を握る腕はその力を失い、尚もきつく巻き付く圧力によって、ルティウス同様に骨が砕かれていた。

「⋯姉様ッ!」

 短剣を握り締め、ウェンティの救助に向かおうとするゼフィラの腕は、しかしリーベルに掴まれていた。

「離して下さいッ!このままじゃ、姉様まで⋯!」

「お前さんに何が出来るんだ!」

 この場において、ウェンティは最大戦力だった。飛行能力に圧倒的な破壊力、そして折れない強い精神。そのどれもが、この窮地を乗り切るために必要なものだった。

 けれどその翼は、既に手折られている。ウェンティは辛うじて意識を保っているが、それも時間の問題だ。

 手放された大剣を頭に刺したまま、ウェンティを捕らえたカリエスはゆっくりと動き出す。

 黒い悪意の塊は、撒き散らす毒に触れてしまったレヴィという新たに得た餌から、即座にその力を吸い上げていた。

「⋯っ、ぐ⋯ッ!」

 離れた場所でフィデスを背に膝を着くレヴィが、その場に崩れ落ちる。同時にカリエスの貫かれた頭部は再生し、ウェンティが危惧した通り魔力で生み出された大剣は溶けるように崩れ、黒い災厄へ吸収されていった。

 カリエスが狙うのは、レヴィとウェンティ。けれど既に力を吸い取り味を覚えた災厄の四つの双眸は、レヴィただ一人へと向けられている。


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