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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十三話

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「本当に……まだ、ルティウスは生きてんのかよ…?」

 誰もが否定をしない。伏せられた真実を知らなくとも、彼らの反応はリーベルに剣を握る力を取り戻させていく。

 そしてウェンティもまた、アールと同等の力を有している。神の【眼】こそ無くとも、魔力の違いを見抜く事など造作もない。

「奪われたのなら取り返すまでです。さぁ、剣を取りなさい!⋯来ますよ!」

 凛とした声は、絶望する心への鼓舞となった。

 リーベルも、ゼフィラも、それぞれが立ち上がり前を向いた。その手には長剣が、そして二本の短剣が握られている。

「わたくしは殿下のために治癒魔法を掛けていたのです。それを横取りするなど、許せません!」

 恋しい人への献身が、敵に塩を送る結果となった。絶望に沈んだはずのゼフィラの心には、今や怒りが満ちている。

「⋯そうだよなぁ。諦めの悪いあの子より先に、俺らが諦めちまう訳にいかねえよなぁ!」

 魔法の才を持たないリーベルには、魔力がどうのと言われてもピンと来ない。けれど真実を見抜ける【眼】を持つ者達が、口を揃えて「まだ生きている」ように断言した。

 仲間を信じられなければ終わり⋯自警団の中で多くの仲間と接してきたからこそ、リーベルはレヴィ達の言葉を信じると決めた。信じるに足る力と能力を持っていると知っているから、リーベルはまだ立ち上がれる。

「あの蛇の胴体ぶった斬って、取り返しゃいいんだよな?」

 長剣を握り締めるリーベルが、それまで交戦し続けていたウェンティへと問う。飲み込まれたのなら、腹の中から引きずり出せばいい。

 けれどウェンティはそれを否定した。

「切断してはいけません。カリエスの再生能力は常軌を逸しているもの。ルティウス君の魔力をも取り込んだ今、切断すればするほど、カリエスは増えます!」

「あぁ?んじゃどうやって⋯?」

 既にカリエスの増殖を許してしまっているウェンティは、釘を刺すように返す。単純な方法しか考えていなかったリーベルは難題を前にして表情を曇らせるが、誰よりも早くレヴィが、それを宣言していた。

「私が斬り裂いて、腸ごとルティを引きずり出す」

 ルティウスの剣を握るレヴィが、居場所を探るように視線を泳がせながら前へと出ていく。

 大切な存在を傷付けられ、その魔力を吸い取り、あまつさえ利用していたカリエスへの憎悪が、レヴィを突き動かしている。

 その手に握る剣は、長身のレヴィが持つには明らかに短いもの。けれどそのサイズこそ、あの小柄なルティウスらしいと僅かに笑みも浮かびそうになる。

「⋯また、お前の力を借りるぞ」

 暗闇に染まる洞窟内に於いて、少しだけ短く感じる刃が応えるように煌めいた。

 ルティウスを救い出すために、ルティウスの剣を構えるレヴィの金の瞳には、迷いも揺らぎも無い。

 そうして心を奮い立たせ、武器を取る者達を嘲笑うかのように、二体のカリエスは残る獲物をも喰らおうと地中を潜り進む。

 だが冷静さを取り戻したレヴィは、ほんの僅かな魔力の揺らぎさえも敏感に察知する。姿が見えない事など、大した影響も与えてはいなかった。

「下だ!」

 レヴィの声と同時に全員が地を蹴り、その場から飛び退く。吸い取られて枯渇したルティウスよりも、今この瞬間もその身を守っているオストラの魔力を辿れば、居場所を見つけ出すのは容易い。

 直後、地面を溶かしながら潜航するカリエスの一体が地中から現れた。剣を構えるレヴィは間髪入れずに、魔力反応がある蛇の腹目掛けて飛び込もうとする。

 けれどその背後からは、もう一体のカリエスがレヴィを喰らおうと、大きな口を開き唾液を撒き散らしながら接近していた。


 災厄は、それを本能で察知している。

 既に喰らった極上の魔力の味⋯それと同じ色を持つ、レヴィがその身に宿す神の力を。


 カリエスの狙いは、それまで邪魔をしていたウェンティではなく、レヴィだった。

 だがウェンティは、その暴挙を許しはしない。

「させませんっ!」

 空中から降下する勢いのままに、光り輝く大剣を蛇の頭部へと突き立てる。レヴィの背へと届くよりも先に、口を開いた蛇の巨体は地面へと縫い付けられていた。

「こっちからも行くぜぇ!」

 威勢のいい声を張り上げるリーベルもまた、レヴィの眼前で地面から生えるように現れたカリエスへと闘気の斬撃を放つ。切断してしまわないよう狙いを定め、漆黒の体表を斬り裂いた。血のように噴き出した体液は周囲へと飛散し、硬い地面は泡立つように溶けていった。


 瞬時に飛び退いて粘液の腐食を回避したが、レヴィもまた攻めあぐねている。

 体液が触れた地面は、まるで雪のように容易く溶けた。ウェンティが持つ大剣のように魔力で形成された物でもなければ、斬り裂こうと突き立てたその端から剣が溶かされる可能性がある。

 自身の物質創造による剣であったなら、いくら溶かされても問題はなかった。だが今その手に握っているのはルティウスの剣。

 その身だけではなく、持ち物さえもこの災厄に汚させるのは、レヴィにとっては逆鱗に触れるようなもの。

「⋯私が汚したと言っても、ルティは怒らないだろうがな⋯⋯」

 仮に剣が溶けて無くなったとしても、きっとあの子は困ったように笑い『仕方ないね』と言うだけだろう。それが分かるからこそ、一つとして失わせない。

 脳裏に浮かぶルティウスの笑顔を思い出しながら、レヴィはその剣にリーベルが放った斬撃以上の闘気を凝縮させ、蛇の腹へ向けて剣を振り上げた。

 鋭い一閃は瞬時に黒い体表へと直撃した。大量の体液を噴き出させて、喧しい奇声を発しながら暴れるカリエスは、そのまま地面の中へ巨体を沈めていってしまう。

「⋯ちっ!」

 ただの地面など、カリエスにとっては砂場にも等しい。斬り裂いた傷へ追撃し、そこからルティウスを救い出す算段でいたが、逃げられてしまえばその傷は瞬時に再生してしまう。

 そしてレヴィが逃したカリエスは、もう一体の動きを制しているウェンティへと向かう。

 高速で壁の中を伝い、遥か頭上へと移動したカリエスは次の狙いを定める。天井を突き破ってウェンティへと落下する蛇が、口を大きく開きながら少女へと悪意を降り注がせる。

 本体の落下よりも早く飛散する毒の唾液は、間もなくウェンティの肌を汚そうとしていた。

 咄嗟にウェンティは真上を見上げるが、回避は間に合わない。突き刺したままの大剣を手放せば助かるかもしれないが、魔力で生み出したその剣もまた、カリエスの糧となり得る。

 刹那の逡巡が、ウェンティを危機に陥らせていた。

 だがその窮地は、吹き荒れる暴風によって覆される。

「させるものですか!」

 ゼフィラが放った風が、広範囲に散る濁った飛沫の全てを巻き上げ、空洞の底へと吹き飛ばしていた。

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