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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十三話

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「うそ⋯でしょ⋯⋯⋯」

 誰もが絶望した。

 ただゼフィラの腕を掴んで、避けさせるしか出来なかった。緋色の瞳からはとめどなく涙が溢れ、その場にフィデスは崩れ落ちる。

 そこにいたはずの、ルティウスの姿は無い。残るのは、カリエスと呼ばれる災厄の蛇が通った穴だけ。


「殿下⋯でん、かぁ⋯⋯ッ!」

 自分の力で、救うはずだった。損傷の一部の治癒が叶い、希望が見えた矢先だった。けれど癒しの力は、恋しい人を救うどころか、害した存在の糧となっていた。

 絶望と悲愴がゼフィラの心を埋め尽くし、声はただの嘆きにしかならない。


「なんっで!こんな⋯⋯!」

 その場を跳ぶ瞬間に、どうしてその手を握れていなかったのか。掴めていれば、こうして奪われる事など無かったはず⋯そう考えてももう遅い。

 守ると誓った甥を失い、後悔と己への怒りがリーベルを苛んだ。


 誰もが、心を折られていた。

 どんな時でも最後まで諦めない一人の少年の存在は、希望という名の主柱でもあったと、誰もが再認識する。


 けれどまだ、二人は、諦めていなかった。

「悲しむ暇があるなら、立ち上がりなさいッ!」

 ウェンティの透き通る声が、広くなった洞窟内に響き渡る。

 既に大剣を構え、臨戦態勢に入っていた。

「⋯ルティは⋯⋯⋯まだ生きている!」

 その隣で、何故か確信を持ったように断言するレヴィの声は、一切の揺らぎがなく落ち着いている。

 取り乱していたかに思えたが、それが痩せ我慢なのか既に壊れてしまったからなのかは、誰にも分からない。

 だがレヴィもまた、ルティウスの残した剣を握り、ウェンティと同じ方向を睨み付けていた。

「レヴィ⋯⋯そん、な⋯気休めなん、て⋯!」

「ちゃんと辿れ!お前の【眼】は節穴か!」

 ルティウスが飲み込まれる瞬間、レヴィは確かに見ていた。

 その小さな身体が、僅かに輝いたのを。

 あの少年は、最初から『独り』ではなかった。その内に宿る存在があり、レヴィもフィデスも知っている厄介な奴⋯。

 強烈な叱咤の言葉を受けて、乱暴に涙を拭うフィデスはその【眼】を発動させる。広く深く周囲を見回せば、懐かしくも圧倒的な存在感を誇る、何度も辛酸をなめさせられた憎き相手の魔力が見えた。

「⋯え、えぇえ?」

 止まらなかった涙が唐突に引っ込む程の驚きが、フィデスをその場に立ち上がらせた。

「アイツの色じゃん!」

 レヴィとフィデスは知っている。ルティウスを内側から守り続けている存在を。

「⋯⋯どういう、事ですか?」

 悲しみに染まっていたゼフィラもまた、二柱の神の唐突な様子の変化に座り込んだまま顔を上げる。

 あれだけの悲惨な現実を目の当たりにして、何故諦めずにいられるのか。その理由を語る事を躊躇するのは、ここにリーベルが居たからだ。

「お前ら現実を見ろよ!あいつは⋯ルティウスは⋯⋯!」

 かつてオストラは、ベラニスを襲撃した。その事実があるからこそ、ベラニスを守る自警団長だったリーベルには伏せていた真実。

 そのオストラがルティウスを守っていると言っても、リーベルは信じないだろう。

 一縷の希望である真実を知らないからこそ、これ以上縋れる希望などない。そう言いたげに声を詰まらせるリーベルへ、だがレヴィは冷静に答えた。

「飲まれる時、ルティは噛み砕かれでもしたか?」

 もしもそうなっていたら、レヴィもここまで正気ではいられなかった。その肉体が取り返しのつかないほどに引きちぎられでもしたなら、彼の死を受け入れただろう。けれどルティウスは『丸呑み』にされていた。あれ以上の損傷が無ければ、まだ可能性を捨てるには早い。

「飲まれる寸前、ルティの身体は魔力に包まれていた。それはルティのものではなかった」


 他でもないレヴィだからこそ、誰よりも良く知っている。

 この世に生まれた時から共に在り、道を違え、レヴィがその手で終わらせた双子の水竜。オストラの思念が、ルティウスをギリギリで守ったのだと。


 この土壇場での干渉こそ、最大の嫌がらせに過ぎないのだろう。弟の性格をよく知るからこそ苛立つと同時に、全盛期の己と同等の力を持つ最強の守護を得ているのだという安心が、レヴィに冷静さを取り戻させていた。


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