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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十二話

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 もう何度目か分からない渾身の一撃を、カリエスの顔面へと叩き込む。両目を潰し、切断に至らないギリギリまで口を縦に切り裂いた。これならばすぐには再生しないだろう…そう考えたウェンティの眼前で、切り裂かれた断面に淡い碧色の光が集まる。

「……えっ?」

 見覚えのある色の魔力と、懐かしい気配の漂う治癒魔法が、何故かカリエスの傷口を癒していく。

「何で…?」

 そうして振り向いた先では、ゼフィラがルティウスの首に回復魔法を掛けている最中だった。

 まだ余裕のあったウェンティだが、あまりにも惨い事実に驚愕し、それが一瞬の隙を生み出していた。

 振り被られた胴体が、ウェンティの小さな身体に直撃してしまう。

 寸前で剣を前に出し受け止めたものの、勢いを殺せずそのまま吹き飛ばされてしまった。

「…ちっ!」

 咄嗟に気付いたレヴィが空洞へと振り返り、ウェンティをその身で受け止めた。

「お前、何をしている!」

 自分が戦えない苛立ちをぶつけるように、レヴィはウェンティへと怒鳴り付ける。

「油断、しただけ…です!」

 レヴィには、ウェンティを助ける義理など無い。ただあのまま放っておけば、今も死の淵にいるルティウスに衝突しかねない。だから受け止めただけに過ぎなかった。

 即座にレヴィの腕から離れ飛び上がろうとするウェンティだが、徐にルティウスへと振り返る。

 カリエスの断面を覆った治癒魔法は、今まさに妹のゼフィラが放っているものと同じ。

 その光景が、ウェンティに答えを与えていた。

「駄目ですね、これは…」

「どういう事だ?」

 圧倒的な力を持つウェンティが、諦観を抱いてしまうほどの事態。レヴィも薄々勘付いていた、最悪の真実。

「……あの災厄カリエスの唾液には、魔力を吸収する毒があります。そしてルティウス君は、あのカリエスの舌に首を絞められた時、その毒を受けて………――」

 その瞬間、ゼフィラの治癒魔法を放つ手がびくりと震える。驚愕と、恐怖に瞳を見開き、絶望に表情を歪ませていった。

「おい、一体どういう意味なんだよ!」

 事実を理解し切れていないリーベルが声高に叫ぶも、誰もその答えを口に出来なかった。

 魔に精通する者ならば、誰もが気付いてしまう最悪の真実。


「ルティウス君が生きている限り、この子の魔力は常にカリエスに吸われ続ける…回復した端から、全てが…」


 レヴィが感じた、ルティウスの魔力が回復しない理由。

 ウェンティが感じた、無限に再生を続ける事の異常。

 その全てが一つの答えへと繋がり、最悪の真実として突き付けられる。

 そんな絶望さえも嘲笑うかのように、災厄は再び蘇り、獲物へと紅い双眸を向ける。

 崩れ落ちた断崖の影から、カリエスは自分の獲物を見つけ出す。

 その口から零れる唾液は魔力を吸う毒を撒き、獲物へのマーキングも兼ねていた。

 黒く長い舌にその首を絞め上げられた瞬間から、死の淵にある少年の肉体はずっと、餌として狙われ続けている。ウェンティと交戦していたのは、あわよくばその魔力さえも喰らおうとしていたからに過ぎない。


 この場において、唯一対抗出来るはずのウェンティがカリエスから目を離した⋯それは最大の隙を与えていた。

 瞬時に岩をも溶かす体液を纏ったカリエスにとって、地面などただの通り道でしかない。

 そして邪悪な意思は、振動すら起こさず真っ直ぐに地中を駆ける。

「⋯っ!離れて!」

 真っ先にウェンティは気付いた。

 その手に掴めたのは、アールの古き友であるレヴィの腕だけ。

 同時に地中の異変に気付いたフィデスが、ゼフィラの腕を掴み、咄嗟に駆け出す。

 長年の戦士としての勘が働き、その場を飛び退いたリーベルは、間近を通り過ぎる絶望を、その目で見ていた。


「ルティ⋯!」

 レヴィの声が響くと同時に、伸ばしたその手が届くのを阻むように、それは突如として現れた。

 地中から飛び出したカリエスの巨体は、迷う事なくその『餌』へと喰らいつく。

 長く伸びた黒い舌は、動かない獲物の身体を絡め取り、今度こそ瞬時に飲み込んでいった。


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