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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十二話

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 災厄が動き出す少し前。

 アムニシアの街で情報を集めたリーベルはゼフィラと合流し、結果の擦り合わせを行う。

「平原側は、俺達が着いて以降、誰も出入りしてねえってよ」

「こちらも同じです。おそらく⋯山の方に」

 街の背後に遠く聳える最高峰、アムニス山。そこから連なる山脈は広く、大陸を南北に縦断する規模の山々が続いている。そのどこかにルティウスがいるのだと、二人は確信を持って見上げる。

「殿下は、お一人で大丈夫でしょうか?」

 街を貫く大通りを駆けながら、山側の門へと急ぐ二人。案じているのは当然、一人きりで山へ向かっただろうルティウスの安否。

「アール様にもご助力頂けるよう、手は打ちましたが⋯」

「確か、お前さん達の国の神だったか?」

「左様です」

 聖石による魔力供給を絶たれ、レヴィとフィデスが使い物にならない今、残る神の手助けというのはあまりにも眩い希望に思えた。

 けれどリーベルは危惧してしまう。

 風の国の神は、本当に味方なのか?と。

 走りながら表情を曇らせるリーベルを一瞥して、ゼフィラは微かに笑みを浮かべた。

「ご安心を。アール様も周囲の方々も、皆様が殿下をお救いしたいとお考えです」

 考えでも読まれたのかと、リーベルは少しだけ不機嫌そうに顔を顰めた。だが味方だと断言される事で、僅かながらも安堵が生まれる。

 坂道になっている大通りを走り抜け、息を切らしながら山側の門に着く頃、ゼフィラはその場に立ち止まり、徐に空を見上げた。

 懐かしくも暖かな風の揺らぎを感じ、その方向をじっと見つめる。

「⋯あーくそっ!俺も年かな⋯⋯って、どうしたんだゼフィラちゃん?」

 膝に手をついて呼吸を整えようとするリーベルに構う事なく、尚もゼフィラは空を向いたまま。

「⋯⋯まさか、姉様が?」

 姉妹だからこそ分かるその気配と魔力。急速に接近しつつある上の姉の存在は頼もしくもあり、けれど事態の緊急性が高まった事をゼフィラは察する。

「急ぎましょうリーベルさん!殿下が、危険かもしれません!」

「はァ?どういう事だよ!」

 困惑するリーベルに答える事なく、ゼフィラは再び走り出す。

 山側の門を通り抜け、山道へ入ったところで、ゼフィラは走りながらも風の魔力を纏い辺りを探る。どこかで異変があれば、必ず『揺らぎ』が生まれる。ほんの僅かでも風が乱れれば、そこがルティウスの居場所。

 そして、竜と同等の力を持つ姉が向かうだろう場所でもある。

「⋯うぉーい、ゼフィラちゃん!どうしたってんだよ?」

 若干遅れて付いてくるリーベルは、門の前でバテていたとは思えないほどの底力を発揮し、風による推進力を得たゼフィラの隣に並んで走り続けている。表情は歪んでおり疲労しているのが目に見えていても、何故か平然と並走出来ている。

「素晴らしい脚力ですね、リーベルさん」

「⋯うっせぇよ!涼しい顔しやがって⋯!」

 常に優雅な佇まいを崩そうとしないゼフィラが、どこか焦っている事はリーベルも気付いていた。

 世界を旅し、あらゆる人や物事に触れてきたリーベルだからこその直感は、確かに危険を報せている。

 この山脈には『何か』が居ると。

 その渦中にルティウスが居るのだとすれば、ゼフィラが危険だと慌てるのも当然と納得した。


 そして心の中で、覚悟も抱く。

 あのゼフィラが危険と断じたその先で、最悪が待っている可能性を。

 無事であってくれという祈りにも似た願いを抱くと同時に、胸中には不安も広がる。

 長年の経験と勘が齎すのは、胸騒ぎばかりだった。


***


 同時刻、峠の別れ道。

 リーベル達よりも後に動き出したはずのレヴィとフィデスは、レヴィの導きによりさらに先へと、迷いなく向かっていた。そして立ち止まったのは、二つに別れた道の手前。

「ルティ君、どっち行ったんだろう⋯?」

 魔力を使えずその足で向かってきたが、彼らはそもそもが人間ではない。無尽蔵にも近い竜の体力は人の姿であっても変わらず、息切れひとつ起こさずにここまで辿り着いた。

 けれどレヴィは、その表情に焦りの色を滲ませている。

「⋯レヴィ?」

 左右に分かれている道のどちらにルティウスが向かったか。判断を誤れば、取り返しのつかない事になる。何故かそんな予感が止まらないレヴィは、だからこそ冷静に、深く水脈の揺らぎを辿る。

 目を閉じて、大地に向けて手を翳し、痕跡を探す。

 そしてレヴィは見つけ出した。

「⋯根源そのものが、揺れた」

「えっ⋯?」

 同じ頃、ルティウスは暗い洞窟の中で、道を探すべく風脈に触れていた。けれど魔力制御の未熟なルティウスでは、風だけを器用に操るなど不可能。

 風脈だけではなく、その他の根にも少なからず干渉してしまっていた。

 閉じていた目を開けて、視線を一つの道へと向ける。

「制御技術を教えていなかったのが、救いになるとはな⋯」

「あっ、ちょっと?レヴィー!待ってよー!」

 行くべき先が特定され、レヴィはぽつりと呟いてから即座に走り出す。慌てて後を追うフィデスも余裕の表情で併走し、僅かに首を傾げながら問い掛けた。

「ねえ⋯この道さ、なんか下ってない?」

「さぁな」

 峠を越えるならば、まずは坂道を上る事になっただろう。けれどレヴィが選んだ道は、明らかな下り坂になっていた。

「ねぇ、ホントにこっちで合ってる?」

「黙れ、ルティはこの先にいる!」

 時が経つにつれて、先へと進む毎に、レヴィは焦りの色を濃くしていく。フィデスにきつく当たるのも、そうした焦燥を紛らわすため。


 嫌な予感がしている。

 その予感が示すように、加護を与えて繋がっているはずのルティウスの存在が、次第に薄れていく感覚に陥っていた。

 見つけたら、必ず聖石を握らせる。そうすれば、例えルティウスが危険な状態にあったとしても救える。

 胸元で輝く置き去りにされた蒼い聖石、それを繋ぐ銀色のチェーンを握り締めながら、レヴィは真っ直ぐ走り続ける。


 けれどその足が止まるのは、自然豊かな山道の景色ががらりと変わり、剥き出しの岩に囲まれた洞窟の入口に辿り着いた時。

「⋯何だろここ?こんなとこに、洞窟?」

 瞬時に【眼】を発動し、目の前に広がる洞窟の正体を探る。緋色の瞳は金に輝き、奥まで見通すようにじろりと視線を向けた。

 だが、フィデスには洞窟の正体を掴めなかった。

「⋯ウッソでしょ?ボクが、分からない⋯?」

「⋯⋯フィデス?」

 仮にも土の竜神であるフィデスが、洞窟の真相を探り切れないなどあるはずは無い。魔力は無くとも、土竜としての生来の力は失われていないのだから。

 慌てる少女の姿を見下ろしてから、視線を洞窟の奥へと向ける。レヴィも【眼】を発動させてみるが、フィデスにも分からない洞窟の正体を、水竜であるレヴィが見抜けるはずもない。

 けれど確信が出来た。

 ここは自然発生した、ただの洞窟ではないという事。

「アールは、ここに『何か』を封じているのか⋯?」

 憶測に過ぎないが、断言出来てしまう。そしてアムニス山に聖域を造ったのも、アールによる何かしらの対抗策のひとつに過ぎなかったのだろうという事も。

「フィデス、急ぐぞ!ルティが⋯危険だ!」

 振り返る事もなく一言だけ告げてから、レヴィは次第に膨らみ始める胸騒ぎという名の予感を振り払うように、洞窟の中へと走り出そうとする。だがその歩みは、突然の振動が阻んだ。

「⋯何だ?」

 足元に伝わる揺れと衝撃は、向かおうとしている洞窟の奥底から響いてきたように感じた。

 止む無く立ち止まり、焦りを色濃く滲ませた金の瞳を暗闇へと向ける。

 注意深く魔力の色を、その残滓を探るようにして深層を覗き続けて、ようやくレヴィは見つけ出した。

「ルティがいる⋯」

 不可解な振動に一瞬の躊躇を見せたが、それでも迷わずに突入していく。

 そんな古き友の後ろ姿を見つめながら、フィデスは悔しそうに顔を歪めていた。

「⋯ここが、そうなんだ⋯⋯なら、ルティ君は、もう⋯⋯」

 詳細を知っている訳ではない。だが、土の神であるからこそ僅かに覚えている。この場所がどういった目的を持ち、そして奥底に巣食う存在が『何』なのかを。

 仮に全盛期の力を使えたとしても、フィデスやレヴィでは止められない存在だと言う事も。

 だが、それはここで立ち止まる理由にはならない。迷いと苦悩に歪んだ表情は、すぐさま真剣なものへと変わる。

「ルティ君⋯どうか、死なないで!」

 あの少年ならば、敵わないと知っても最後まで諦めはしない。それを知っていて尚ここで諦めてしまえば、あの子の近くに立つ資格などない。

 暗闇に消えたレヴィを追うように、フィデスもまた洞窟の中へと走り出した。


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