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レヴィの傍から、ルティウスが消えた。
その事実は、残された者達の心に大きな衝撃を与えていた。
だが誰よりも深く憤ったのは、気付く事すら出来なかったレヴィ本人。
不覚にも寝入ってしまった。その間にあの子は姿を消した。
何かしらの侵入があった痕跡も気配もない。攫われたという線は即座に消去され、ルティウスが自らの意思で離れようとした事は、その場に残されていた聖石が物語っている。
「⋯ルティ君⋯なんで?」
レヴィから渡されたペンダントと、フィデスから渡された腕輪。その両方が、広いベッドの端に置かれていた。部屋の中を隈なく探したが、彼の服も剣も、どこにも無かった。
「ゼフィラちゃん、お前さんの力で何とか探せねえか?」
事態を知ったリーベルは、重度の二日酔いに見舞われながらも冷静に対処しようとする。聖石による繋がりを絶たれたレヴィとフィデスがその力を発揮出来ない今、頼れるのは風の魔力を操れるゼフィラだけだ。
「既に風を各地へ向けております。ですが⋯見つからないのです!」
「⋯くっそ!どうなってやがるんだ!」
レヴィよりも深く後悔しているのは、誰よりも真っ先に酔い潰れてしまったリーベル自身。どうして見逃したとレヴィを責めたくもなったが、そんな資格は自分には無いと分かっていた。
そしてレヴィはその場から、ぴくりとも動こうとしない。置き去りにされた聖石のペンダントを握り締めて、何かを思案するように小さな蒼い石をじっと見つめていた。
「レヴィ~、どうしよっかぁ?ルティ君が聖石を持っててくれてないと、ボクらじゃどうにも出来ないよね?」
「⋯⋯⋯⋯」
封印さえ無ければ⋯と、フィデスも現状を深く悔やむ。本来の力が使えたなら、地脈に干渉して足取りを⋯ルティウスの魔力を追う事も可能だった。
そうした『繋がり』による捜索を断つために聖石を置いていったのだと、フィデスも既に察している。何がそこまでルティウスを思い詰めさせたのか⋯と考えてから、徐にレヴィへと視線を向けた。
「ねぇ、レヴィ。ゆうべさ、ルティ君に何か言った? 」
「⋯⋯⋯⋯」
普段の朗らかさを消し、低く発せられたフィデスの問い。執着しているのがレヴィだけではなく、ルティウスもまた、レヴィに対して何かしらの依存をしていたとしたら⋯。
彼を悩ませたのが、目の前で沈黙する古き友以外には無いという結論へと至ったフィデスは、容赦なく告げる。
「覚えてないか無意識の中で、あの子が傷付く何かを言ったんじゃないの?」
フィデスが問い掛けても、レヴィは反応しない。何かに集中しているように、尚も金色の瞳を聖石へと向けている。
「⋯とりあえず俺は、宿の人間や衛兵に話を聞いてくるぜ!街から離れてるんだとしたら、姿を見てるかもしれねえからな!」
そうしてリーベルは、慌ただしく部屋から飛び出して行く。
大切な甥の失踪を止められなかった後悔は、リーベルを突き動かす原動力となっている。神の力を当てに出来ないなら、人の力でどうにかするしかない。
「わたくしも出ます。室内に居るより外の方が⋯もっと微細な風を掴めるかもしれませんので!」
そうしてゼフィラもまた、部屋を出るべく準備をする。
自身の風の魔力だけでは、叶わないかもしれない。己の力量を弁えているからこそ、頼れるべき存在への助力を乞うつもりでいた。
ゼフィラに加護を与えた主神アールは、当然ながらゼフィラよりも圧倒的に優れた捜索能力を有している。そしてルティウスが風脈に触れた際、アールが彼の魔力を感じ取っていた事も知っている。
ルティウスという存在そのものに期待を寄せている主神へ事情を伝えれば、心優しいアールが放っておくはずはないとゼフィラは信じている。
そして⋯アールの介入がレヴィの逆鱗に触れる可能性を考慮したからこそ、この場を離れる判断に至らせていた。
「あ、お伝えしそびれておりましたが⋯」
部屋を出る間際、ゼフィラは一度だけ扉の前で振り返り、フィデスへとそれを伝える。
「宿の支払いは受付時に済んでおりますので、お二人が出られる際は宿の者へ一言だけお声がけをお願いします」
にこりと笑みを浮かべるゼフィラを見て、フィデスも微笑みで返した。




