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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十一話

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 いつの間にか眠っていたルティウスが目覚めたのは、それからしばらく経っての事。強がっていただけで本当は疲労困憊だった少年の身体は、レヴィが案じていた通り本能的な休息を求めていた。

 心地よい微睡みを漂う中で、傍にあったはずの温もりが消えている事に無意識のまま気付く。そうしてゆっくりと浮上する意識の中、少年の耳は醜い争いの声を聞き取った。

「⋯ふん、無様だな。あれだけ私を煽っておいてその程度か」

「てめぇぇ~⋯⋯」

 何やらレヴィとリーベルが言い合っているようだ。そのやかましい声に重い瞼を押し上げ、ベッドの上に起き上がる。

 寝起きのルティウスの前で繰り広げられているのは、男達の飲み比べという、あまりにも程度の低い戦い。

「⋯⋯⋯何してんの?」

 寝惚け眼のルティウスがぽつりと呟けば、起き上がった事にも気付いていなかったレヴィが驚愕の表情を浮かべて振り向く。

「ルティ⋯!」

 咄嗟に立ち上がり側へ寄ろうとするが、その足は戦いの敗者によって食い止められる。

「邪魔だ、離せ」

「っせぇよ~!まだ飲むんだよォ⋯!」

「鬱陶しい!」

 容赦のないレヴィの蹴りが、白いローブの裾を掴んで離さないリーベルの腹部へと炸裂する。ルティウスの前でレヴィを歩みを止めようという愚行を犯したリーベルは、苦悶の声をあげながら床に転がっていた。

「⋯おい、レヴィ⋯何で叔父様を蹴るんだよ⋯?」

 事の経緯も顛末もろくに知らない少年は、レヴィがただ肉親を蹴り飛ばしただけのように見えてしまう。

「違う、これはこいつが⋯」

「黙れよ⋯」

 不機嫌な顔で立ち上がり、レヴィではなくリーベルの元へと向かう。あまりにも予想外の事態に、レヴィは珍しく慌てていた。

「ルティ、そいつは今、ただの酔っ払いだ。近寄るな」

 けれどルティウスはレヴィを無視して、床に転がる叔父を抱き起こそうとする。

 自分ではない誰かを優先された⋯その事実は、レヴィの心に深く突き刺さる。

「ルティ、何故そんな男を!」

 突然叫んだレヴィの声は、静かに怒っていたはずのルティウスを驚愕させた。

「⋯⋯え?」

 普段と、あまりにも様子が違う。こんな風に声を荒らげるなど、それこそ命の危機に立たされた時以来だ。

 やがてゆっくりと、手近にあった椅子に座るレヴィ。伸ばされた大きな白い手が向かう先は、テーブルの上。指先を追うように視線を向ければ、そこに積まれているのはあまりにも大量の、酒の空瓶。

「⋯⋯⋯えぇえ?」

 そしてレヴィは、すぐ近くにあった酒瓶を掴むと、そのまま中身を煽る。

「⋯⋯まさか?」

 その時点で、寝ぼけていたはずのルティウスも全てを悟る。

 自分が眠っている間、彼らはずっと飲み比べをしていた。そしてレヴィが勝利はしたものの、あのレヴィが酒に酔ってしまっているのだと。

「竜神も酔うのかよ⋯」

 純粋な驚きではあったが、しかしこの異常な反応が無ければ気付かなかっただろう。顔色も目付きも変わっておらず、一瞥しただけでは飲んでいた事も分からない。

 いつの間にか、リーベルはルティウスの腕に支えられたまま寝落ちていた。自分より一回り以上も大きな叔父を抱えるのは無理だと判断して、苦渋の決断でその場にそっと横たえる。

 そして椅子に座って少しだけ項垂れているレヴィの前に立つと、彼は嬉しそうに瞳を細めて見上げてきた。

「起こしてしまったな⋯」

「それはいいけどさ⋯」

 どこか申し訳なさそうに言うが、しかし説得力は無い。テーブルの上には大量の空き瓶。なんなら乗り切らない分が床にも転がっている。

「いや、どう考えても飲み過ぎだろ⋯」

 きっとリーベルの⋯酒好きな叔父の挑発に乗せられてしまったのだろうが、限度というものを弁えろと叱りたくなる。

 そしてふと気付く。

 このような状況でありながら、まだ窘めてくれそうなフィデスとゼフィラが居ない。彼女達がいれば、ここまでの惨事は免れただろう⋯と。

「ねぇ、フィデス達は?」

「⋯あぁ、奴らなら、どこかに出て行った。離れがどうとか言っていたはずだ⋯⋯」

「離れ⋯⋯?」

 ルティウスが淡い期待を寄せていたフィデスとゼフィラ。

 彼女達はとうの昔に男達の無様な争いを見限り、二人で離れにある温泉を堪能しに行っていた。

 この最上階の特別室には専用の温泉があるものの、他の部屋に泊まる者は館内の浴場を利用する。部屋の一覧に目を通していたルティウスも、離れにあるという秘湯の存在は知っていた。

 ずるい⋯!と一瞬だけ思ってしまったが、今は温泉どころではない。

 彼らは女性陣から見限られて放置された⋯そんな事にすら気付かないほどレヴィが酔っている⋯とは思うが、時折様子がおかしいとは感じても、話し方そのものは至って普通。それがルティウスを戸惑わせてしまう。

「ね、レヴィ」

「何だ?」

 話しかけても、返答はいつもと同じ。声のトーンも普段と変わらない。少しだけ違うとすれば、普段よりも『甘い声』だという事。

 ルティウスだからこそ気付ける、ほんの些細な違い。

「⋯⋯どうした、何か言いたかったのだろう?」

「えっ、あ⋯いや⋯」

 思案に耽り、話し掛けた事を忘れそうになっていた。

 取り繕うべく話題を探すルティウスだが、脳内に思い浮かぶのは、やはりこの街の名物と言われていた温泉の事。

「俺も温泉入ろうかな⋯」

 女性であるゼフィラやフィデスとの合流は絶対に不可能だと分かっているが、一人静かに⋯というのも悪くはない。いつの間にか賑やかな場に慣れていたが、元々ルティウスは静寂を好む。

 そうして再び思案するルティウスだが、少年の考えはレヴィには筒抜けだった。

「お前⋯⋯一人で、わざわざ部屋の外の温泉へ行くつもりだろう」

「⋯⋯⋯⋯」


──何でバレるんだよ!──


 表情には決して出さず、内心で叫んだ。

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