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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十話

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 レヴィに全てを託して待つしか無くなった三人は、森の片隅で焚き火を囲み、静かに時を過ごしていた。

 心配は尽きない。けれどルティウスを任せられるのは、結局レヴィしか居なかった。

 空は既に日没も過ぎ、白い月が頂点へと向かっている。

「ルティ君、ちゃんと⋯助かるよね?」

 二人が聖域へと転移してから、かなりの時間が経っている。聖石の完全なる範囲外⋯そのせいで、ルティウスの魔力は届かない。だからこそ安否が分からない。

 不安な心は、目の前で燃える焚き火のようにゆらゆらと煙を上げている。

「⋯きっと、大丈夫です」

 大陸のどこからでも目に留まる程の標高であるアムニス山。その山頂付近は、かつてのレヴィが張った結界と、アールの力によって厳重に守られている。加護を受けただけのゼフィラの風では、その頂へ届かせる事も叶わない。情報を拾う事も不可能だった。

「⋯⋯なぁ、レヴィってよぉ」

 そんな神妙な空気の中、リーベルだけはどこかいつも通りの雰囲気を崩していない。

 何を言おうとしているのか⋯フィデスとゼフィラは、揃って視線をリーベルへと向けた。

「あいつさ、何だって、あんなにルティウスに必死なんだ?」

 あの竜神の、ルティウスへの執着は異常に思える事もある。ただ気に入ったから⋯力を借りているから⋯そんな生温い理由で、あそこまで取り乱すわけが無い⋯リーベルはそう考えている。

「⋯ん~~~⋯」

 付き合いの長いフィデスだけが、この場ではその理由に見当が付いている。確信を持って、レヴィがルティウスに抱く感情も見抜いているつもりだ。

「フィデスちゃん、何か知ってるか?」

「⋯多分、知ってる」

「多分て⋯」

 フィデスの予想も推測も、おそらくは正解。それが分かるからこそ、フィデスからは伝えられない。

「⋯ボクには言えないよ。これはレヴィの、大事な思い出だから…――」

 

 全部知ってる。ボクは何度も見てきたんだもん。

 あの子の前にいるレヴィは、本当に優しく笑っていて、ボクが知ってるレヴィじゃないとすら思ったくらい。

 ルティ君の事を見るレヴィの目は、あの時にそっくり。優しく、壊れ物を扱うように接してさ。

 初めて会った時から、ルティ君にはどこか…あの子の面影があるって感じてた。

 それが確信に変わったのは、ベラニスで女の子の格好をしたルティ君を見た時。

 きっと…そういうコトなんだろうなぁ…――。

 

「まぁ、いいや。俺はよ…ちょいとレヴィを疑ってんだよな」

「えっ?」

 突然のリーベルの言葉に、過去を思い出していたフィデスは撥ねるように振り向く。

 剣を交え、いつの間にかレヴィと仲良くなっているとルティウスにも言わしめたリーベルが、レヴィの何を疑っているというのか。

「アイツよぉ!俺のルティウスに色目でも使ってんじゃねえかってな!」

「俺の…?」

 待っているだけの退屈がそうさせるのか、リーベルの感情はどうやら昂っている。レヴィの前で「俺の」などと言えば、再び一触即発の事態になりかねない。

「あ~…そういうのはないと思うよ。レヴィ、ちゃんと女の子好きになってたし!」

「…あ?あのカタブツがか?」

「アッ!」

 ついうっかり、フィデスは暴露してしまった。レヴィが秘めている過去の一部を。

「ゴメン!今のは忘れて!あとボクが漏らしたなんて、絶対レヴィには言わないで!」

 ここで口止めをしておかなければ、戻って来た時にリーベルがその事実を揶揄い、フィデスに矛先が向くのは想像しなくても分かってしまう。

 沈黙したまま二人のやり取りをただ聞いていたゼフィラは、何故か興味津々の様子だった。

 自身に加護を与えた主神、アールの同胞である水の竜神。自分が想いを寄せるルティウスをあれほどまでに大事にしている彼の、その心を知れる良い機会でもあったから。

 己の失言に慌て続けるフィデスだったが、直後、何かを思い出したように表情を変えた。

「…そーいえばさぁ」

「何だよ…そのニヤニヤ顔。怖えな…」

 リーベルの反応は、時々困る事もあるが面白いとも感じている。だからこそ、過去ではなく現在のフィデスが知るあの秘密を暴露してやろうと、元の悪戯好きな竜の片鱗を瞳に浮かべてその事実を口にする。

「初めて会った時にさぁ~、あの二人、おんなじベッドでくっついてたんだよね~♪」

「なにィ!」

「……まぁ」

 保護者としての意地から憤慨する叔父と、何故か頬を染めて、やはり興味津々なゼフィラ。

「……あンの野郎…戻ってきたら一発、いや十発は殴らねえと……」

「フィデス様、今度ぜひ、その時の事を詳しくお聞かせ下さい」

 悲愴の滲む静寂に包まれていたはずの、ただ待つだけの夜の森。

 けれど沈んでいた空気は、いつしか元通りになりつつある。

 そうして笑って待っていられるのは、レヴィが必ずルティウスを連れて帰ってくるという信頼の証でもあった。

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