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なぜ、裕福な人々は殺されてしまうのでしょうか?

作者: 鈴木美脳

 なぜ、裕福な人々は殺されてしまうのでしょうか?

 第一の理由は、圧倒的大多数の人々は、裕福な人々が裕福な人々だと認識することもないという点に求められるでしょう。


 人間の社会が全体としてより良い幸福の生産性を目指すためには、家族のように互いを気づかい労りあうことが合理的です。

 しかし現実には人々は、まずは自分の利益を優先しようとします。

 そしてそのために、自分にとっての価値観だけではなく、倫理的な価値の土台をゆがめて認識してしまうのです。


 現実には、立場の低く小さな者を深く敬い、威張って自らの権威を自己宣伝しないような者達が、社会にとって有益です。

 しかし、圧倒的大多数の人々にとっては、そのように愛と誠実を強く優先して生きることは、明らかに自分と家族の利益に反します。

 そのため、価値ならぬものが価値と呼ばれ、富ならぬものが富と見なされ、心清い者ほど浮浪者などとして捨て置かれるのです。



 遠い他者の幸福を慈しむことのできる心が、社会全体にとっての核心的な価値です。

 したがって、自分や自分に近い者の生存を優先する思考は、豊かさではありません。


 同様に、生存欲、金銭欲、世俗的な地位といったものは、どうといって価値ではないのです。

 人間同士の争いに勝って生き残るための能力の指標は、社会全体のために有益な倫理的価値の尺度としては、そのまま通用しないのです。


 しかしその現実は、近代において、圧倒的大多数の人々にとって不都合でした。

 ですから、世俗的な価値が倫理的にも価値であるかのように、価値は転倒させられ、論理は破綻させられてきたのです。

 貧しさこそが豊かさと呼ばれ、貧しい人々ほど裕福な人々だと見なされるようになったのです。



 これが、圧倒的大多数の人々が、裕福な人々が裕福な人々だと認識することができない理由です。


 美しく生まれた者ほど醜く生まれた者だと見なされ、強い者ほど弱い者だと見なされ、尊い人ほど賤しい人と見なされ、賞賛されるべき行いほど嘲笑を受ける。

 醜く生まれた者の醜さを隠し、弱い者の弱さを隠し、卑しい人の卑しさを隠し、嘲笑を受けるべき行いが嘲笑を受けないために、裕福な人々から殺される時代が訪れたのです。


 慈悲こそが人の世の宝玉であることは変わりがないのに、自分ならぬ誰かを誹謗し呪うことによって、人々は日々の喜びを贖うようになったのです。


 裕福な人は、華美な服装で自らを飾ろうとはしません。

 華美な服装で美しさを飾ることはできず、賤しさを強調することしかできないと知っているからです。

 他者を隔てなく友人や家族のように遇する慈しみの心によってしか、貴賤や優劣を争うことはできないと知っているからです。



 しかし、そのように真に美しい人達が現代の町中を歩いていたら、どうでしょうか。

 誰も気に留める人はおらず、その振る舞いを最も高貴なものとして尊ぶ人もいないでしょう。


 単に愚人として捨て置かれ、人の世のために正しい言動を行ったぶんだけ、あらゆる方法で虐げられるのです。

 だから、裕福な人々の人生は、最大限の苦しみに満たされていると言わざるをえません。



 でも、社会が腐敗する時代には、人々は連帯してその不正義を正そうと努力します。

 そのとき人々は、少しだけですが、助け合うことの価値に目覚めます。

 つまり裕福な人々は永遠に正しい位置に最初から立っていて、庶民は時代に応じて少しそちらに歩み寄るのです。


 そのように、富裕の価値は永遠かつ絶対です。義の世界に積み上げた富が腐敗することはないのです。

 裕福な人々は殺されてその資産を奪われることはなく、暗い時代に孤独に虐げられるほど、むしろ豊かさを増しつづけます。



 ですから、奪われる痛みを恐れる必要はありません。

 裕福でない人々に理解されないことをもって、愛や誠実を実践することの価値を疑う必要はありません。

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― 新着の感想 ―
 ここでも東西の考え方の違いか……。 『人はパンのみに生きるにあらず』は理想ですけど、『腹が減っては戦ができぬ』というのも現実。  理想と現実のギャップがあるからこそ『富める者は ますます富み、貧しき…
『義の世界に積み上げた富が腐敗することはない』 この言葉いいなと思いました!
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