クールっ!?〜やって来ました初デート?〜
「クールっ」シリーズ番外編及び完結編です。
文化祭から一週間、土日と創立記念日がまとまった三連休に、私とナギは、とある旅館に来ていた。
「「・・・でかっ!」」
電車に乗って1時間、山あいののどかな風情漂う田舎町にある、一軒の温泉旅館で、その建物の大きさに二人してハモりつつ、とりあえず中へ。
旅荘・風月
豪華というより、落ち着きのある雰囲気がとても素敵な旅館だ。
「すみません、予約していた紅谷ですが・・・」
「はい!お待ちしておりました、紅谷様のお部屋は2階の望月の間となっております。ごゆっくりおくつろぎ下さい!!」
フロントの美人さんも、丁寧な対応。鍵を受け取り、私とナギは2階ヘ。
「うわぁ!」
「これは・・・すごいな!」
部屋に入ると、窓からは滝の流れる風景が一面に広がっていた。その荘厳な景色に、思わずナギは声を漏らし、私は目を奪われた。
「すごい!すごいですよ緋沙さんっ!!」
「ま、とりあえず落ち着け!」
興奮状態のナギを宥め、部屋の端に荷物をおろす。未だ実感の湧かない私だが、隣ではしゃぐナギを見れば、改めて恋人になったんだと、嬉しくなる。
「でも、ホントに来たんですね・・・」
「ああ、まるで夢みたいだ・・・」
大方の予想通り、我が生徒会のコスプレ喫茶が、他を寄せ付けぬ圧倒的得票数で一位を獲得し、こうして二人、今この場所にいる。
「まだ昼過ぎだ、夕食まで時間もあるし、温泉にでも入ろうか?」
「そうですね!」
せっかく温泉に来たのだ、ここはゆっくりと湯に浸かり、心身を癒そうか。
「ふぅ〜・・・」
極楽とは、まさにこの事なのだろう。天然露天というだけあって、眼前には素晴らしい景色が広がり、熱くもなく冷たくもない湯加減、鳥のさえずりに、全てが癒されていく。しかも、まるで貸し切り状態!私以外は誰もいない。
ガラガラ・・・
おや、誰か来たようだ。
「・・・ふぅ、気持ち良い・・・」
あ、あれ?どこか聞き覚えのある声。しかもつい最近・・・
「気持ち良いですねぇ・・・・・・え?」
「あっ!」
「緋沙ちゃん!」
「杏さん!」
まさかの再会!今や押しも押されぬトップモデルであり、ナギの従姉妹である佐伯杏さんだ!
「あ、そういえば温泉宿泊券ってここだったっけ!?」
「はい」
「って事は、ナギも一緒かな?」
「は、はい!」
全てお見通しか。
「アッハハ!真っ赤になっちゃって、緋沙ちゃん可愛い〜!!」
「あぅ・・・」
身体が熱くなっていくのは、もはやお湯だけのせいではないだろう。
「あ、杏さんはプライベートですか?」
「あ、話を逸らした!?まぁいいけど。プライベートっていうか、私の実家だから!」
「・・・は?」
今、なんて?
「ありゃ?ナギに聞いてないの?」
「いや、ナギも来たのは初めてだったみたいでしたけど」
「・・・あり?ナギってうちに来た事が無かったっけ?」
「いや、聞かれても・・・」
ナギが忘れてたのか、それともホントに知らないのか?うーむ、後で聞いてみよう。
「あ!杏と・・・緋沙ちゃん!?」
「円香さん!」
湯気の向こうから、杏さんの姉である円香さん(眼鏡無し)もやって来た。そりゃそうだ、杏さんの実家って事は、円香さんの実家でもあるわけで。
「緋沙ちゃんがいるって事は、ナギも一緒?」
さすが姉妹、質問内容もおんなじだ。
佐伯姉妹と露天風呂で談笑し、気付けば・・・
「緋沙さん、大丈夫ですか?」
のぼせていた。
「・・・大丈夫だ。しかしナギ、何故ここは円香さん姉妹の実家だと教えてくれなかった?」
「え?そうだったんですか?」
どうやら本当に知らなかったらしい。
「露天風呂で偶然会ってな・・・ついつい長湯してしまったんだ」
「そうだったんですか。円香姉達の実家が温泉宿とは聞いてたんですけど、まさかここだったなんて・・・」
心底すまなそうにしてるナギを思わず可愛いと思ってしまう自分に苦笑しつつ、必死で看病してくれるナギが自分の彼氏なのだと、幸せを実感した。
それから小1時間くらいナギの看病を受け(単に私が甘えたかった)、今はナギと二人、旅館の外を散策中である。「うわぁ、すごいですね!」
「うん、見事な滝だ!」
旅館の前を流れる清流を上に向かえば、窓から見えた滝が、眼前に広がっている。しかもそこには・・・
「おんや、また会ったねぇ!」
「円香姉!」
円香さんがいた。しかも釣りスタイルで。
「いやぁヒマでさ、久々に釣りでもしようと思って来たんだけど・・・」
「釣れました?」
「魚はいっぱいいるんだけどねぇ・・・」
釣れてないようだ。
「そういえば杏姉は?」
「杏は長湯して部屋でダウンしてる。温泉宿の娘が長湯でダウンなんて、情けないわぁ」
いや、私もさっきまでダウンしてましたけど。
ピクピクッ!
「あ、引いてますよ!」
「お?」
水中へと丸っこいウキが沈んでいく。手慣れた仕種で竿を操りながら上がって来たのは、キレイな斑点模様の魚だった。
「ヤマメだっ!」
「これがヤマメって魚なのか!?」
「おや、緋沙ちゃんはヤマメを見た事が無かったみたいだねぇ」
円香さんの指摘通り、私はヤマメを見るのは初めてだ。しかし、こんなにキレイな魚だったのか。
「せっかくだから、一緒に釣ってみないかい?」
「良いんですか?」
円香さんは、ガサゴソと道具箱を漁りながら仕掛けを取り出し、細長い布から2本の真っ黒いステッキみたいな物を取り出した。
あいにく釣り初心者の私には、これをどうすればいいのか皆目見当もつかない。ナギは・・・・・あ、慣れてる!
「緋沙さんは、釣りは初めてですか?」
「ああ。お前は慣れてるな」
「家族旅行でよくキャンプに行くんです。お父さんと僕はいつも釣り担当だから慣れたんです!」
「それじゃ、ご指導よろしく!」
ナギの手ほどきを受けながら、ステッキみたいな棒を伸ばせばアラ不思議!一瞬で竿に!
それから竿先に糸を括りつけ、ウキを取り付け、ハリを・・・あ、あれ?上手く結べない。
「ナギ〜・・・」
「ハリって結ぶの難しいんですよね、ちょっと貸して下さい!」
ハリと糸を渡すと、ナギは鮮やかな手つきであっという間にハリを結ぶ。う〜ん・・・なんか悔しい!
「餌は・・・大丈夫かなぁ?」
ナギと円香さんは、私の顔を見て少し困惑気味。なんだ、餌って。
「これなんですけど・・・」
「う、うわぁぁぁっ!!!」
川に沈んだ石を裏返して差し出したそれは、む、虫!?ナギの手の平で動くそれをどうしろと!?
「やっぱり虫は触れませんよね・・・」
「カブトムシとかクワガタなら大丈夫だが、それはちょっと・・・」
ミミズとか芋虫的な姿をした虫は、どうしても気持ち悪いんだよ。
「それじゃ、僕が餌を付けますから!」
「すまないな・・・」
ナギコーチの指導のもと、どうにか竿の扱いにも慣れ、初めての釣りに挑戦!滝の飛沫から少し離れた場所に仕掛けを投入し、後は静かにウキを見つめる。
そして数分・・・
「引いてますよ!」
「えっ?えっ?ど、どうすれば?」
「竿を立てて、魚をこちらに引っ張って下さい!」
「わ、わかった!」
手元に伝わるビクビクッとした感覚。ナギに教えてもらいながら、どうにか魚を手前に寄せる事が出来た。竿を担ぎ、糸を手繰れば、キラリと光る魚体・・・ドキッと心臓が高鳴り、陸へ上げた魚体を確認した私の心には、感動と達成感が込み上げていた。
「や、やった・・・」
「キレイなヤマメですねっ!」
「うん!すごくうれしい!!ありがとな、ナギっ!!」
嬉しさのあまり、思わずナギに抱き着いた私だが、そこには私とナギ以外にも釣り人がいるわけで・・・
「うわぁ〜彼氏無しの私には、この光景はキツイわぁ・・・」
円香さんにからかわれてしまった。
いや、軽く嫌味か?
まぁとりあえず釣れたヤマメをしばし観賞し、円香さんが用意していたビクという網に入れ、その後は夕方になるまで釣りを楽しんだ。
「いっぱい釣れたねぇ!せっかくだから、ヤマメ食べる?」
「ぜ、是非!」
「オッケー!んじゃ、料理長の善さんにお願いしとくから、楽しみにしててねぇ!!」
釣り竿を仕舞い、手早く片付けを済ませた円香さんは、揚々としたテンションで旅館へと戻っていく。腕時計を確認すれば、夕食まで一時間程の時間がある。
「ナギ、そろそろ戻るか?」
「う・・・ん、じゃ、じゃあお願いが・・・」
ん?お願い!?ナギにしては珍しいな。
「手、繋いでも・・・い、いいですか?」
「えっ?」
「その・・・緋沙さんと、もう少し一緒に居たい・・・です」
恥ずかしそうにするナギが、とても可愛い。でも、考えれば部屋も一緒だが。まぁ、ナギのささやかなお願いは、私にとっても嬉しい事、断る理由も無い。
「喜んで!」
私から、ナギの手を握る。柔らかく温かな熱は、ナギの手から私の手に伝わっていく。
旅館までの一本道、ゆっくりと踏み出す一歩は、私とナギとの距離を縮めていくように感じた・・・。
萩の間
「失礼します、お食事の用意をさせていただきます!」
「あ!紗枝おばさん!」
「だ〜れ〜が〜おばさんだってぇ?」
「いひゃい!」
襖を開けて、女将さんらしき女性が入ってきた。まだ三十路にも届きそうにない程美しい人に向かってナギが言った一言に、女性は意地悪そうな笑みを浮かべ、ナギの耳を引っ張る。なんか、この光景をどこかで見たような・・・。
「ナギちゃん、久しぶりねぇ!そちらの美人さんが、円香達の言ってたナギちゃんの彼女さんねっ!!」
「あ、は、はじめまして!紅谷緋沙と言います。こ、この度は・・・」
「あらあら、畏まらなくてもいいのよぉ!ナギちゃんの彼女なら親戚も同然なわけだし!」
って事は・・・
「自己紹介がまだだったわね、私はこの旅館の女将をやってる佐伯紗枝。円香達の姉・・・」
「僕のおばさんです」
「もう!緋沙ちゃんならお姉さんで通ると思ったのにぃ!!」
「ア、ハハハ・・・」
成る程、この人が円香さん達のお母さんか。いや、たしかにお姉さんと言われても充分過ぎる程に若い!
「あ、とりあえずお料理運ぶわね!」
一度襖の奥へと戻った紗枝さんは、仲居さんとともに御膳を運んできた。目の前は、彩りの綺麗な、目でも楽しめる料理がずらりと揃い、その中に・・・
「あ!これって・・・」
「そう!さっき円香に聞いてね。善さんに頼んで塩焼きにしてもらったのよ」
御膳の中央に、私がさっき釣ったヤマメが塩焼きになって出てきた。香ばしい薫りが鼻をくすぐり、食欲が湧いてくる。
「それじゃ、ごゆっくり〜!」
全ての料理を運び終えた紗枝さんと仲居さんが、ニコリと笑みを浮かべて帰っていく。
「緋沙さん、食べましょう!!」
「そうだな!」
「「頂きます!!」」
手を合わせ、まずは自分で釣ったヤマメに手を伸ばす。串打ちされた塩焼きの背中をガブッと一口・・・
「・・・美味しい!!」
「じゃあ僕も・・・・・うわぁ、すごく美味しいです!!」
ナギも満足そうだ。
余談ではあるが、実はナギ、釣りをしていない。餌を触れない私の代わりに餌を付けてくれたり、釣れた魚のハリを外したりと、私のサポート役をしてくれていたのだ。(すまん、ナギ!)
「自分で釣った魚だから、余計に美味しく感じるでしょう?」
「ああ!・・・しかし、ナギには悪い事をしたな」
「へ?」
「私の手伝いばかりさせて、結局釣りなんて出来なかっただろう?」
私の言葉にキョトンとしたナギだったが、ああ!と、思い出した顔になる。しかしその顔に、怒りも不満も浮かんではいなかった。
「緋沙さんって、今日が初めての釣りだったでしょ?僕も釣りは好きですけど、緋沙さんが楽しんでくれただけで、満足です!!」
悔いの無い、爽やかな笑顔だった。
「さ、食べましょう!」
「・・・うん!」
ナギに促され、再び箸を進める。美味しい食事とナギの笑顔は、私の心と身体を温めてくれた・・・あ、さっきの紗枝さんとナギのやり取りって、コスプレ喫茶の時の優(ドS女王)を見ているようだったんだ!
食事の後は、しばしリラックスタイム。ナギと一緒にテレビを見て、その後は再びお風呂へ。
この旅館のお風呂は、深夜2時まで開いているらしく、入り放題。時刻は午後10時なので、お風呂に入っているお客さんの数も少なかった。
「ふぃ〜・・・生き返る〜・・・」
いや、疲れなどナギの笑顔一つで吹き飛ぶのだが、気持ち良い風呂に入ると、ついつい言ってしまう。
大浴場には、私を含めて三人。一人は五十代のおばさんで、もう一人は・・・
「あ、杏さん!」
「ありゃりゃ、またお風呂で会ったね!」
杏さんだった。てか、身体は大丈夫なのだろうか?
「あんまり話し込んじゃったから、ついのぼせちゃったけど、もう大丈夫!アッハハハ!!」
大丈夫なようだ。
「しっかし、聞いたよ〜!釣りしたんだって?」
「はい!初めてだったから難しかったですけど」
「この辺は田舎だから、水も綺麗だし、なにより邪魔者も居なくてナギとラブラブ出来たでしょ?」
「・・・いや、それが」
杏さんの言う通り、人も少なくナギと二人っきりの時間は多い。しかし・・・
「その・・・付き合って一週間ですけど、まだ手を繋いだだけで・・・」
「あ〜、ナギは奥手だからねぇ・・・」
「私も初めての彼氏だから、どう接すればいいのかわからないですし」
手を繋いだだけでも心臓バクバクだったし、なによりデートとかも初めてなわけである。恋愛初心者同士が何をすればいいのかわかるはずも無い。
「二人揃って奥手かぁ・・・う〜ん・・・」
しばし考える仕草をした杏さんは、おもむろにザバッと立ち上がる・・・・・うわ、すごく綺麗な身体。胸とか・・・ま、負けてる。あぅ・・・。
「また長湯なんかしたらぶっ倒れそうだからさ、私の部屋に来ない?まど姉とお母さんも居るけど」
「え、良いんですか?」
「相談相手は多い程、選択肢も色々あるからさ!」
ふむ、たしかに。
「じ、じゃあお言葉に甘えて!!」
風呂から上がり、一度部屋に帰る。ナギは・・・
「ん・・・むにゅう・・・」
かわいらしい声を発しながら、既に眠っていた。・・・あ、布団がくっついてる!!
1Fロビー
「すみません、遅くなりました!」
「全然待ってないよ、ナギにはバレなかった?」
「寝てました」
「んじゃ大丈夫だね!さ、行こう!!」
杏さんに促され、後をついて行く。杏さん家族の部屋は、旅館の離れにあった。しかし・・・家もでかいな。
「たっだいま!」
「お、お邪魔します!」
「ハイハーイ!上がっておいでぇ!!」
奥から人の声。おそらく紗枝さんだろう・・・。
「夜分遅くにすみません!」
「良いのよぉ!女同士、恋の話に花を咲かせましょう!!」
「賛成!」
「まど姉に同じく!」
「・・・あ、は、はじめまして!紅谷緋沙です!」
「緋沙ちゃん、誰と話してるの?」
誰って・・・ソファの中央に旦那さん(円香さん達のお父さん)?らしき男の方が居るじゃないですか。
「あ、ああ!はじめまして・・・佐伯浩二です」
「・・・あ、お父さん居たの?」
「も〜・・・影が薄いんだから」
「え、いつから?」
まさかの部外者扱い!?なんか、すごく可哀相。うわぁ、哀愁が漂ってるし。
「さ、最初から・・・おやすみ」
「「「おやすみ〜!!!」」」
おじさん、背中に悲しみのオーラが漂ってます。女系家族って、どうしても父親の肩身が狭いんだよな・・・あ、なんだか私のお父さんを思い出してしまった・・・。
「さてと、それじゃ始めましょう!!」
ドンッ!
「え、お酒?」
「これがなくっちゃ、ぶっちゃけ恋愛話とか無理でしょ!!」
「私、お酒は・・・」
「「問答無用!!」」
10分後―――
「だからさぁ・・・押し倒しちゃえばいいのよ〜!!!」
「いやいや、それより緋沙ちゃんがナギをリードしないと・・・」
「ここは敢えて、ナギを焦らして押し倒されるのを待つか・・・」
べろべろに酔っ払った三人(私は意外と強いみたいだ)の意見は、全く参考にならない。なんだ、押し倒すって・・・い、いや、別に恋人だから、その、そういう関係になっても、わ、私は、か、覚悟は出来てるというか、その・・・で、出来ればそんな関係もあ、有りかなぁ・・・と、とか思うわけだが、い、いや、決してそういった行為がす、好きと、いうわけじゃ無いのだが・・・。
「おやおや〜!緋沙ちゃん顔が真っ赤だぞ〜!!」
「あ、さてはエッチな想像しちゃったかな〜?アハハハッ!!!」
「こらこら、お母さんもまど姉もからかうのはそこまでにしてぇ、まぁここは経験豊富な私達から、ベストなアドバイスをするのが先輩の役目でしょぉ!?」
やっと杏さんがまともな発言をしたけど・・・
「寝込みを襲っちゃえば?」
全く役に立たなかった。
「クー・・・」
「スピー・・・」
「んあぅ・・・」
散々飲んで、散々騒いで、気がつけばもう、深夜2時。さすがに夜も遅く、私は旅館に戻った。幸いにも鍵は掛かっていなかったので、すんなり部屋に戻る事が出来た。
「・・・幸せそうに眠ってやがる・・・」
豆球の明かりで、ナギの顔が微かにわかる程度だが、なんとも気持ち良さそうに眠っている。さすがに照明を明るくしてしまえば、起きてしまいそうな気がして、音を立てず、今の私が出来る精一杯で、ナギの布団に潜り込んだ。
「んみゅ・・・緋沙さん・・・」
「・・・えっ?」
「スー・・・スー・・」
寝言か・・・
(起きるかな?)
向かい合って、ナギの顔をまじまじと見つめる。少しづつ、少しづつ、ナギとの距離を縮めてみれば、ナギの手が無意識に私を抱きしめた。
(えっ?えっ?)
なおも起きる気配の無いナギは、両手で私を抱きしめたまま、静かに寝息を立てている。
(ナギ、あったかい・・・)
密着し、バクバクと忙しく動く心臓を気にしながら、ナギの体温を感じている私。どうしてだろう、ナギの温もりは、私の心を落ち着かせる。
(少しだけなら・・・)
互いの顔は、とても近い。眠れる愛しき人に顔を近づけ、そっと唇に触れる。
正直、味なんてわからなかったのだが、ただ一つ、これだけは言える。
(私は今、至福の時を過ごしている)
因みに・・・
「・・・えっ?嘘!?えっ?・・・ぼ、僕・・・」
「ん?どうし・・・あ」
どうやら私の寝込みを襲ってしまったと勘違いしたナギは、朝からパニクってしまった。・・・私の浴衣がはだけていたのも、そう思わせた原因かもしれないのだが。
「ナギ、勘違いしているかもしれないが・・・」
「責任は取ります!ぼ、僕と結婚して下さい!!」
おしまい。
ようやく・・・ようやーくっ!完結致しました。ナギと緋沙の恋人関係は始まったばかりですが、今作をもって、完結とさせていただきます。その後の二人は・・・・・・読者様のご想像にお任せします。細かな描写や文章・表現が拙く、わかりづらい内容で、読者様には不快になられた方もいらっしゃるかもしれませんが、そこは温かく見守って下さい(汗)。
色々とありましたが、無事に完結出来た事を嬉しく思うと同時に、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!!