戦闘用アンドロイドを拾ったら、効率厨すぎて人間の方がついていけない件
この物語は、異世界にやってきた戦闘用アンドロイドが、冒険者パーティに拾われた結果――
効率だけを追求しすぎて、人間の方がついていけなくなるお話です。
人間の「当たり前」とAIの「当たり前」。
噛み合わないまま旅を続けると、戦闘では頼もしいけど、日常ではやたら面倒くさい同居生活が待っていました。
勇者でも賢者でもなく、ただの“効率厨”なアンドロイドと、
振り回される元王子・魔術師・重戦士・神官の珍道中――
はじまりは、森で半壊して倒れていた金属の人型との出会いから。
// 森の夕暮れ。元王子レオン、見習い魔術師ミリア、重戦士ガロス、神官バルド爺――
// 彼らはサラマンダー(火を吐くオオトカゲ)に追われて逃走中。
ガロス「うおおお! 後ろから火ぃ来てる!!」
ミリア「詠唱もうちょい待って! “風よ――”
レオン「待てない! 茂み抜けるぞ!」
// 藪を突き抜けると、小さな広場。中央に“金属の人型”が半ば土に埋もれて座している。
バルド爺「……なんじゃ、これは。ゴーレムか?」
ミリア「骨……? 違う、金属の骨……きれい……(どきどき)」
// そこへサラマンダーが咆哮。火炎が迫る――
???「――再起動完了。戦域認識:未知。通信:断。衛星:存在せず」
???「敵味方識別を“こちらに刃を向けてくるか否か”に縮退します」
レオン「い、今しゃべった!?」
// 金属人型、土から立ち上がる。腰のスロットは空。手近な“枝”を拾う。
???「武装確認……なし。暫定武装:棒」
ガロス「棒!? あいつ火吐くぞ!?」
???「脅威レベル:中。――対処」
// 棒を一閃。サラマンダーの顎関節に正確にヒット、続けて首根を押さえ地面へ叩きつける。
サラマンダー「グエッ(沈黙)」
レオン「……嘘だろ」
ミリア「棒で!?」
???「排除完了。生体反応、停止」
バルド爺「ひえっ……」
// 金属人型、こちらへ向き直る。目のセンサーが淡く点滅。
???「初対面。私は戦闘用アンドロイド、型式番号TAC-EX9。コードネーム“セントリオン”」
レオン「……せん、とりおん?」
ミリア「アンドロイドって、魔導兵器?」
ガロス「MAD兵器ってことか!?」
TAC-EX9「MAD(狂気)ではありません。正常な戦闘用です」
ミリア「で、でも助かったよ! あなたすごい!」
TAC-EX9「評価ありがとうございます。では周辺安全確保に移行――」
// 森は薄暗い。ミリアがふわっと“ライト”の魔法を灯す。
ミリア「ほら! 明るくなったでしょ!(ドヤ)」
TAC-EX9「近距離で全方位照明は視界を阻害します」
(肩からLEDモジュール展開、前方をスポットで昼のように照らす)
ミリア「イラッ(ロマンが死んだ顔)」
ガロス「なんか太陽出た」
レオン「ともかく助けてくれてありがとう。俺はレオン・アルディス。こっちはミリア、ガロス、そしてバルド爺だ」
バルド爺「わしはバルド・エルミンスじゃ。年寄り扱いはやめんか」
TAC-EX9「入力完了。以後、個体識別データに登録」
ミリア「あなた、どこから来たの?」
TAC-EX9「説明を開始します。電動――」
レオン「後で! 頭が爆発する!」
// サラマンダーの死体から微弱な発光石(魔核)が転がり出る。
TAC-EX9「微弱エネルギー反応確認。データベース不一致。価値不明――(ポイッ)」
ミリア「ああああ! それ貴重な魔核!!」
TAC-EX9「価値提示があれば保持します。次回から留意」
// 街へ向けて歩き出す。道中――ミリアが饒舌に“ギルドの愚痴”を語る。
ミリア「ギルドってさ、規約が細かくて、新人入るとランク下がることもあるの。手続きも長いし、受付の人がさ~」
TAC-EX9「入力完了。依頼仲介組織=ギルド。ランク制度:あり。新人加入時の一時降格:条件付きで発生。理解」
バルド爺「お主、よう喋るのう」
レオン「(助かる、説明の手間が省ける)」
// その時、茂みから盗賊風の男が三人、道を塞ぐ。
盗賊A「おいおい、金目のもん置いてけよ? 命まで取らねぇからよ」
ガロス「出たテンプレ」
ミリア「最悪……」
TAC-EX9「脅威度:低。非殺傷での排除を試行します」
レオン「殺さずに頼む!」
// 盗賊が突っ込む。セントリオン、するりとかわし――
// “シュババッ”と一瞬で布の擦れる音。次の瞬間、盗賊たちが股間を押さえて絶叫しつつ退散。
盗賊B「きゃあああああ!!(下半身スースー)」
盗賊C「覚えてろぉぉ!!」
TAC-EX9「無力化成功。羞恥による行動不能は人間特有の防御反応。――有効戦術として記録」
ミリア「記録しなくていい!!」
// 夕陽。街の城壁が見えてくる。
レオン「街はもうすぐだ。ギルドで正式に仲間として登録したい」
TAC-EX9「補足。先ほどミリアが説明した内容に基づけば――新人加入で一時的にランクが下がる可能性があります」
レオン「……ああ、さっきの“愚痴”をちゃんと覚えてたのか」
バルド爺「最近の若いモン(機械)は記憶力がよすぎるわい」
ミリア「え、えへへ(喋りすぎたかも)」
ガロス「下がったらレオンのおごりな!」
レオン「なんで僕!?」
// 命名はここで。城壁の影、ちょっと気恥ずかしい間。
ミリア「“TAC-EX9”とか“セントリオン”って、長いよね……」
ガロス「呼びづらいしな。もっと短く」
レオン「じゃあ――“アイ”はどうだ?」
バルド爺「“ちゃん”付けで呼びよい。“アイちゃん”でええじゃろ」
TAC-EX9「正式名称ではありませんが、音声処理に問題はありません。呼称“アイちゃん”をサブネームとして登録」
// ふと空を見上げるセントリオン――いや、アイちゃん。
アイちゃん「……やはり衛星がないと不便ですね」
(仲間たちを見て)
アイちゃん「こちらには衛生が必要そうです」
四人「どっちの“えいせい”だよ!!」
// 笑いながら、五つの影が街路へ伸びる――
// ここから、効率厨すぎる“アイちゃん”と、人間の当たり前が噛み合わない旅が始まる。
(つづく)