表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第3話:神、くしゃみで雷を落とす(誤解)

俺は今、井戸の底で膝を抱えている。


別に落ち込んでるわけじゃない。むしろ快適だ。

人目に触れず、ひんやりとした石壁と冷たい水……最高の隠れ家だ。


ただ、最近は少し困っている。

どうも村人たちの【信仰心】が日増しに膨らんでいるのだ。


【被認識率:約3.8%】


これが地味に上がってるのがヤバい。

昨日なんて、村の子供が井戸を覗き込んで「なんか、影が見えた!」って叫んでた。

……それ、俺の足だ。


まあでも、今日は特に何も起こらないだろう――そう思っていた。


「……っくしょい!」


思い切りくしゃみをした瞬間、井戸の外から声がした。


「……え? 今、誰かくしゃみした?」

「このあたりに人なんていないはずじゃ……」


畑で芋を掘っていたおばちゃんと、その隣の青年が、首をかしげながら辺りを見回している。

当然、俺の姿は見えない。


でも――声だけは聞こえるらしい。

……これ、地味に怖くない? ホラー現象だぞ。


その時だった。


【状態変化:空気振動】

【触媒:NULL存在】

【周囲現象:雷雲発生】


(……は?)


ドゴォォォンッ!!


稲光と共に、遠くの大木に雷が直撃した。

同時に、空から雨が降り出す。


「ひぃぃぃっ!!」

「こ、これは……神の怒りか、加護か……!」


畑のおばちゃんが、十字を切るような謎ポーズで空を拝み始めた。

青年は震える手で頭を下げる。


(いやいや、俺くしゃみしただけなんだって!)



村の中央広場には、数時間後にはもう人だかりができていた。

もちろん俺は井戸から覗き見だ。


そこには、初めて見る人物がいた。

背筋をピンと伸ばし、白い髭をたくわえ、杖を手にした老人――村の年長者らしい。


「……やはり、伝承は本当であったか」


落ち着いた声で、老人は周囲を見渡す。

そして井戸の方へ歩み寄り、厳かに語り出した。


「この村には古くから伝わる言い伝えがある。

『姿なき神は、天より雷を降ろし、地を清める』――と」


(いやいや、そんな伝承ねーよ! 今作っただろ!?)


「本日、その神は確かにお怒りになられた……いや、我らを試されたのだ」


(いやいや、なにを試す必要があるんだよ!?)


村人たちは一斉にうなずく。

中には涙ぐんでいる者までいる。


そして老人は、さらにとんでもないことを言い出した。


「この聖地“定義外の泉”を中心に、我らは新たな祈りの儀式を始める。

神よ、これからも我らを見守りたまえ……!」


「おおおおお!!」


歓声と拍手が巻き起こる。

中には俺に向かって野菜やパンを供える者までいた。


ありがたいけど、俺は井戸の底から手を伸ばして回収する勇気はない。


【新称号:雷を呼ぶ神】

【信仰心:村人の間で急上昇中】

【被認識率:約6.1%】


うわ、また上がった……!

もうじき10%いきそうじゃないか。


(マジでやばい、これ……)


俺はただの存在エラーで、レベルもマイナス1のまま。

それなのに、気づけば村人たちは俺を“天候を操る神”として本気で信じ始めている。


この流れ、どう考えても――

俺の望んだ「静かな生活」から、一番遠い方向に進んでるよな?


この時の俺はまだ知らなかった。

この誤解が、村だけでなく周辺の街や領主を巻き込む大事件の、ほんの序章にすぎなかったことを……。

毎週火曜日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ