表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第2話:誤解は勝手に育つものです。いやマジで

俺は今、とある村の井戸の中に隠れている。


……いや、誤解しないでほしい。別に怪しい目的があるわけじゃない。俺はただ、目立ちたくないだけだ。


なにせ、“存在してない”んだ。レベルマイナス1、ステータス画面はNULL、認識不能のバグキャラ。

いわば世界の幽霊みたいなもんだ。


【ステータス:ERROR】

【存在状態:NULL】

【影響範囲:非干渉】

【被認識率:約0.2%】


被認識率、0.2パーって何だよ……。


(人目につかずに静かに暮らす、それだけのことなのに……どうしてこうなった)


きっかけは、昨日のこと。



俺は森の中でひっそり生活していた。木の実を拾い、水辺で魚をとり、バグの利点(誰にも見つからない)を活かして、野生動物にも気づかれず、割と安定した生活だった。


だがある日、森の奥で誰かの悲鳴が聞こえた。


「きゃああああっ!」


(うわ……関わりたくねぇ)


そう思ってスルーしようとしたが、つい覗いてしまった。つい、な。


そこでは、盗賊っぽい奴らに追い詰められている少女と、護衛らしき若者がいた。


「マリア様を離せッ! この卑怯者め!」


「チッ、貴族のガキが吠えてんじゃねぇ!」


どうやら、どこぞの貴族の娘と従者らしい。護衛は頑張ってるが、多勢に無勢ってやつだ。


で、俺はどうしたかというと――


木の陰から石を投げた。


バシィッ!!


「ぐあっ!? な、なんだ……今の!?」


「後ろから……誰かいるのか!?」


(あ、やべ。思ったより当たった)


ちなみに俺、存在が認識されないんで、ステルス性能MAXだ。どんな狙撃も必中、気づかれずに逃走可能。


で、石をもう2~3発ぶつけたら、盗賊たちは「やべぇ何かいる!」「呪われた森だぁぁ!!」と叫んで逃げていった。


俺は何もしてない。ただ石を投げただけだ。


……なのに。


「神の御加護……!」


少女が、涙ぐみながら天を仰いだ。


(いや、違うって。俺、神じゃないし。むしろバグだし)


でも彼女は、護衛と一緒に言った。


「きっと神が、私たちを救ってくれたのです!」


「はい、マリア様……この森は神聖な地に違いありません」


――いや、もう、ほんとやめて。恥ずかしいから。



で、話はここからだ。


その少女マリアが、助けてくれた「神」に感謝するため、村に祭壇を建てるとか言い出した。


「“見えざる存在”に、祈りを捧げなければ」


おい待て。俺がちょっと石投げただけで、なんで祭られる流れになってんの?


しかも翌日には――


「この村に、神が舞い降りたと聞きました!」


「お告げがあったと、マリア様が!」


「神は、見えざる姿で人々を導く……“定義外の存在”!」


そのワードやめて! それ俺のエラーメッセージだから!!


で、俺は今、井戸の中に避難している。


人目を避けて、静かに生きたい――

ただ、それだけだったのに。



「……ふぅ。水、冷たくて助かるわ……」


井戸の底、ひんやりしていて快適なんだよな。飲み水にもなるし。


俺がその井戸水で顔を洗ったときだった。


【状態変化:水質検知】

【触媒:NULL存在】

【井戸水が浄化されました】

【村の“神聖度”が上昇しました】


……今、何かすごいことが起こった気がするんだが。

……って、ちょっと待って。

“触媒:NULL存在”って……それ俺じゃん?

なんでバグキャラが水質改善してんだよ。エコか。神か。バグか。


そして――


「この井戸が……神が現れた聖地です!」


村人たちが、なぜか列をなして井戸に集まっていた。


「見てください! この水、昨日まで濁っていたのに……!」


「飲めるようになっておる! まさに神の奇跡じゃ!」


やばい。やばいやばい。


マジで俺、神格化されてきてる。


「これより、この聖地を“定義外の泉”と名付けよう!」


頼むからそのネーミングやめろ。俺のエラーログから取るな。



静かに暮らすつもりが、いつの間にか“神の奇跡”とやらで村が盛り上がり始めていた。


なお、俺はまだ井戸の底にいる。


たまに上から賽銭が降ってくる。ありがたく拾ってはいるけど、複雑な気持ちだ。


【新称号:隠れ神】

【信仰心:村人の間で拡大中】

【被認識率:約3.8%】


なんか少しずつ、見えてきてないか……?



これはまだ、始まりに過ぎない。


後に彼らは言う。


「この世には、“書かれざる神の教え”がある」と。


それが、国家転覆すら起こしかける“福音”になるとは――


このときの俺は、まだ知らなかった。

毎週火曜日更新予定。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ