第三話 宝物庫掃除と孤独の少女
「おはようございます!」
「おはよウ」
「「うむ」」
ジュレが出勤して、魔王に挨拶をします。
「今日ハこちらから掃除を頼みたイ場所があって…宝物庫なんだけド」
「はい。入り口の鍵も受け取ってます」
「大事な物がたくさンあル…剣なんかもあるかラ気を付けて作業してほしイ」
「わかりました」
「宝箱もいくつカあるけど、中を開けテ掃除してほしイ」
「開けちゃっていいんですか?」
「開けちゃッテいイ。中も随分長いこト掃除してないかラ」
「指示をだすかラ、今日は最初だけ一緒に付き添うヨ」
ビュオオオオオオォォォォ…。
思わず目を閉じるほどの強風が吹いたと思うと、そこには女性の魔物がいました。
「つむじ風の中に誰かいる…!?」
「魔王様、ご機嫌麗しゅう」
「「ヴァルシェリアか。久しいな」」
「この間は御免なさいね。でも魔王様なら勇者なんてイチコロだと思いましたの」
「「構わぬ」」
「…
「ところでアンタね?掃除係を任された亜人って」
「ジュレと言います」
「ふーーーん…」
じろじろ。じろじろ。じぃーっ。
「あの…何でしょうか…」
ツカツカツカ。
ツツーッ。フッ。
「この窓の下、ホコリが掃除できてないわよ」
「すいません、後で掃除します…」
(人間ノ小姑のようダ…)
「アンタ、魔王様のお気に入りらしいけど…あまり調子に乗らないことね!」
「あ、あの、ごめんなさい…」
「では魔王様、ごきげんよう」
「「うむ…」」
「いつもながラちょっト疲れるネあの人ハ…気を取り直して宝物庫ニ行こうカ」
「はい」
宝物庫。
「ここは広くはないけど、置いてあるものハ全部どかしテ掃除してほしイ。剣や鎧ははたきをかけてネ」
「宝箱がいくつかありますが…ツボもですか?」
「うン。キミが持ち上げらレないほドには重いものはなイと思うけド…」
「わかりました」
ジュレが掃除をはじめます。
早速目についたのは、ジュレの目から見ても明らかに格が違う剣。
「これは…本で見たことがある…!地上最強の宝剣、『やさぐれメタルの剣』…!」
「すごいでショ。なんでそんナすごい剣がここにあるんだとか思っタ?」
「…いつか勇者が来て、これを手に入れた上で魔王さんと戦うことになる…!
敵に塩を送る行為じゃないですか??」
「最強の武具を与えた上デ、完膚なきまでに叩きのめしテ
徹底的ニ絶望を味わわせてやりたイ。というのガ魔王様ノ考え方なノ」
「やっぱり魔王はすごい………!!」
「えっへン。じゃああとハわからないことガあったラその都度聞きに来テ」
ジュレひとりになりました。
「こっちの剣も負けず劣らずすごい…『屠竜の魔剣』だ。外に出して掃除しよう…」
「魔王様に定時報告をせねば」
警備のドラゴン族の魔物が通りかかります。
「すいません、ちょっと通ります。あっ…!」
ガシャァァアン!!
「あぶなっ!それ我々にかすりでもしたら大ケガする剣だから!気を付けてくれよ!」
「す、すいません…」
「ふう。取り扱い注意な剣だなあ…。こっちの剣もかなりすごい…!
不死の魔物に死を与える聖剣、『ネクロスレイヤー』だ。これもそっと外に出して掃除しよう…」
「城の裏手の警備体制について進言に行こう」
警備のゾンビの魔物が通りかかります。
「すいません、ちょっと通ります。あっ…!」
ガシャァァアン!!
「あぶなっ!それ我々にかすりでもしたら最悪死んじゃうやつだから気を付けて!
もう死んでるけども!」
「す、すいません…」
…気が抜けません。
「ホント魔物って個性的…。さて、次はツボをどかして掃除しよう。中身が何か入ってるのかな…」
ジュレがツボを覗き込むと
「ツボの中に小さいツボが入ってる。これも取り出して掃除するのがいいよね」
ジュレがツボの中に入っている小さいツボを取り出すと、
その瞬間に元入っていたツボと同じ大きさになりました。
「えっ…どういうこと…?」
取り出して大きくなったツボを覗き込むと、そこには小さなツボが入っていました。
「まさかとは思うけど…」
そこから小さいツボを取り出すと、その瞬間にまたツボは元入っていたツボと同じ大きさになりました。
そのツボの中にはまた小さなツボが入っており…
「………よーし、ツボとの根くらべだな!やってやるぞ!」
…その後、一体ツボの中から何十個ツボを取り出したでしょうか。エンドレスです。
「はは…なんかもう笑えてきちゃった。はは。アハハ…。あははははははははは」
取り出したツボ群がほのかに光り始めました。
「そうか…!ツボの中には『笑い』が入っていたんだ…!つまりこれは『笑いのツボ』…!!」
『ピンポーン!ご名答!君はなかなか根気がある!ではさらばだ!』
ツボの声(?)がジュレの頭の中に響きました。
すると全てのツボが消滅して、元のひとつのツボに戻りました。
「なんだったんだ一体…」
魔王城は不思議なものがいっぱいです。
「あとは…宝箱がいくつかあるからそれを掃除して…こっちは中身はからっぽ。
こっちは…価値はよくわからないけど、中くらいのメダルが入ってる…一応拭いとこう」
残りひとつです。
「これが掃除できたら概ね終わりかな」
パカッ。
「ザラ…」
「ひぃぃぃぃぃぃいぃ!!」
教会で働いていたジュレは知っていました。
これは、聞いただけで全身の血が凍り付く『死の禁呪』…!
「あのね。ザラザラして気持ち悪いから、拭いてほしいの」
「えっ」
「わたし、ミミックのミミ美。
ミミ美って呼んでね。体がザラザラして気持ち悪いから拭いてほしいの」
「う、うん」
「宝箱の部分も体の一部…女の子の体はデリケート…。やさしく拭いてね」
「う、うん、わかった」
ふきふき。ふきふき。
「拭けたよ」
「ありがとう。さっぱりした。ところであなたはだあれ?」
「ボクはジュレ。少し前から、魔王城で掃除をして働いてる」
「わたしは大魔王様に拾われて(物理的にも)、
ここに置いてもらってから何百年もずーーーっとここにいるけど…。
一応、勇者が来たら応対するようにって言われてるけど勇者は来ない。この頃はちょっと退屈」
「そうなんだ」
「ジュレ、この後はどうするの?」
「ここの掃除はもう終わりだから報告して、それから、最寄りの街に買い出しに行こうと思ってるよ」
「人間の街かあ…。わたしも行ってみたいな。一緒に連れて行ってくれる?」
「ボクは構わないけど、魔王さんが許可してくれるかなあ…」
「お願いしてだめだったら諦めるから…ジュレから頼んでみてくれる?」
「わかった。相談してみるよ」
玉座の間。
「掃除おわりました」
「ア、終わったノ?今日はもう仕事終了でいいヨ」
「あの、それで宝物庫にいるミミ美…ミミックのことなんですけど、
一緒に街に買い物に連れてでてもいいですか?」
「「ミミックだと?まだそんなものが残してあったのか」」
「大魔王様ノ時代かラ勇者対策として置いテあると聞いておりまス」
「「短時間なら構わん。好きにしろ」」
「1時間半くらいで戻るようにします」
「「うむ」」
「行っテらっしゃイ」
宝物庫。
「ミミ美!許可が貰えたよ!準備するから一緒に出掛けよう!」
「楽しみ…。ちなみにミミックは自分で移動できないからジュレがわたしを抱えてね」
「えぇ…結構重たそうじゃない…?」
「レディの体重のことを言うのは失礼…。でも連れて行ってくれるから許してあげるね」
(第三話・完)