02-2. まあちゃん
歴史上はともかく、まぁちゃんこと北条政子どのは我らの尊敬を集めていたのは確か
正直、旦那の頼朝氏はかなり性格がアレだったしね
まぁちゃんがいなかったら幕府はまとまらなかったと思うわ
しかし、ここでひとつ問題がある
「ねぇ、まぁちゃん
どうして元旦那のトモキさんのとこに行かないの?」
「あれは政略結婚だもの、源氏の頭領っていうのはかっこよかったけど男としてはねぇ」
「でも、ここではナンバーワンなんでしょ?」
「そう、ここは歌舞伎町でも屈指のお店なの、売り上げが一桁違う
ここでナンバーワンということは歌舞伎町でナンバーワンってことなのよね、でも」
そう言うとアッくんが恭しく差し出したグラスを手に取り、にっこりと笑った
うっわ、女王の風格
「私ってナンバーワンは興味ないの、這い上がる男の方が好みなのよね」
いやいや、あんた見た目で選んでるし
「ホストって外見だけじゃ上がれないのよ、アッくんもこれから腕を磨こうね」
「はーい」
なるほど、やっぱりここでもプロデューサー気質なのね
「あっ!」
「何よ」
「まみりんって私より年下だよね、数ヵ月だけど」
「おっほっほ、そうだったかしら」
「やっぱり、そういう『設定』なのね」
「私は『永遠の17歳』ってデビューしてるもん」
「どこのメイドですかって、で、ほんとは幾つなの」
まみりんは二ッと笑って片手を出した
「5!」
「他の子に言わないでね」
「社長は知ってるの?」
「もちろん
でも、さすがにキツクなってきたから、そろそろ引退しようかなって思ってるの」
「えー、全然いけると思うけど
とりま私よりは若く見えるし」
「そうそう、永遠の17歳でいけますって」
アッくんも同意したが、まみりんはアッくんの鼻をつまんで「めっ」と言った
「だめよ、そんな言い方
私を上げるためにBKをディスってることになるわ」
「ああ、そうか! 勉強になります」
ほんと、まぁちゃんは人を動かすのがうまいなぁ
私はディスられたことにも気付かなかった
「ね、それでクロウさまは?」
「慌てないで、ほらゆっくりしましょ」
まぁちゃんはポンポンとソファを叩いて私を隣に座らせた
あっくんがすかさずグラスを渡してくれる
「ウェルカムドリンクでーす、アルコールだめじゃないですよね」
「そんなわけないでしょ、義経軍きっての酒豪ですもの、ねーBK」
「生まれ変わってからは呑んでないからわからないけど、たぶん大丈夫でしょう」
「それじゃ、カンパーイ!」
こうしてエルドラァドの濃ゆい夜は始まった
幸いなことに酒豪の体質もしっかり転生されているようで、いくら飲んでもまるで酔わない
「ちょっと店中のお酒を呑んじゃう気?」
「ちっちゃいことは気にしなーい、まぁちゃんだ―い好き! アッくんおかわりぃ」
「はーい」
ガチャ神のおかげなのか転生者の正体がわかるにつれて、記憶もどんどん思い出されてくる
昔話ってちょー楽しい!
アイドルになってからずっと素を隠してたから、解放感がハンパなかった
「BKさんノリノリですね、そろそろクロウさんが来ますよ、お迎えに行ってきますね」
アッくんはいそいそと立ち上がるとVIPから出て行ったが、あれっと思う間もなくハッピーバースデイの曲が鳴り始めた
そして私たちの席に向かって近づいてきたのは、大きなワゴンにしつらえられたシャンパンタワー
「きゃあああ、上がるー!」
動画でしか見たことのないガチのシャンパンタワーに思わず叫んでしまったがその悲鳴もすぐに引っ込んだ
「いらっしゃい、やっと会えたねBK」
その声はなぜか記憶の中の声と寸分たがわず、800年の時空を超えた
ああそして、ワゴンの後ろからシャンパンを持って現れたのは、夢にまで見たあのお方
我が命を賭けし、ご主君『源九郎義経』さま
ふらふらと立ち上がったけれど足に力が入らない
客として呼ばれたはずなのに御前に立つと自然と跪こうとしていた
「だめだよBK、今日はきみのお祝いなんだから」
クロウさまは優しく微笑むと前世ではけしてできない、いや、してはならないはずなのに、我が前で片膝をつき手を取った
その唇が手の甲に触れたとき、頭の中が白い光でいっぱいになり何も考えられなくなった
「泣かないで、僕たちはまた会えるって信じてたよ」
知らぬ間に涙が溢れていたのね
万歳! 立ち往生して良かった!
※立ち往生は弁慶の代名詞、衣川の戦いで義経を守り、立ったまま昇天した武蔵坊弁慶に由来します




