01-10. 合戦・姫路城ファイナル
記憶にはほとんどないけれど、第一部は乗り切ったらしい
ステージでは一度も痛いと言わなかったまみりんが舞台袖に戻るとひっくり返った
「ブーツは無理、脱がせて」
膝まであるブーツを3人がかりで脱がせると、人形のように細い右足首が真っ赤に腫れあがっている
それを見たわしは…マジ泣きそうになった、自分が痛いのはまったく平気なのに
まみりんはキッとわしを睨んで"おいでおいで"をした
「ご、ごめん、まみ」
皆まで言う前にまみりんがわしのほっぺたを両手で挟みバチンッとビンタ
「なんて顔してるの、あんたはスーパーアイドルBKなのよ!」
わしは面食らってうんうんとうなずくしかない
「テーピングするから4人で時間稼いで
アイラ、予備のサンダル借りるわよ、テープ巻くと私のサンダルは入らない、テープの痕はファーのニーハイで隠せるっしょ」
「うん、わかった」
「Bプロ用意して風船のやつ、4人とのつなぎに使うの
私だけ遅れるから何か演出がないとおかしいわ」
足をテーピングされながら次々と指示を出していくまみりんにみんな目を見張った
ガチの演出家かよっ!
「痛み止め飲む?」
心配そうに訊くマネージャーさんにまみりんは首を振った
「だめ、頭がぼおっとしちゃう」
最後まで我慢する気なんだ、どうしよう、わしにできることはなんだ?
ああ、ぜんっぜん思いつかない
前世では義経さま、現世ではまみりんや演出さんの言うままに動くだけで楽してたからいけないんだ
「アイラは新体操できるよね、ムービーでやってたネタでいいからお願い
るる&るなは例の双子ミニコント、できたらモノマネも、あれ評判いいから
BKは薙刀持って来た? あれなら3分くらい伸ばせるでしょ」
「大丈夫、いくらでもできる」
「そんなに長くやったら飽きちゃうわ、あの技は出し惜しみしなさい、5分まででいい」
「わかったわ」
申し訳なさでいっぱいのはずなのに、胸が躍る
戦場のギリギリ感と命を削る音が聞こえる
もちろん今の世で命を賭けることなどないが、あの一ノ谷の崖から飛び降りたときのすべてを預ける覚悟に似ている
そしてまみりんは笑っていた、このピンチを楽しむかのように
でも、何かが違う
「照明さんや音響さんにプログラム変更を伝えて、自動制御を5分ずらすか手動で」
「了解」
スタッフがインカムであちこちに連絡し出した
「BK!」
まみりんが最後にわしに言った言葉
「スタッフさんに迷惑かけるから、あんたのボーナス減るわよ」
ジョークのつもりなのか、本当にギャラの計算したのか、この状況でクレバーすぎる
義経さまのタガが外れたはしゃぎっぷりとはどこか違う
(こらっ、何を考えてるのよBK)
わしは自分を叱咤した
そんなことを考えている場合じゃない
まみりんを、そして私たちのステージを守らなくちゃ
ここが私の戦場だもの




