00. 序あるいはプロローグ
轟轟たる音と紅蓮の炎をあげ、衣川の館は燃え落ちんとしていた
兄に疎まれすべてに絶望した源義経のまさに尽きんとせん命の炎、そして奥州平泉に君臨した藤原氏の終焉を告げる断末魔でもある
義経の腹心・武蔵坊弁慶は義経が自害する時間を稼ぐため、館の門の前に立ちはだかっていた
その周囲には敵方の死体が累々と重なり横たわっている
泰衡どの
恨みはしておりませぬ
我らの命によって平泉の地に太平が訪れるのであれば本望でござる
3尺5寸(約106㎝)の大薙刀「岩融」をドンと打ち据え弁慶は雄たけびを上げた
「小童ども、ここは一人たりとも通さん!」
数十本の矢が飛び、弁慶の身にぶすぶすと刺さったが破顔一笑
ハリネズミのようになった巨体は微動だにせず、その双眸はカッと見開かれている
「あ、あれは!」
「まさに鬼神じゃ」
敵方は皆、恐れおののきひれ伏したという
これが世に言う弁慶の立ち往生である
(諸説あり)
ああ、義経どの、愛しい経さま
我が生涯に一片の悔いなし!
共に冥府にまいろうぞ!
■衣川の戦い
源義経が藤原泰衡によって討たれた戦い。泰衡は源頼朝に屈服する形で匿っていた義経を裏切ることに。
義経は一族郎党すべて討ち死にまたは自害という悲惨な最後だった。
泰衡は結局、頼朝に討たれ奥州藤原氏は滅亡する。その首は中尊寺金色堂に納められた。