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元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第3章(6)守護者攻略、四色の闇司教モダン

作者: 刻田みのり

「……」


 気がつくと俺はポゥの背中の上に寝ていた。


 どうやら今は飛んでいないようだ。ほっとしながらあたりを見回す。


 景色は変わっており大森林の中には違いないのだろうがもう石塚は無くその代わりに古ぼけた教会が申し訳程度の広場の前に建っていた。


 所々に穴や痛みのある壁。窓は乱雑に板が打ちつけられ扉は閉ざされている。


 屋根の上にある聖印はウィル教のものではない。ただ俺のおぼろげな記憶によればとある魔神を信奉する教団がこんな聖印を掲げていたような気もした。


 あくまでも「気もした」ってレベルだけど。


 かなり前に親父から聞いたような……いや、お嬢様からだったかな?


「ラキアさん」


 先にポゥから降りていたらしいイアナ嬢が教会を見ながら、同じくポゥから降りて両手を腰に当てて背伸びしているラキアに尋ねた。


「あの教会に次の増幅装置があるの?」

「たぶんね」


 腰のあたりをとんとんと叩くラキア。年寄りくさいぞ。


 あーそっか、こいつ古代紫竜(エンシェントパープルドラゴン)だもんな。何千年も生きているウルトラ級のご長寿だもんな。見た目は若くて綺麗でも中身は……うん、歩く年齢詐称だよな。


 とか思っていたら睨まれた。何故バレた。


「ジェイ、お目覚め?」

「いろいろつっこみたいがとりあえず一つ」


 俺は少しよろけつつポゥから降りた。起き抜けだしちょいよろけてしまうのはしょうがない。


「どうやって俺を眠らせた? 俺は致死以外の状態異常を無効にできるんだが」


 ポゥに乗って移動することに拒否反応を示した俺はラキアによって強制連行されてしまった。これ酷くね?


 つーか、俺眠らされたんだよね?


「おやすみ」とかラキアも言ってたし。


「ジェイ、これでもアタシ一応古代紫竜(エンシェントパープルドラゴン)なのよぉ」


 ラキアがフフンと鼻を高くした。何かムカつく。


「状態異常無効を持つ相手への対抗手段くらい持ってるわよん」

「え」


 何それ凄い。


 でも、口に出して言うと増長しそうだから黙っておこうっと。


「わぁ、ラキアさんって商人だけじゃなくて学者でもあるんだ。通りで物知りな訳ね」

「ふふっ、もっと褒めていいのよん♪」

「……」


 イアナ嬢。


 またご都合主義とか認識阻害とかが働いたのか?


 どうして古代紫竜が商人とか学者になるんだよ。


 それに話がいまいち噛み合ってないぞ。


 ああもう、これはあんまり深掘りしない方がいいな。


 何だか面倒になってきて俺は話題を変えた。


「で、俺たちはこれからあの教会の中に入るんだな?」


 視線の先には廃れた教会。


 扉が閉まっているがこじ開ければどうとでもなるだろう。


 とか思ってたらゆっくりと開き始めた。ゴゴゴ……とか不穏な擬音が聞こえてくるよ。扉の開く音自体は何もしなかったのに。


「……」


 ちょい待て。


 あんな見るからに古そうな教会の扉が無音で開くか?


 それっておかしくないか?


 新築の教会だって音がしそうじゃないか?


 じゃなくて!


 廃教会だってのに誰かいるのか?


 ま、まあ増幅装置の守護者(ガーディアン)がいるかもしれないんだよな。つーことは誰かはいるかもしれない訳で


 その「誰か」が人間じゃないかもってのがアレだよなあ。


 戦えというなら戦うけどさ。


「あたしたち誘われてる?」

「誘われてるわねぇ」


 イアナ嬢とラキア。


 ポゥが身体のサイズを元に戻してイアナ嬢の肩へと飛んだ。


 教会から注意を逸らさぬままイアナ嬢がポゥを肩から自分の片腕の中へと移して抱っこする。ポゥポゥ鳴くポゥのお腹を撫で、表情がちょっと緩んだ。


 あ、もふもふいいなぁ。


 じゃなくて!


 それどころじゃないよな。気を引き締めないと。


 扉の奥は暗くなっていて中を窺い知ることができない。建物の規模はそんなに大きくないが妙に奥行きがあるような気がした。中が見えないのに何故そう思えたのかは謎だ。


「中から誰か出て来るわよん」


 ラキアが指差す。


 その言葉通り紺色の法衣を着た痩せた男が滑るように中から現れた。不健康そうな青白い肌の男だ。


 髪の色は濃い緑色で髪の毛というより植物のようでもある。


 て、あれうねうねとうねってないか?


 身体も地面からちょい浮いてるし。


「これはこれは、当教会に訪問者とは」


 男がにこやかに話してくる。


 すうっと男の右肩に三角形の何かが出現した。


 きらきらと水色に光る三角形だ。お嬢様が以前教えてくれた正三角錐って形だろうか。ちょい自信が無い。


 一辺の長さがどれも同じで四つの面がある。水色に煌めいていて時々くるりと面の位置を変えているのだが……あれは何なんだ?


 正三角錐がチカチカと点滅した。


「ヒップホップ、そういう下品なことを言ってはいけませんよ」


 男が正三角錐をたしなめるが俺には正三角錐の声が聞こえなかった。つーか、あれって喋ってたのか?


「あの」


 イアナ嬢が一歩前に出た。


「こちらは何を信仰する教会ですか? あたしたち他所から来たもので」

「……」


 イアナ嬢。


 お前、何でそんなこと訊いてるんだよ。


 あいつ絶対に怪しいぞ。


「こちらは偉大なるジグ様を深く信仰する場所です。為すべきことを為せ、為したいことを為せ。それがジグ様の御教義です」

「ジグ様?」


 イアナ嬢の頭に疑問符が浮かんだ。


「あたし初めて聞く名です。邪教ですか? そのジグ様ってクソみたいな邪神ですか?」

「……」


 イアナ嬢。


 お前、あの人にケンカ売ってるのか?


 男の顔から笑みが消えた。


 ゴゴゴ……という擬音がまたしているような錯覚。錯覚だよな?


「ポゥちゃん」


 ラキアが俺たちにだけ聞こえる小声で言った。


「いざとなったらあなたは逃げちゃっていいわよん」

「そうね。でもその前に魔力増幅をお願い」

「ポゥ」


 ポゥが片翼で器用に敬礼した。こいつこういうこともできるのか。


 正三角錐が男の肩の上でくるくると回る。


 男が告げた。


「我らが主ジグ様を侮辱するとは……生きて帰れると思わないでください」

「あ、そういうのはいいから」


 ひらひらと片手を振ってイアナ嬢がつまらなそうに返す。


「もしかしたらウィル教の分派かなとか思ったから確かめただけだし。そうじゃないならもうあんたらに用はないわよ。だ・か・ら」


 ポゥが空を舞い、光の粒子を散布する。


 相変わらず光の粒子の消える早さがシビアだ。この大森林の影響はなかなかきついな。


「クイックアンドデッド!」


 両手を腰から前に突き出す動作をし、イアナ嬢が能力を発動させる。


 一瞬で光りが男の首を捉えた。おおっ、まぐれかもだがやったぞ。


 切れ味抜群の光に切り落とされた男の首がコロリと本人の足元に転がる。


 正三角錐がチカチカと点滅した。それが何かを言っているのか何の意味もないものなのか俺には判別できない。


 ただ……。


「天の声は聞こえないな」

「そうねぇ」

「ポ、ポゥ」


 俺、ラキア、そしてポゥ。


 あってもおかしくない天の声によるお知らせが聞こえてこない。


 俺たちの反応が期待通りでなかったからかイアナ嬢が目を吊り上げた。


「ちょっと何よ、あたしが敵を倒したんだから少しは讃えなさいよ」

「いや、そうかもしれんが」


 俺。


「一撃なのは良いけどなーんか盛り上がりに欠けるわよねぇ」


 ラキア。


「ポゥ」


 ポゥは明後日の方に向いてしまっている。あ、こいつ逃げたな。


「わはははは」


 突然、男の笑い声が聞こえた。


 やけにエコーがかかっている。ちょい不気味だ。


 声の主は切断された男の頭だった。あれ、そういやこいつ首を斬られたのに出血してないぞ。


 もしかして、こいつやばい?


「偉大なる主ジグ様に使える闇司教(ダークビショップ)のモダンとは私のこと」


 頭を斬られたのに倒れなかったモダンの身体が偉そうに自己紹介した頭を拾う。


 そして、何事も無かったかのように首に載せた。


 正三角錐がチカチカと点滅する。


「ヒップホップ、そういう卑猥な言葉を発してはいけませんよ」

「……」


 えっ、あいつ何て言ったの?


 気になる。


 ザクッ!


 モダンの顔面に円盤が食い込んだ。


 イアナ嬢が投擲したようだ。


 おや? オールレンジ攻撃よりコントロールがいいんじゃないか?


 ま、まあポゥの魔力増幅がなければそもそもオールレンジ攻撃もできないものな。


 せっかくポゥが光の粒子を撒いてもすぐに消えちゃうし。


 難儀だなぁ。


 とか俺が思っている間にもう一枚の円盤がモダンの首の根元に刺さった。クリティカルヒット。


 ……のはずなんだが。


「それでお終いですかな?」


 モダンが目を鋭くさせながら笑んだ。


 ゆっくりと右手を伸ばしてイアナ嬢を指差す。


「では、死になさい」


 俺は咄嗟にダーティワークを発動させた。


 その身体強化を活かしてイアナ嬢へと走り、彼女を抱えてその場を離脱する。


 一瞬遅れてからイアナ嬢のいた位置に地面から巨大な刺が突き出た。もしあのままイアナ嬢がいたら串刺しにされていただろう。


「……」

「……ジェイ、ありがと」


 イアナ嬢の顔が引きつっていた。やむなし。



 **



「……」

「……」


 闇司教(ダークビショップ)のモダンの攻撃を避けた俺たちは数秒見つめ合ったがすぐにイアナ嬢が目を逸らした。


 さっきまで顔を引きつらせていたのに今は顔を真っ赤にしている。


 俺が何かして怒らせてしまったのだろうか?


 お姫様抱っこ(横抱き)で抱えているのがいけなかったとか?


 横抱きにしないで縦にするべきだったのかな?


 うーん、それだとちと運び辛いんじゃないかなぁ。


 かといっておんぶとか肩に乗せるとかは何か嫌だし。ジュークやニジュウみたいなお子様サイズならまあ良いかってなるんだけどさ。


 それにしてもイアナ嬢って案外軽いんだな。すげぇ食いまくっているからその分体重に反映されていると思ったのに。


 とか思っていたらグーで殴られた。何故だ。


「いつまであたしを抱えてるのっ。早く放しなさいよ、この変態っ!」

「……」


 わぁ、釈然としねぇ。


 だが、とりあえず今はイアナ嬢の要望に応えられそうもない。


 俺は彼女を抱える腕の力を緩めるどころかむしろ強めてその場から跳躍した。


 俺たちのいた位置に緑色の巨大な茨が地中から飛び出す。食らってたら二人纏めて串刺しコースだ。


「小癪な真似を。大人しく死になさい」


 モダンの足下に緑色の魔方陣が現れる。


 教会の前に無数の巨大な刺が突き出た。どれもこれも凶悪な鋭さのある刺だ。あんなもんに刺さったら間違いなく痛いじゃ済まない。


 ラキアがいる位置も刺が出て来たが何故かラキアを避けるようにくにゃりと曲がった。あれか、またラキアが何かしたのか?


「ふふっ、アタシにこんなのは効かないわよん」

「おいっ、余裕こいてるんなら少しは戦え」

「ええっ、嫌よぉ。アタシ先頭なんて乱暴なことできるキャラじゃないしぃ」

「ジェイ、ラキアさんは商人なのよ。無茶言わないで」

「ポゥ」


 ラキア、俺、イアナ嬢、そしてポゥ。


 ラキアにはもう刺の攻撃が行かないのに俺とイアナ嬢にはしつこく刺が襲ってきている。すげぇめんどい。


 俺は跳躍しているうちに崩れかけたお姫様抱っこを抱き直した。この方が動くには楽だからだ。


「ちょっと、いい加減降ろしなさいよ。変なところ触ってるんじゃないわよ!」

「こら、暴れるな」


 ぎゃあぎゃあやりながらも巨大な刺を避けまくる。


 だが、ただ避けているのではない。回避しながらモダンへと接近しているのだ。


 イアナ嬢を降ろせばもっと素早く動けるのだが刺が頻繁に飛び出してくるのでどうにもタイミングを見つけられない。彼女一人にして串刺しにされたんじゃ堪らないからな。


 けど、ぼうっとお姫様されても癪だなあ。


「イアナ嬢、その態勢のままで円盤を使えないか?」

「ポゥちゃんに魔力増幅してもらえたら何とか」


 俺は連続で刺を躱すとさらに突き出てきた刺を右足で蹴り飛ばした。その反動を利用してモダンのいる教会入口へと迫る。


「ポゥちゃん」


 イアナ嬢の声に応じたポゥが宙を舞い光の粒子を撒く。


 キラキラと光が広がるが薄まっていく勢いが早い。


「クイックアンドデッド!」


 イアナ嬢が叫び、俺たちの傍の空間から二つの光が飛んだ。


「……」


 て、あれ?


 イアナ嬢、発動の動作をしてなかったぞ。


 あの「腰からまえに手を突き出す」動きは何なんだ?


 それに僧服の袖口からの発射じゃないし……あれ?


 そう疑問に思っている間に光りがモダンの右耳と左腕を斬り落とした。


 ああ、今回は斬首できなかったか。


 ポゥの魔力増幅が終わり遠隔操作できなくなった円盤が地面に落ちた。


 正三角錐がチカチカと点滅する。


「ええ、わかってますよ。だからそんなふうに口汚く罵らないでください」


 モダンがそう言って顔と首に刺さった円盤を抜いた。


 無造作に後ろに投げ捨てると身を屈めて斬られた左腕を拾う。


 モダンが切断面を合わせた。


「オラァッ!」


 お姫様抱っこされたままのイアナ嬢が円盤を投擲する。


 ちょっと不安定な姿勢で踏ん張りもきかないはずだがそれはまあいい。


 つーか、イアナ嬢。


 その気合いの一声はどうなんだ?


 すげぇ次代の聖女っぽくないんだが。


 お前、やっぱ女戦士か僧兵なんじゃないの?


 円盤がモダンの額のあたりに命中する。


 と、そのまま勢いを失わずにスパッと額から後頭部へと通り抜けた。上の部分が滑るように落ちる。


 出血はない。


 それどころか肉片すら飛び散らない。


 けど、切断面にはちゃんと中身が見える訳で。


「うわっ、気持ち悪い」


 イアナ嬢がドン引きしている。


 まあ、これは出血とか肉片ブシャーとかされても引いたんだろうなぁ。


 俺も冒険者やってて多少は慣れてるけどあれはあれでなかなかきついし。


 正三角錐がチカチカと点滅する。


「そうですね。そろそろこの身体も限界ですか?」


 突然、モダンが崩れるように倒れた。


 見る間に風化していく。異常だ。


「はぁ?」

「え、何よあれ」


 俺とイアナ嬢が驚愕している間にモダンだった物はその紺色の法衣ごと消えていく。あれだ、風化どころじゃなかったよ。


 残されたのは正三角錐のみ。


 俺はよくわからぬまま廃れた教会の入口に足を踏み入れていた。視界にあるのは礼拝堂。奥手に祭壇があり左右に長椅子が列を成して並んでいる。もちろん俺はイアナ嬢をお姫様抱っこしています。


 ま、刺の攻撃が止んだからすぐに降ろしたけどね。


 それでも油断はしていない。


 正三角錐……じゃなくてヒップホップもいるし。


 手を伸ばせば届く位置にヒップホップ。


 俺は即座に拳を握った。


 この身に宿る「それ」がここぞとばかりに煽ってくる。


 怒れ。


 怒れ。


 怒れ。


 モダンが倒れたがあの天の声は聞こえてこない。


 そもそも先頭開始の合図すらなかった。


 おかしいとは思うものの、だからといって目の前の敵は放置できない。


「ウダァッ!」


 俺はチカチカと点滅するヒップホップの一面をぶん殴った。正三角錐の面はどれも同じに見えて正面なんて区別できない。


 ま、動けなくなるまで殴る分にはどこが正面とかはどうでもいいか。


 手応えはあった。


 材質は不明だが金属のような完食。黒い光のグローブで拳を保護していなければダメージを負っていたかもしれない。


 ヒップホップが激しく発光し弦楽器のような高音が耳をつんざく。これがこいつの声か?


「ウダダダダダダダダ……ウダァッ!」


 ラッシュを浴びせ、最後に渾身の力でぶん殴る。


 高音を鳴らすヒップホップがふっ飛んで教会奥の壁に飾られた聖印にぶつかった。木製だったのかあっけなく聖印は粉々になる。


 床に落ちたヒップホップに外見的なダメージが見受けられないが大分弱ったようには思えた。


 てか、こいつ攻撃してこないな。


 ただのおまけってことはない、よな?


「わはははは……」


 俺がヒップホップに近づこうとした時、男の高笑いが聞こえてきた。やけにエコーがかかっているのだがこれって礼拝堂の中だからか? そういうことにしておこう。


 それにしても、この声。


「あいつ、まだ生きてたの?」

「悪魔だったか」


 モダンが悪魔ならこの不死身さもうなずける。


 悪魔は核となる魔石を破壊されない限り何度でも復活できるからな。


 そう、たとえ首を斬られようと奴らは死なない。


 よろよろと浮かび上がるヒップホップの隣に砂が舞った。


 砂はだんだんと紺色と緑色を帯びてその色を濃くしていく。高笑いも続いているがそれは無視。うるさいけど止めろと言って止めるとは思えないし。


 さて、こいつの魔石はどこだ?


 あまり長期戦にならない内に片づけたいものだな。


「そんな再登場を大人しく待つ訳ないでしょうがッ!」


 イアナ嬢が収納からメイスを取り出して特攻する。


 おいおい、どうしてそう好戦的なんだよ。


 少しは待ってやれよ。こういうのは待ってやるのがお作法だぞ。


 なーんて、俺も銀玉を準備していたり。


 ただ、こいつの魔石の位置がわからないんだよなぁ。


 イアナ嬢がモダンに接敵してメイスを振るう。


「オラァッ!」


 モダンが手でガードしようとするがメイスはその手ごとモダンの上半身を粉砕した。


 て。


「……」


 あれ、あいつ弱い?



 **



 イアナ嬢のメイスの二発目でモダンは崩壊。砂となりやがて消えていった。


「よし、悪魔は滅んだっ」

「……」


 いやいや、滅んでない滅んでない。


 イアナ嬢、奴の魔石はまだ砕いてないぞ。


 ガッツポーズするイアナ嬢に俺は無言でつっこむ。声にしないのは優しさです。


 だって、あんなめっちゃ弱い敵を倒したくらいでいい気になってるんですよ。微笑ましいじゃないですか。クスクス。


 ま、どうせすぐにあの敵は復活するんだろうけど。


 ああいう敵は面倒くさいなぁ。


 そう思いながら俺はヒップホップの動きを観察する。


 ヒップホップがゆっくりと浮かび始めた。


 よろよろと上昇する正三角錐を少しだけ長め、俺は収納から銀玉を出して投げつける。


 避けようともせずヒップホップは銀玉を食らい背後の壁にぶつかってから落ちた。チカチカと点滅しているが俺にはそれが何を意味しているのかよくわからない。でもたぶん口汚く罵っているんだろうなぁ。


 ラキアが教会の入口から声をかけてきた。


「アタシはともかくポゥちゃんは本当に危ないからここから先はあんたたち二人でやりなさいね。まあ、イアナちゃんはここの奴と相性がいいみたいだからジェイに出る幕はないかもだけどぉ」

「ポゥ」


 ラキアの頭に泊まったポゥが片翼で敬礼する。


 イアナ嬢が親指を立てて応じた。


「任せて。こんな奴が相手ならどれだけ現れてもあたしがやっつけちゃうんだからねっ」

「……」


 あ、こいつ調子に乗ってるな。


 何かムカつく。


 それと、とラキアがちょい楽しげに付け加えた。


「あの正三角錐、たぶん空気中に毒を撒いてるわよ。それも即効性じゃなくて遅効性」

「ほほう」

「ええっ、何それ。すっごく姑息。あたしたちじゃなかったら絶対やばかったでしょ」


 俺はなるほどとうなずいたがイアナ嬢はどうやらお気に召さなかったようだ。


 彼女は鋭い視線をヒップホップに投げつけるとびしっと指を突きつけた。


「汚い手を使って勝とうだなんて、そんなことして恥ずかしくないの?っ。」

「まあその何だ」


 俺はイアナ嬢の横に立った。もちろんいざという時に自分たちの身を守れるよう最大限の警戒も忘れない。


「あんたの毒がどの程度のものかは知らないがそう易々殺られる俺たちじゃないぞ」


 ヒップホップがチカチカと点滅する。



『そうですね、どうやら本気で相手をした方が良さそうですね』



 礼拝堂中にモダンの声が響いた。やっぱ悪魔はしぶといな。


 俺は拳を握り治す。


 まあいい、せいぜいその本気とやらを見せてもらおうじゃないか。


 イアナ嬢がメイスを振り上げる。


「最初から本気で来なさいよ。あんたたちみたいな弱っちい奴らを相手にしていられる程あたしたちは暇じゃないんだからねっ!」

「……」


 イアナ嬢。


 お前、マジで調子に乗り過ぎだぞ。



『……』



 ほーら、モダンが黙っちゃったじゃないか。


 どうするんだよ。このままこいつが姿を見せなくなったら探さないといけなくなるぞ。


 そういうめんどいのは勘弁して欲しいんだがなぁ。



『ふははははははは!』



 突然、礼拝堂中にモダンの高笑いが響いた。むっちゃうるさい。



『ならばお望み通り本気でかかることにしましょう。もう泣いて命乞いをしても無駄ですよ』



「そういうのはいいからさっさとかかってきなさい。ま、どうせあんたたちの負けは決まってるんだけどね」


 イアナ嬢の挑発が酷い。


 ドドドドド……。


 そんな擬音がしそうな魔力の波動が床下から伝わってきた。


 その明らかにこれまでとは異なる質感の魔力が元々古くなっていて壊れやすかった長椅子や祭壇を粉微塵に破壊していく。


 壁や天井が壊れたりしないかと心配にはなるがどうやら礼拝堂の中だけで留めるつもりらしくこの魔力の動きは範囲指定がされているようだった。


 礼拝堂の床のあちこちに砂が集まっていく。


 それらは緑色と紺の色を纏いながら人型へと変化していき最終的には紺色の法衣を着たモダンの姿へと化していった。


 どいつもこいつも緑色の髪の毛がうねうねしていて気色悪い。


 うん、さっさと片づけよう。


 量産されたモダンが一斉に俺たちを指差してくる。


 その内の一体は教会の入口のすぐ近くでちょっと手を伸ばせばラキアに届きそうな位置にいるのだが、それでも指を向けているのは俺たちの方だった。おい。


 ラキアがニコリとする。


「ジェイ、イアナちゃん、頑張ってねん♪」

「……」


 な、納得いかねぇ。


 つーか、おいコラ。


 そこの量産型モダン、お前少しは根性入れて自称商人を襲うとかしろよ。


 まず勝てないだろうがめっちゃラッキーなクリティカルが生じたら掠り傷の一つくらいはつけられるかもしれないぞ。


 あ、うん、すまん。それだけだった。やっぱ勝てないな。


 あいつに手出ししたら死ぬ。なら相手にしない方がいいか。


 とか思っていたら全員でこっちに飛びかかってきた。うぉい!


「さて、やるわよ」


 イアナ嬢が不敵に笑んでメイスを握り直す。


 俺は一つため息を吐き……。


 収納から銀玉を出しては投げ出しては投げを繰り返した。

「ウダダダダダダダダッ!」


 相手は悪魔。

 魔石を砕かなければ何度でも復活できる厄介な存在。


 それはわかっているがとにかく今は全てぶっ倒さなくてはならなかった。でないと殺られるのはこっちだからな。


 イアナ嬢もブンブンメイスを振り回して量産型モダンをぶちのめしている。


 こいつらやたらと弱い。


 数が多いのが面倒だがそれだけとも言えた。これなら教会の外での巨大な刺攻撃の方が遥かに脅威だった。


 何でここ(礼拝堂)であの攻撃をしてこないんだ?


「……」


 俺はちらと床に目をやった。


 さっき感じた魔力。


 ……まさか。


 途中からぶん殴る攻撃に切り替えて俺は量産型モダンを片づけていく。


 最後の一体を撃破すると俺はイアナ嬢に告げた。


「この下に何かいるかもしれない」

「え?」

「礼拝堂に入ってから巨大な刺の攻撃をしてこなくなった。おかしいとは思っていたんだ。その気になれば幾らでもあれで襲うチャンスくらいあったはずだからな」

「この下に……いるの?」


 イアナ嬢が床に視線を落とした。


 俺はうなずき、身を屈めて右手で床に触れる。


 俺には有効範囲を示すように床が赤く光って見えていた。ご丁寧に淵の部分が濃い色で点滅している。


 前に使った時とは少し見え方が違うように思えたがどうやらミスリルゴーレムに対して使用したことで能力の熟練度が上がっていたようだ。この点は嬉しい。


 こうしている間に全て倒したはずの量産型モダンがまた復活しようとしている。


「イアナ嬢、あいつらの砂を収納できるか?」


 俺にはそれをやる余裕がない。


 だが幸いなことにイアナ嬢も収納持ちだ。こっちは彼女に任せても問題ないだろう。


「たぶんあの砂が奴らの身体を作る材料になっているはずだ。だから」

「あの砂をどけてしまえばいいのね。了解」


 イアナ嬢がメイスを片手に走り出す。お、走りながら収納か。やるな。


 よし、じゃあ俺も頑張りますかね。


 俺は右手を床に触れさせたまま分解の能力を使った。


 有効範囲の床がごぼっと音を立てて崩れる。


 と、同時に粉砕した長椅子や祭壇が崩壊に巻き込まれて下に落ちていった。かなり深いらしく底の方は見えない。


 教会の遺体安置所とか地下墓地の類だろうか。


 そんなふうに推測しているとぼんやりと底の方で何かが光った。何か丸い物だ。


 球体ではなかった。たぶん平面。


 ということは?


「オラァッ!」


 イアナ嬢の気合いの一斉に思わずビクッとしてしまった。おいおい、こっちは考え事してたんだから邪魔するなよ。


 そんな文句が喉まで出かかったのをどうにか飲み込みイアナ嬢を見ると、彼女は復活したモダンをメイスで殴打していた。滅多打ちである。モダンに抵抗する素振りすらないし、これもうもはや弱い者いじめなんじゃね?


 砂に還ったモダンの残骸(?)をイアナ嬢が勝ち誇った表情で収納する。


「はい終わり。楽な相手だったわね」

「……」


 イアナ嬢。


 まだ終わってないぞ。


 むしろ、これからが本番だ。



 **



 分解の能力で開けた穴から地下へ侵入。


 後ろからヒップホップが追ってきたのでとりあえずぶん殴ってから捕まえた。チカチカと点滅しているけど気にしない気にしない。


 礼拝堂の穴から降下する時、イアナ嬢にヒップホップを抱えてもらい俺は彼女を後ろから抱いていた。多少の段差ならともかくイアナ嬢には厳しい深さに見えたからな。


 いやぁ、お姫様抱っこをしようとしたら顔を真っ赤にして怒ること怒ること。そんなに俺にお姫様抱っこされるのが嫌だったのか?


 ちょい傷つくなぁ。


 なお、現在進行形で降下中。この地下むっちゃ深かったよ。


 何だか落下速度を軽減する魔法みたいな感覚があって落ちていく速さはかなりゆっくりだった。


 ひょっとしたら礼拝堂と地下との高低差があり過ぎるために何らかの安全措置のようなものが施されているのかもしれないな。


 なんて、あんな方法(床ぶち抜き)で地下へと降りようとする奴がそうそういる訳ないか。


 それにここは魔力吸いの大森林の中だ。仮に何らかの魔法がかけられていたとしても十全に効果を発揮できるとは思えない。


 つーか使えるんならとっくに飛翔の能力を使ってるよ。


 どうせ無駄だし、無理に試した挙げ句失敗して墜落……とか洒落にならないからなぁ。


 ま、それはそれとして。


「イアナ嬢、どうだ? そいつおかしなことしようとしてないか?」

「うーん」


 と、イアナ嬢。


「なーんか内側からキュイキュイ小さな音がするけどそのくらい? 点滅してるからまだ怒ってるんだとは思うけど」

「ラキアの話だと毒を撒いてるようだが」

「今は撒いてないみたい。でもあたし毒が効かないしジェイもそうなんでしょ?」

「ああ」


 俺はファミマから祝福を授かっているお陰で致死以外の状態異常を無効にできる。


 イアナ嬢も女神の指輪の高価で状態異常を無効にしているし、王都でネンチャーク男爵こと悪魔ジルバと戦った時に大量の経験値と熟練度を獲得して成長しているので毒でやられる心配など微塵もなかった。


 てか、俺たち地味に凄くね?


 まあ、俺としてはお嬢様を守ることが一番だからそのための強さを得るのはウェルカムだよな。


 高音が鳴って俺は耳を塞ぎたい衝動にかられた。


 でも我慢。そんなことしたらイアナ嬢を落としてしまうしな。


 イアナ嬢も堪えたのかヒップホップを両手で捕まえたままだ。


 こいつ、さては俺たちに毒が効かないことに怒っているな。ふふっ、残念でした。


「ジェイ、こいつ捨てていい? うるさ過ぎて耳がやられそう」

「待て。どうせ大したことはできないだろうが放っておいて邪魔をされても困る」

「ううっ、こいつうるさい。あ、消音結界で封じよっかな」

「いや結界て。お前そんなの張る余裕あるのか? すげぇ大変だぞ」


 俺が森の中で結界を展開した時はかなり苦労した。何せ魔力吸いの大森林の影響を受けまくっていたからな。


「あによ、やってみなきゃわからないでしょ……て、あ」

「どうした?」

「こいつ、あたしが結界を展開しようとしたら色が変わったわ」

「はぁ?」


 イアナ嬢が見えやすいようにヒップホップを掲げた。しっかりと手で掴んでいるからかヒップホップに逃げる素振りはない。


 ふむ。


 確かにヒップホップの色が赤く変わっていた。これ、何か意味があるのか?


 訊いてみた。


「おい、お前何してるんだ?」


 ヒップホップがチカチカと点滅する。また罵倒か? 口の悪い奴だな。


 バチッ!


「きゃっ」


 一瞬の放電があり、イアナ嬢が手を放した。これ幸いと言わんばかりにヒップホップが飛び去る。


「な、何なのよあいつ。まるであたしの魔力を変換して電撃にしたみたいだけど」

「毒の次は電撃か。よくわからん奴だな」


 ヒップホップが俺たちと距離をとるとくるくると身体を回転させた。挑発か、挑発をしているのか?


 しかし、今の俺たちは降下中だ。少しくらいなら起動を変えられるかもしれないがヒップホップのいるところまで行くには飛翔の能力を使わないといけないだろう。


 うん、無理だね。今は飛べない。


「円盤でも当ててみる?」

「いやいい。連続で電撃を浴びせてくるというなら対処が要るがそうではないみたいだしな。それより、底が見えてきたぞ」


 暗闇の先にぼんやりと青白い魔方陣が浮かんでいた。


 周囲に明かりの類がないからか魔方陣の光だけが唯一の光源のようだ。


 床は黒く何かの石が敷かれているように思える。あんまりつるつるとした材質じゃなければいいが。着地した途端滑って転ぶなんて格好悪いしなぁ。


 つーか、礼拝堂に作った穴から木屑とかいろいろ落ちているはずなのだが……それらしいものはないな。


 はて?


 考えてみても答えが出ぬまま底に着いた。ちょいざらっとした感触の石の床だったから滑る心配はなし。無事着地です。良かった。


 あと、着地する直前に落下速度を軽減していた感覚が急に消えた。何だろうね、これ。


 まあ考えても仕方ないか。


 とりあえず底に着いたので早々にイアナ嬢を放す。何だか不満そうな目を向けてきたのだが、お前すぐに放さないと怒るだろ。


「……そもそもお姫様抱っこで押し通さない時点で駄目なのよね」

「……」


 おい。


 何が駄目なんだよ。


 お前、お姫様抱っこ(横抱き)にしようとした時に顔を真っ赤にして怒ったじゃないか。


 残念そうにため息なんてついてるんじゃねぇ。


 俺たちを追いかけるようにヒップホップが降りてくる。距離を保って警戒しているようだ。


 まあ、あんまりうざいようなら銀玉でもぶつけてやればいいか。それで少しは大人しくなるだろう。


 天井を見上げるがかなり高い。王都の城が縦に三つくらい並ぶ高さではないだろうか。


 広さもそこらの練兵場よりも広大だ。


 いつ、誰が、何の目的でここを作ったのかはわからない。それにこれだけの場所を作るのにどれだけ大変だったか想像するのも難しかった。


 警報音とともにあの天の声が聞こえてくる。


 て、このタイミングでかよ!



『警告! 警告!』


『魔力吸いの大森林エリア・廃教会地下にて中ボス「四色の闇司教モダン」戦を開始します』


『勝利条件 四色の闇司教モダンの撃破』

『完全勝利条件はありません』

『敗北条件 ジェイ・ハミルトンと次代の聖女イアナ・グランデの戦闘不能』



『ジェイ、イアナさん、頑張ってくださいね』



「……」


 最後だけお嬢様の声になっていたな。


 ま、まあ似ていたってだけだが。お嬢様の声のはずがないもんな。


 うんうん、気のせい気のせい。


 ……などと俺が自分に言い聞かせているとイアナ嬢がじっと僧服の袖口を見つめていた。


「ん? どうした?」

「ここ、魔力が吸われてないかも」

「はぁ?」


 俺は試しに銀玉を一個操ってみた。


 収納から飛び出した銀玉が俺の思うように上下左右前後と動いていく。


「……」


 一応、小規模の結界も展開。


 俺の体外に放出した魔力はどこかへと流れて行くことなく正しく作用して結界を形成した。


 てことはあれか、さっきの落下速度の軽減もやっぱり何らかの魔法だったってことか?


 わぁ、それなら飛翔の能力で降りられたのに。何だよ、そうならそうと誰か教えてくれよ。天の声でとかさぁ。


 まあそれはそれとして。


「……」

「……」

「……勝ったな」

「……そうね」


 俺たちは互いに見合いうなずいた。


 周囲に魔力が満ちる。


 空気が震え、空間が大きく歪んで巨漢の冒険者の胴体ほどある太さの触手が伸びてきた。触手は毒々しい感じの緑色でできればあんまり触りたくない。


 俺とイアナ嬢が左右に分かれて飛び退き、いなくなった位置に触手が打ちかかってくる。振り下ろされた触手が床に叩きつけられ、衝撃であたりが激しく震えた。


 イアナ嬢が両手を腰に当て、素早く前に突き出す。


「クイックアンドデッド!」


 二つの光が触手の中ほどに斬りつけるが太過ぎて半分くらいにしか斬り込めない。


「ちっ」


 舌打ちするとイアナ嬢は触手に食い込んだままの円盤を高速回転させて強引に切断した。


 うねうねと切られた触手の前半分がのたうち、やがて砂と化していく。


 イアナ嬢がどうだと言わんばかりにニヤリとした。目つきのせいか悪役に見えたのは黙っておこう。



『ふはははは、その程度でいい気になるには早いですよ』



 モダンの声が嘲笑う。


 にゅるにゅると空間の歪みから何本もの触手が伸び、さらには本体と思しき超巨大な影が姿を現した。


 めりめりと音を響かせ、とても歪みの大きさでは通り抜けられないようなサイズの影が半ば強引とも呼べる動きでこちら側に出てくる。


 出現なんて言い方は適切ではないだろう。


 てか、あの触手は触手じゃなかったよ。


 そうか、蔦だったか。それにしてもデカいね。


 影が薄れその姿がはっきりとしてくる。


 赤・緑・白・黒と四色の花を不自然なまでに巨大な顔のまわりに咲かせたバラの化け物だった。顔を中心に十時を描くように上に赤、右に緑、左に白、下煮黒といった具合いに花が並んでいる。


 ちなみに顔は礼拝堂で戦ったモダンの顔をそのまま拡大したような造形だ。



『ふははははははは』



 モダンの高笑いに応えるように蔦に刺が生えていく。おい。


 冗談じゃないぞ。ただでさえ常識外れのサイズで毒々しい色なのにその上刺まで生えるのかよ。


 マジで触りたくねぇ。


 こりゃ、とっととボコって終わりにするしかないな。


 よし、速攻でサウザンドナックルだ。


 俺は収納から銀玉を……。


「クイックアンドデッドォッ!」

「はい?」


 イアナ嬢の叫びとともに四つの光が飛んだ。


「……」


 えっ?


 四つ?


 それに俺、サウザンドナックルでウダダダするつもりだったんだよ。


 派手にぶちのめしてやる気満々だったんだよ。


 なーんでそれを待ってくれないかなぁ。


 イアナ嬢の放った光が四つの花にそれぞれ命中し花弁を切り刻んでいく。



『ぬおおおおおお……』



 モダンが絶叫するが光の勢いは止まらない。


 やがて全ての花弁を切り裂いて花の中央に突き刺さるとさっきの蔦の時のように高速で回転して深く食い込んでいった。


 モダンが苦し紛れに何本もの蔦を振り回すが俺たちは当然全て回避。


 イアナ嬢のクイックアンドデッドでダメージを追って弱体化したモダンの攻撃にさしたる脅威などなかった。はいはい、お前はもう死んだね。バイバイ。


 一つまた一つと中心部を破壊し尽くされた花が枯れていく。



『おおおおおん……』



 どこにあったのかは詳しくわからないがどうやらクイックアンドデッドの攻撃で魔石を砕いたようだ。


 モダンの巨体が断末魔の叫びとともに滅んでいく。


 風化するように砂になっていく……て、このあたりは礼拝堂の時と同じなんですね。


「……」


 あれ、俺の出る幕なくね?

 

 

 


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