第8話「目覚めた者たち」
その夜――エルズフィアの各地で、異変は密かに連鎖していた。
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深い森の奥、月明かりが葉の隙間から差し込む静寂の空間。
そこに佇むのは、長い銀髪を背に垂らしたエルフの女性――ソフィア・グリーンリーフ。
彼女は大樹の根元で目を閉じ、自然の息吹とともに深く瞑想していた。
「……目覚めたのね。“第十三”が」
小さく呟くその声に、周囲の木々がわずかに震え、足元の草花が光を帯びて揺れる。
彼女の手元には、緑に輝く魔導核の欠片。古の力を秘めた“自然の記憶”。
それが――淡く光っていた。
「……また、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない」
ソフィアの目が、静かに決意を宿す。
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一方、山岳地帯の岩肌をくぐるように広がる鍛冶場。
金床に火花を散らせていたのは、筋骨隆々のドワーフの職人、グラム・アイアンハート。
「ん……?」
鍛造していたハンマーが急に共鳴し、カンッと異音を放つ。
驚いて炉の奥の石扉を開けると、その中に収められていた“鋼の魔導核”が、微かに脈打っていた。
「ちぃとばかし、騒がしくなりそうだな……」
グラムは厚い眉をしかめながらも、どこか懐かしげに空を見上げる。
そして彼は、棚の上に置かれた一枚の肖像画に目をやった。
それは、まだ幼かった頃の娘――ミラ・ノックスの若き日の姿。
「ミラ……お前にも、知らせておかにゃならんな」
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“第十三の魔導書”の目覚めは、静かに世界を動かし始めていた。
その力が、再び“核”を巡る争いの引き金となるとも知らず――