第7話「覚醒の光」
リリアの手の甲に浮かんだ金色の紋章は、まるで呼吸するかのように脈動していた。
その輝きは書庫の空間を照らし、棚に並ぶ古書たちが風に揺られたように微かに震える。
「これが……契約の証……?」
『ああ。君は今、私と正式に結ばれた“契約者”だ。これから君は、私の力を借りて魔導士として成長する』
リリアの視線が、その光に吸い寄せられる。
だが、同時に彼女の意識は、別の世界へと引き込まれていった。
――そこは、果てしない知識の海。
浮かび上がる無数の魔法陣、数式、構造式、古代文献の断片。
それらが、リリアの意識に洪水のように流れ込んでくる。
「これは……何?」
『これは、私の中に蓄積された知識の一部。だが、これはまだ“入り口”に過ぎない。』
その中で、ひときわ強く脳裏に焼き付いた言葉があった。
――“魔導核”。
そして、それを取り巻く“十二の光の宝石”。
(……魔導核? なぜか……懐かしい感じがする)
意識が現実に引き戻されたとき、リリアははっと息を吐いた。
「……すごい……これが、“契約”……」
『君には、“無限解析”の能力が備わった。それは、あらゆる魔法構造を見抜き、解析し、時には改変する力』
「改変まで……!? それって、すごすぎる……!」
『だが、気をつけなければならない。力を使うには代償が伴う。そして――』
そのとき、書庫の入り口の扉が唐突に開いた。
外で騒ぎを聞きつけた魔導士たちが、光と揺れに驚き、次々に入ってくる。
「誰だ!? 魔力反応が書庫から――」
「見習いか!? 何をした!」
慌てたリリアは、咄嗟にバッグを開けてレンを中へ滑り込ませた。
それはとても不自然で、しかし彼女にとっては当然のような動作だった。
『これが……私たちの物語の始まりだ。後悔は、ないか?』
リリアは、胸に手を当て、小さく、でも確かな声で答えた。
「ない! 絶対に!」
その言葉が、魔導書と少女の“絆”を、確かなものへと変えた瞬間だった。