8話 子供たちに対して名という者は
3人は窓から部屋の中を見ていた。たくさんの子供たちでにぎわっていた。急に心臓がバクバク震えてきた。すると、しょうあが肩をぽんっと叩いて
「よし、行くぞ」
ああ。少しリラックスできた。相変わらず頼もしい。なゆのは名の好きな笑顔でニヤリと歯を出してきた。
ガラガラ、ガラ ついにしょうあが扉を開く。冷静を保てるように意識して、少し笑みを残したまま部屋へ入ったのだ。なゆのは入ってすぐに後ろに向かう。
「初めまして。本日、皆さんの担当をする。松泡しょうあです。よろしくね」
おお、しょうあ、いかにも先生という姿だ。名は気づいたら教壇の前に立っていた。無意識にここまで来たいた。やっぱり、緊張する。特に大勢の前では。クラスでの発表でもそうだった。しょうあもこういうのは苦手だと思うのだが、
しょうあの横に立っている名の方を見て
「そして、もう1人。山柔ななとです」
「えっと、えー山柔です。以後お見知りおきを」
いや、そこは普通によろしくお願いしますだろ。結局、震えが止まらず、カッコをつけることもなく、少しオドオドした感じで自己紹介をしてしまった。さっきまで、あれだけおかしなことをしていたくせに。
会話というものはできれば1対1がいい。さっきは、ぜいぜい10人くらいだったから、まだ緊張の程度が弱かった。ただ、一気に増えるとパニックになってしまう。発表でも、クラスを半分に分けたらまだ良いのに、多くの先生はクラス全員の前でさせてきた。どっちの方がいいかは一目瞭然である。
入ってくるまでうるさくはないけれど、皆べちゃくちゃ喋っていたが、急に静かになる。これも怖いこと。 しょうあが声を出す。
「では、さっそく始めます。よろしくお願いします」
「お願いします」
大きな声でみんな挨拶する。
「今回、僕たち初めてということで、後ろにサポートのなゆのもいますので、っていうことで今日はまずこれまで習ったかたもじから復習をしていきます」
「はーい」
みんな真剣にしょうあの話を聞いている。こういう小さい子は大体ちょっと目立とうとする子や反抗する子だったりとかがいて苦労するのかと思っていたが、そんなことはなかった。皆良い子だ。
しょうあが口で説明して、名が黒板に書いていくスタイルで教えている。これはチョークだ。この世界にもこんな物があるんだと驚いていながらである。
子供たちの方を見てはいるけど、向かってしゃっべている訳ではないから、みんなからの目線がくることもなくて、緊張はしなくなった。しょうあが担当わけしてくれたおかげだ。ありがとう。
っていうか、きちんと先生として教えることができている。問題も起きずに。こんなこと自分にはできないと思っていたが。そして、なゆのはいつの間にか空いている席に座って学んでいた。名と目が合うとうんうんとうなづいてくれる。
濁点のつくかたもじを教えて、実習練習。名はしょうあと一緒に籍の間を通って正しい字が書けているからチェックしている。自分先生をしているとワクワクしながら歩いて回る。
これ、逆の立場だったら無茶苦茶嫌なやつだけど、いざこちら側に立つと、それぞれの様子や字の癖やきれいさが見えて面白いと感じた。
ちなみに、しょうあは苦戦している子の横についてお手本を見せて教えている。名もしてみたいが、困っている子は見当たらないし、そもそも勇気がでないので。
そんな名だが、字には自信がある。習字を習っていたからね。ある程度いいとこまで上がってたと思う。実際に周りかや上手だねって言われていた。しょうあもきれいだけど、名に比べたらまだまだかな。
そうして、1時間目が終わった。そして、2時間目は子供たち同志で今日習ったのを使いながら紙に書いた文章を交換しあい、それに対して話をつなげるような演習を行った。
名はうまく紙での会話ができていないところに行ってサポートをしている。2人に対して口を出して助けるような感じだから。緊張することなく、声を出せている。
ラスト、3時間目は相手に対して質問して答えたりしながら、紙に書いての会話やもう、普通に声を出しての演習を行った。なゆのも一緒に加わりながら楽しい空気になっていると感じた。すると、1人の子が名に対して質問してきた。
「先生はどんな魔法使えたりするの」
えっ、この世界は魔法が使うことができるのか。急に衝撃の事実が判明した。まさにゲームの世界のような自由な状態ということが。
っていうか、先生と言われた。ちょっと嬉しくなった。そりゃあ響きがいいし、よくわかんないけれど満足した。
もしかして、名も実際に魔法が使えるのかとこの世界での生活が今までにないくらい楽しくなってきた。しかし、名はどうやって使うことができるのか知らない。そもそも本当にちゃんと魔法は使えるのか。力や才能があるのか、どんなのが使えるのかと考えていると、
「ねえー、どうなの。ちなみにお父さんは立派な水魔法が使えるよ。とってもカッコいいんだ。町に魔物がでてきたときに真っ先に対峙しにいくんだ」
魔物もいるのか。っていうか、町に現れるの。ちょっと治安はよくないらしい。
って、名の答えを催促されている。
ただ、勿論だが使えるかどうか自体がわからない。さっきの反省で変に強気に出てしまうのは、もし万が一見せてと言われて、使うことができず嘘ついたと言われたら、信用を失われるどころか、恥でもある。ただ、当たり前だがいやー使えないよって言うのは絶対嫌だ。そういうときはこう言うのが正解だ。
「ああ、勿論使えるとも。それも人それぞれ感じ方はあるだろうがそれなりの威力が」
「ええ、本当?見せて、見せて」
まあ、そうくることは予想できていた。でも、今見せるわけにはいかない。だから、こう言う。
「今日は、ちょっとこの後予定があってね。次、ここにはいつ来る?」
「ええと、確か2日後。
「そうなんだあ。じゃあ、その日の授業後に見せてあげるよ。そこの広場で。それでいいかな?」
「うーん、わかったよ。絶対約束だからね」
今の名、すごく子供に対して優しく対応する、できるお姉さんのようだったなと感じた。意外にも子供の扱いが上手なのかもしれない。そんなことを考えていると、話しを聞いていた他の子も・・・
「見せて、私にも」
「僕も」
「俺にも」
部屋の中が盛り上がってくる。名のところに子供たちが集まり出し始めたのをしょうあが見てこっちに来る。
「ななと、どうしたの。何かあったの」
「あ、いやー・・・」
すると同じく話を聞いていたなゆのが、
「えっとー、ななともすごい魔法使いなんだけどお、えっと、わ、わたくしはさらに上になる魔法の者なのよ」
え、一人称、わたくし!どっかのお嬢様ですか。一体、どこでそんな言葉覚えたの。しかも、最後のいわゆるお嬢様口調。なゆのは確かにキャラが定まっていなかったが、こういう風に生きていくの?
勿論、話しの内容にも驚いたが、正直こっちの方が気になった。
「え、なゆの何言ってるの!」
しょうあは驚いている。
「先生は魔法使えるのってこの子が聞いたら使えるって言って、だから見せてもらおうと言ってたのに。そしたら快く許可してくれたの」
「ななと、ちょっと何言ってんの」
しょうあがそう言う。
「えっと、二人ともすごい人なの?あの、先生(なゆのの方を見て)も見せてくれる?」
なゆのは、うんうんとうなづきながら
「もちろん」
どや顔をしていた。ああ、また名の悪い真似を。
「先生(しょうあの方を見て)も勿論使えるよね」
「え、いや、その」
ここで、すかさず、なゆのが、
「もちろんだとも」
「楽しみにしてるね」
始めに名に聞いてきた、今回の事態を招いた張本人がそう喋り、ちょうどここで授業が終わり、最後の挨拶なしで皆が帰っていく。
さあ、これから、そして、明後日はどうなるのだろう。再び恐怖とワクワクが入り混じる2日間が始まろうとする。あと、今回は名は悪くないよね。少なくともなゆのにも原因はあるよね。
横にいるしょうあは青ざめた顔をしていた。
*なゆのも子供たちからは先生という立ち位置と認識されています。
これからも作品をお楽しみください。




