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7話 初めての仕事は学校で

 「ななと、起きて!」


 「んーん」


この世界に来て3日目の朝はしょうあに起こされるところから始まるようだ。自分で目覚めず、人に起こされるようになったということは、こっちでの生活に慣れてきたということだろう。

基本的に名は、学校のある平日はよくお母さんに起こしてもらい、休日は気づいたら正午になってたこともあるような朝に弱いタイプなのだ。

っていうか、そもそも寝るのが深夜1時を過ぎるのが当たり前の生活ということもあるのかもしれない。ちなみに、最近は何時に寝てるのだろう。時間を見ていなくてよくわからない。 


 「おはよう、しょうあ。今何時?」


この世界に時間という概念はあるのだろうか。そこに疑問を感じた。


 「おととい、我部さんに時間や日付のことを聞いたんだ。時間は向こうの世界の感覚と一緒。空にある光が真上が12時、そこから12時間経てば0時になるそうだ」


続けてしょうあは言う。


 「1年は12か月で全て30日間とのこと。ちなみに、今は5月前半らしい。元の世界と少しずれているようだな。これから場所によるが、暑くなっていく予定とのこと。あと、曜日という概念はないらしい。休みの日は仕事によるそうだ」


 「ふううん」


 「で、ベッドから起きれるかな」


はいはい、もう出ますとも。名は横を見る。なゆのももう起きているようだ。


ガチャ。


なゆのは外に出ていたようだ。何か大きなバッグを持っている。


 「ありがとう、なゆの」


 「どういたし、まして」


 「ななと、自分の服は自ら干そう」


必死に頑張って起きた名はベランダに服どもを干す。洗濯物を中に入れたり、たたんだりしたことは時々あったが、干すことは滅多になかった。

これからは、こういうことも自分でやっていかなければならない。もう、本当に一足早く自立するような感覚になる。家族の存在がどれほど自分にとってかけがえのないものだったかがわかる。


昨日買った服に着替える。改めてこれまで着ていた服が良いものかがわかる。下着ほど肌触りは気にならないものの、やっぱりちょっとあれだな。

しょうあは、洗面所で着替えている。別にそこまで気にする必要はないのに。いや、しょうあはしょうあで、幼馴染に見られたくはないか。まあ、これから生活するにつれて気にしなくなるかもしれないし、ってこんなしょうもない話はいいんです。


新しい黄色の靴下をはいて、いざ学校へ出発だあ!


学校は歩いて7分くらいだ。デッカイ門でもあるのかと思ったら、意外にもこじんまりしていて、どっちかというと幼稚園みたいな感じの雰囲気に見えた。さっそく中に入る。


入口に着くと、一人のおばあさんが待っていた。


 「初めまして、東香増西言語学校の学長、山師と申します」


 「初めまして、5日間働くことになりました者です」


前も思ったが、しょうあは相手は名乗っても、自分は名乗らないみたい。こっちが言うことではないな。いつも、挨拶はしょうあに任せて、会釈しか行わないやつにこんなこと思われる辻合はない、反省、反省。


さっそくたくさんの先生がいる部屋に案内された。ここでは、自己紹介をしなければならないみたいだ。覚悟を決めて・・・


 「初めまして、とりあえず短い期間ではありますが一緒に働かしていただきます、松泡しょうあです」


さあ、勇気を出して、最低限の礼儀を・・・


 「皆さま初めまして、ここの彼と同じく・・・働かしていただきます、すうー、山柔、ななとです。以後お見知りおきを」


つい緊張して始めは前を見ず、下を見てしまい、このままでは印象が悪いと思い、次は思い切りすぎてしまい、少しの沈黙の末に腕を前に出して手でポーズをとり、ドヤ顔?をしてしまった。変にカッコをつけて、より悪目立ちしたかつ、恥ずかしいことをしたとすぐに自覚した。

しかし、後戻りはできないため結局最後までポーズを維持したまま、おかしなことを言って自分の挨拶は終了した。ああ、やってしまった。


ポーズを直して、すぐに一歩後ろに引き下がった。そして、しょうあの方を見た。しょうあは物凄く呆れた表情をしていた。


ちなみにだが、名は昔からこんなことをたまにしていた。特に幼稚園の頃からの幼馴染といるときや遊ぶときにこんなことをしていた。しょうあと奈斗はしていなかったが、それ以外のメンバーとはよくしていた。ゲームで戦う前の意気込みや勝った後の勝利ポーズとかで。

あと、旅行に行ったときの写真やそもそもたまにではあるが、日頃の日常生活でも(これはおそらく小学生のときのみ)。さすがに、クラスの皆の前といった大勢の前ではする勇気もないけれど。


っていうか、小学生のときにもこんなことをしていたということは親や兄から言われて知ったようなものだ。自分はその頃の記憶はよっぽど忘れられない思い出しか覚えていない。写真でそんなことをしているのを見て、確かにこんなことをしていたなっと思うくらいだ。


でも、それがカッコいいものだとその頃の自分は思っていたようだ。今も、少しはカッコいいとは思っているものの、さすがにちょっと恥ずかしいという気持ちもあるため極めてそのような行動をする数は控えめだ。

そのため、意識をし出した中学や高校では、限られたところ(親友とのゲームといった遊びの場面とか旅行といった家族との空間くらい)のみでしかやっていなかった。


つまり、親友や家族以外からはおそらくごく普通の、どっちかというとおとなしいタイプだと思われていただろう。確か、先生もそんな子だと思っていると聞いたことがあるような。


とはいえ、ではなぜ、名はそんなことを親友や家族以外がいる人の前でやってしまったのかという疑問が生じる。理由は二つだ。


一つは、ここは異世界。正直、もう本来の自分?いや、本来ではないが、別に好きなように振舞っていても問題はないと考えたからだ。

ただえさえ、急にこんな世界に連れてこられて自分を見失いそうになっていた?ような気がするのだから自分を見失わないためにもこんな行動をしたっていいではないかと。そもそも大勢の前で今までしてこなかったがために、素直に言うがしたくなってしまったのである。

正直、ゲームでは、こうやってカッコをつけてやっていたので、それに近いように感じる世界にいるんだから、やってしまうのは当然だともいえるだろう。


もう一つは、単にパニックになってしまったからである。これまで働くということはしたことがない。つまり、今から自分は初めてのことに挑戦しようとしている。っていうことは、勿論、緊張している。やっぱり、今から同じ職場で仕事をする人との初対面は良い印象をもってくれなければ。

でも、普段の生活での様子だとぼそぼそっとしゃべっていると言われたことはあったためそのようなことをしてはダメだ。だから、陽キャぶる訳ではないけれど堂々と立派に大人らしく挨拶できるようさきほどの行動をしたという訳だ。


とはいえ、結果としては最悪の状況を招いただろう。少し、カッコいいと思いかつ、一度やってみたかったことを達成したのは良かったが、それよりも恥ずかしさの方が勝つし、しょうあには迷惑をかけただろうし、この空気を気まずくさせただろうし・・・。


10秒ほど沈黙がうまれたが、山師さんがここで反応をした。


 「はい、松泡さん、山柔さんよろしくお願いいたします」


そして、山師さんは拍手をした。すると、他の人々も拍手をした。こうして、自己紹介タイムは終わりを告げた。しょうあは不安そうな顔をしながらも頭を下げて、


 「よろしくお願いします」


っと言った。自分はというと失敗?したからと言って、オドオドしていたりしたら1番カッコ悪いので、顔を変えずドヤ顔を続けたままちょっとだけ会釈をして立ち続けていた。


その後、今日の仕事内容の説明が始まった。さっきまでのことがなかったかのような案外とスムーズである。向こうの世界では、さっきのような行動は変な目で見られるだろうが、どうやらここではそんなことはないようだ。でも、少しだけあった沈黙は何だったんだろうか。


今日、担当する子供は36人。普通ひとクラス20人ほどらしいから少し多めとのこと。まあ、二人で担うからね。

1時間目はかたもじの『が・ざ・だ・ば・ぱ行』の書き言葉を教える授業。2時間目は1時間目に習ったことを使ってのグループ練習、3時間目は実際に書いた紙を交換したり、話してりする内容をしてもらえばいいとのことだった。やり方はこっちに丸投げという。


今回、名としょうあは初めての仕事で先生として子供たちの前に出る感じだが、なゆのは部屋の後ろにいて、実質子供たちと一緒に勉強するんだが、見た目は名と同じくらいの年頃なので名としょうあのサポートをする先生という設定だ。


そういえば、なゆののこの姿になった年齢は何歳だろうか。本来、4歳と4ヶ月なのだが、これは人間で例えると結構年はいっているはずだ。

しかし、やはり名と変わらない気がする。少なくとも名の言っていることをしっかりと理解したり、これまでの話せるための練習でも覚えるスピードがはやかったりするので、幼い訳ではないと思うのだが。


と考えてはいるが、そもそもなゆのは書き言葉に関してはまだ、ほとんど勉強はしていない。だって、話し言葉が不十分な状況なのに。つまり、書き言葉の勉強は初めてと考えていいだろう。それが、ひらがなではなくカタカナかつ点々がつくものという、どう見ても順番はおかしいが、許してくれ、なゆの。


なので、子供たちには悪いが、かたもじの『か・さ・た・は行』を復習するところから授業は行うことにした。


3人で授業の進め方を決めたところで、朝食が届いた。山師さんは、お弁当を作るのが趣味のようで毎日働いている人に無償で朝食を出しているとのこと。ちなみに、授業は全て午前中に終わるので、昼食は自分でという。評判はというと、7割の確率でおいしく、残りの3割はあんまりとのこと。


いざ、実食。うん、微妙。これはもしかして外れか。ご飯は美味しい。ただ、おかずはあれだった。

まあ、数時間ぶりの食事だったんで、助かったということにする。特に昨日は昼食後は水と丸い小さいパンしか食べてなかったから。


そうこうしていると、子供たちの声が聞こえてきた。10分後ついに初の労働が始まる。しょうあが準備をしながら話しかけてきた。ついに、さっきのことについての言及だ。


「まあ、誰にも迷惑はかけてないからいいけれど、・・・その名の癖っていうか仕草がなゆのが真似しちゃてるけど」


名はなゆのの方を見た。すると、なゆのはさっき名がやったように腕を前に出してカッコをつけてきたのだ。自分で言うのもあれだが、名の悪いところが・・・。でも、真似をしてくれることは嬉しくもあった。


 「まあ、知り合いとか同級生とかそういう人はいる訳ではないし、自由な世界ではある?から。正直、ななとが自分のやりたいように行動をして、何よりも不安そうだったこの世界で楽しく生きているように感じられたから、もう僕としてはそれでいいよ」


しょうあは続けて言う。


 「さあ、みんな頑張ろう」


 「おーー」


突如、なゆのが声を出して、腕を突き上げる。どこで、その掛け声を覚えたのやら。

 

 「オーケー」


そう言って、今回の舞台、教室へと3人で向かうのだった。


*なゆのの精神年齢はななととあまり変わらないものとなっています。


少し長くなってしまいました。これからも作品をお楽しみください。

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