4話 香増市奥香増での一息
さっそくベッドの中に入った。さすがに風呂に入れさせてくれませんかとか図々しいことは言えないので、我慢する。まあ、1日くらいだったら大丈夫だろう。さすがに明日は入りたいなと。っていうか、結構我慢していること多いなあと、そう勝手に感じていた。
服も1枚(今着ているもの)しかない。せめて、もう1枚欲しい。洗うことができないからね。市街地に行ったらさすがに買えるよね。自分に合うサイズや肌触りのいいやつ、見た目の良いもの(自分の好みにあう)はあるだろうか。
自分の身長は146㎝でお母さんからは痩せすぎと言われている。しょうあは167㎝、同じく痩せてはいるが多分名よりは種類豊富だろう。かなのは何㎝かな。名よりは少し高かった気がした。そう言いながらなゆのを見る。
「アンっ?」
またこっちを不思議そうに見ている。本当、今の姿も前の姿もどっちも可愛い。癒される。ありがとう。
それにしても暇だ。何もすることがない。スマホもゲーム機も使えないから。手を見たり、爪をいじったり、長い髪を結んでいるちょうちょ結びの黒いひもをほどいて、再び結んでと繰り返す。
名はずっと小さい頃から同じ髪型であり、長い。これはお母さんがこの髪型にしてくれて、出来たらこの髪でずっといて欲しいと言っていたからだ。まあ、してみたい他の髪型はないから別に全然問題ない。
服装に関しては自分でカッコイイと思うものを着ている。ただ、小柄なので男用でよくあるいいなと思ったやつが着れないのはちょっぴり悲しい。お母さんは可愛いのを着て欲しいようなので、最低限意識だけはしている。ちなみに、今日着ている唯一こっちに持ってきた服は気に入っているほうである。
それにしても、なゆのはやっぱりどう見ても薄着だ。現在の姿を見て絶対これ着せたらカッコいいだろうなあと思いながら見ていたら、ふと思った。こういう暇なときになゆのに少なくとも言葉は話せるようにしておかないと。
「なゆの、今から少しでも話せるようにしておかないと」
「アンっ、アン」
それ言うの待ってましたというような顔をして縦に強くうなづいた。そうして、人間になる前も含めて久しぶりの二人での時間は話し言葉の練習の時間となった。
少ししてしょうあが部屋に入ってきた。
「財布にあったお金とカードを売ってきた。銅貨12枚、銀貨1枚だ。とりあえず、これで少しはもつだろう」
しょうあも加わって、練習の続きが始まった。
1時間かそれ以上の練習会を行った。間違いなく普段だと楽しくもない時間だろうが、家族にも会えない、親友にも会えないという中でこのような時間は本当に心がホットするかつ、自分という存在を見失わなくて済む大切なものだと、そう感じた。
「よし、そろそろ寝よう。明日の朝、早い時間に出発だからね」
しょうあがそう言い、名は横になった。しょうあはあかりを消す。正直、全然眠れない。今頃、家族はどうしているかなっと再び考えた。どういう状況なんだろう。娘が帰ってきませんっと警察沙汰になってしまっているのだろうか。それとも、名という存在なんてないとかいうふうになっているのか。本当にわからない。そういうことを考えていたら・・・
・・・部屋が明るい。どうやら朝になったようだ。無事夜を超すことことができた。ベッドから出る。
「おはよう、ななと」
しょうあが言う。
「おはよう」
もう一つ声が聞こえた。
「お、はよおう、な、な、と」
声が聞こえたほうを向くと、なゆのが笑顔で立っていた。どうやら、昨日の練習の成果がさっそく出たようだ。昨日も聞いたけれど、きれいな声だ。よく名の声は高いと言われるが、なゆのも名と同じくらい?高くて美しいなっと思った。
少し寝ぐせがついていたため、髪を濡らして整え、髪を結び、目を洗う。しょうあも目を洗い、髪を整え、眼鏡をつけている。しょうあは目が悪く小学生のときから眼鏡をしている。もし、コンタクトの人がこっちに来てしまったらどうするんだろうと思いながら部屋へ戻ろうとすると、ここで食べるおそらくラストの朝食の呼び出しがきた。
ちなみに、名の視力は眼鏡をつけるほどではないが、正直良くはない。
いただきますっと言い、食事をとった。昨日とほぼ同じようなものだった。そして、準備をし、ついに市街地へ向かう時間となった。
今日も昨日同様晴天だ。体感も昨日と同じ寒くも暑くもない。役場を出ると10人ほどが乗れそうな馬車があった。勿論、このような乗り物は初めて乗る。
「この度はありがとうございました」
しょうあが言う。名となゆのは会釈をした。
「いえいえ、頑張ってくださいね」
なゆの、名、しょうあの順に馬車に乗り、走り出した。1番後ろの席に3人横に並んでである。他に地元のひと6人と運転手が乗っていた。すごく風通しがいい。つまり、少し寒いということだ。
なゆのは笑顔で奥香増の町を見渡している。急に人型になって異世界に飛ばされたというのに、楽しそうで何よりだった。
「ななと、寒いの?」
顔に出していないつもりだったが、よくわかったな。いや、普通に腕を抑えて少し縮こまっていた。ただ、勿論こう言う。
「いや、問題ない。気にしないでくれ!」
「本当?、我慢できなくなったら言ってね。大きな布を1枚もらったから」
我慢している前提で反応してきた。本当に昔から勘が鋭いな。それにしても、物凄く揺れる。ギリギリ気持ち悪くはないが、いい気分ではない。二つのことを我慢しながら目的地へと向かうのだった。
「やっぱり、布貸して」
「はい、もうただでさえ我慢しぱなっしなんだから、疲れているだろうし、無理しなくていいよ」
もう我慢は一つすることで限界だったようだ。
*基本的に山柔ななと目線でこれからも書いていきます。
これからも作品をお楽しみください。




