3話 奥香増という町に
町に着いた。周りは一面農作地となっているようだ。奥には、家が見える。いわゆるザ農村っていう感じだ。建物はおそらく西欧風だと思う。
「あそこに人がいる。話を聞いてみよう」
と翔亜が言ってる内になゆのが話しかけていた。
「アンっアアアン」
翔亜が間に入り、こう聞いた。
「あの、ここはどこですか。あと、何か役所みたいなところありますか」
っていうか、日本語が通じるのだろうか。町人が答える。
「あなたたち変わった格好だのう。もしかして、数年ぶりに山から下りてきた謎の旅人かい?」
何かわからないけれど、日本語を話し、及び通じるようだ。どうやらあの場所から名と同じようにやってくる人物はこれまでにもいるみたいだ。少し安心した。もしかしたら、同じ境遇の人物に会えるかもしれない。
逆に、町人の格好はよくわからないものだった。白い服と灰色のズボンとだけはいえるかな。
「まあ、そんなもんです。これまでにも僕たちみたいな恰好の雰囲気の人が山から下りてきたんですか」
「そうですね。最近は1年か、2年前だったかな」
「そうなんですね。あのお、ここは日本語を話されるんですか」
「ここっていうか、この世界どこに行ってもこの言語だけですよ。そういえば、役所がないかですっけ?毎回山から下りてきた旅人さんはみんなここの町役場に案内してますよ。ついてきてください」
「ありがとうございます」
「二人ともついていくよ。そろそろおなかもすいてるでしょ。今はこの人についていくのが一番だろう」
黙っていたが、空腹だ。とにかく、体に何か入れたい。なゆのが手を握ってきた。翔亜の後ろを二人でついていく。
町役場に着いた。奥香増と漢字で書いてある。中に入るといかにも村長さんみたいな人が待っていた。
「ようこそ、奥香増へ。この町の事実上代表的立ち位置である我部だ。そなたらは、いわゆる転移者かな」
「なっ」
「まあ、そうですね。よくご存じなのですか」
「ええ、勿論。見たことのない恰好、この山から下りてくる、それだけでもう分かります。最近は、1年半くらい前に一人きたからの。それにしても初めてではないだろうか。私が生きてきた73年間で3人という者は。基本的に1人は普通だからな。2人もたまにいる。もっとも多かったのは、6人だったかな。確か10年か20年前だったかな」
「結構いるのですね」
「ああ、そうだな」
翔亜と我部さんの会話が続く。
「大体、来た者が一番始めに聞くことは言語について。そもそもこの世界に言語は一つしかない。おそらく、なぜかはわからないが、そなたらの来たところの言語と全く同じであろう。これは、話し言葉。一方、書き言葉は少し複雑だ」
続けて我部さんは言う。
「基本的に使うのが、『かなもじ』と呼ばれるもの。(ひらがな)そして、『かんもじ』と呼ばれるもの。(漢字)これは、地名や苗字など一部しか使わないもの。最後が、『かたもじ』と呼ばれるもの。(カタカナ)これは、私が住んでいるこの国ではほとんど使わず、別の国の一部でのみ使われている。これを使う国は逆に『かなもじ』をほとんど使わない。さらに、『かんもじ』に関してはそもそも知らないといわれるそうだ」
「なるほど。ちなみに私が住んでいる国と言いましたが、まず、ここはどこなのでしょうか」
「ここは、香増市奥香増という場所だ。この奥香増を含めた香増市はここ30年間は累一族が支配していて、そこと仲の良い一家たちが議会に参加している形だ。他の市もそんな感じだろう。特に不満はないが、たまに意見を言いたいときはあるがな」
さらに続けて言う。
「そして、その複数の市を束ねているのが政府である。政府の体制はあまり詳しくないから割愛させていただく。あっ、この国は陽乃国という。確か、成立して、100何年かだったかな。領域としては、首都のある陽乃島と東にある風乃島そして、この世界の大部分を占める先理具大島西部の広い範囲と北に位置する先北沿島西部だったかな。この辺りは先理具大島西部の中で東南に位置して、そなたらが来た山をさらに奥に上ると国境があるような場所だ」
「そうなんですね。他に国があるんですか」
「おなかすいた」
「アンっ」
「おっ、ちょうど飯ができたようじゃ。お金は要らないからまあ食べなされ。味はきっと満足されるだろう」
つい口に出てしまった。それはいいとして、なんとなくこの世界のこと理解してきたぞ。やっぱり、ここは自分がいた世界とは異なるようだ。転移者かって言ってたし。ってことはあの謎の家にあったよくわからないものは転移させる機械だったのかな。あそこから、これまでこっちに来た人が何人もいたのかな。もうちょっとわかんないや。そうこう考えていると飯がやってきた。
当たり前だけど、「いただきます」と言って約半日はいかないくらいぶりに口の中に食べ物が入った。こういう別の場所に来たときはは口に合わないことが多いが、思ったよりも美味しい。何かの焼いた肉とご飯そして、キャベツ?だった。勿論、ドレッシングはないよね。好き嫌いが多い名でも食べることができた。
ちなみに、なゆのは人間になって初めての食事のはずだが特に気にすることなく人が食べるであろう飯を食べていた。別に、名が気にするほど心配する必要はないようだ。翔亜は、質問の続きを我部さんから聞いていた。
「他に、陽乃国の東には、東先理具国がある。この2か国はこの世界の2台大国といわれている。そして、陽乃国の南には辺国、その東にはスノーミドウル国がある。この2か国は2台中国といわれる。あと、小国が確か20以上はあったかな。まさに、このそなたらが下りてきた山の奥にある国境の先は小国であるよ」
「そうなんですね。美味しかったです。ごちそうさまでした。そういえばこの国でのお金の仕組みなんですが・・・」
「陽乃国では、銅貨と銀貨と金貨と白金貨がある。銅貨10枚は銀貨1枚、銀貨10枚は金貨1枚、金貨10枚は白金貨1枚だ」
「なるほど、ちなみにここでは何か別の物と貨幣を交換っていうようなことは可能ですか」
「普通はそのようなことはできない。ただし、これから貨幣がなければ生活することはできるわけない。何かしら働いたり、冒険者になれば得られるが、その前に多少の貨幣は必要だろう。そんなに交換はできないが、とりあえず交換できそうなものを出すがよい」
続けて我部さんは名たちにとってありがたいであろうことを言ってくれた。
「あと、今までの者もそうだったが、ここではこれ以上なにも助けることはできないので、とりあえず香増の市街地に明日の集団馬車に乗って向かうがよいだろう。私が3人分の席を空けるよう頼んでおくから今日は役場の奥の部屋を貸すので準備をしておきなされ。ついでに向こうに着いたら香増の市役所へ招待状を書いておくので、そこでどうするか、、決めたらいいだろう。これまでの転移者の者もそうさせてきたから」
「ありがとうございます」
翔亜が言う。我部さんは続けて言う。
「そなたたちの名前は何じゃ。できれば苗字はかんもじ、下の名前はかなもじで頼む。その方が何かと好都合だからな」
そう言って、紙を出してきた。翔亜は『松泡しょうあ』とそして、名は『山柔ななと』と。翔亜はえっと驚いたが、こっちのほうがカッコイイからと、あと別に異世界に来たんだから別に本名である必要もないからと言って、納得してもらった。
ラスト、なゆのはというとそもそも字を書けない。なので、名が書くことになった。すると、なゆのは『山柔』のところを指さして、うんうんとうなづいてきた。びっくりしたが、当たり前だ。なゆのは誰が言おうと山柔家に属する存在であることに間違いない。下の名は勿論、そのままでいいということなので、名前は『山柔なゆの』となった。
我部さんは、名たちに対して、転移者ということは言わないほうがいいと忠告してきた。これまでの者にもそういってきたらしい。何か悪だくみとか変なことに巻き込まれるかもしれないからと。
気づけば、もうすっかり暗くなっていた。翔亜はとりあえず財布にあるものを交換するからといって、(スマホやゲーム機は何かこれから使えるかもしれないと判断して交換せず)先に奥の部屋へ行っててと言われたので、二人で先に部屋へ向かった。部屋には、ベッドが3つ用意されていた。やっと、異世界に来てから数時間、ホット休むことのできる時間が訪れたのだった。
この話から第二章となります。
*登場人物について・・・山柔ななと、松泡しょうあ、山柔なゆのとなります。
*基本的に上の3人は下の名で表記します。
これからも作品をお楽しみください。




