2話 謎に包まれた家の敷地~森林の中で
家の玄関らしきところへ向かっているのかと思えば、そこを通り過ぎ草むらをかき分けて何かよくわからないものに向かって吠えていた。
「なゆの、どうしたの。多分っていうかおそらくここは入っちゃダメなところだから。・・・さあ、ここを出よう」
しかし、一向に吠えるのをやめる気配はない。翔亜は何も言わず、じっとなゆのが動くのを待っているような感じだ。確かに、こういうときは口を出さず、じっと大人しく待つのも重要かもしれない。
すると、ついになゆのはその何かよくわからないものをかじろうとした。突如、周りが光りだしたように感じた。
「えっ、何?」
気づいたら森林の中にいた。一面、たくさんの木に囲まれ、自分がいるところは草一本も生えておらず、前にはとても長く続きそうな道があった。左には、同じくキョロキョロあたりを見回している翔亜と、えっとって、あなたは誰? 翔亜と目が合った。
「ななと、大丈夫」
「ええ、大丈夫・・・」
「ここは、どこだ。確かうす暗い家の敷地の中で・・・突如前にあったものが光りだして。気づけばここに。っていうか、そもそも夜だったよな。ここはとても明るいな」
ああ、そうだ。太陽?が空高く名がいるところを照らしている。明らかにさっきまでいた場所と大きく異なる状態のところにいるような感じだ。いわゆる違う世界に来たとか。違う場所に飛ばされたとか。違う時代にタイムスリップしたとか。そうとしか考えられない。
「ああ、ただ一つ言えることがある。ただ事ではない状況ということだ!」
「いや、そうかっこつけられても。あと、右にいる方は?」
「もしかしてだけど・・・」
名の右には、『人間』がいる。ポカンとしている顔をしている。髪の長さは名と同じくらいの腰の上らへんまであり、名は茶色がかった黒色だが、それとは大きく違う薄茶色をしている。まるでなゆのの体毛とほぼ全く同じ色だ。勿論、可愛い。そして、着ている服は茶色の布みたいな簡易な感じのものだ。まるで、なゆのに着せていたものとほぼ同じようだった。なお、裸足である。
「アンっ」
「もしかして、なゆの?」
「アンっ、アンっ」
驚きが止まらなかった。でも、なぜか少し嬉しくも感じた。そして、翔亜が名となゆのにこう言った。
「二人とも怪我はないか。さっきまで、草むらの中にいたからかぶれてたりしてないか」
「まあ、うん問題はないかな。で、これからどうする?」
「アンっー」
「とりあえず、前へ進むか、後ろへ進むかどっちかしかないだろう」
後ろを向くとまたもや不気味なトンネルがあった。いやあ、普通にこっちには行きたくはないがなあ。
「まあ、前へ進むしかないだろう。それにここはおそらく山の中。前は下っているようだし、こっちのほうが何かあるだろう。今、持っているのは、スマホとゲーム機、財布しかない。飲食物がない。まずは、これを探すところからだな」
「うん」
正直、威勢のいいことばかり言っているが、怖くて仕方がない。パニックになりそうな気持ちだ。もし、歩いても歩いても何もなく終わってしまったらどうしようかと。恐怖でしかない。しかし、顔には絶対に出さない。カッコ悪いからな。ただ、一人ではなく人間になったなゆの、そして、無茶苦茶頼りになる翔亜がいる。そこは本当に幸いだ。自分一人とかだったら、もう間違いなくここでジ・エンドだろう。すると、何かを感じ取ったのか。翔亜がこう話しかけてきた。
「大丈夫、僕も不安でしょうがない。でも、前に進まないと何も起こらない。有り得ないことが既に複数起きていてとても混乱している。けれど、ここでは考えても仕方がないから。先に進もう」
なんてカッコイイ言葉だろう。普通にキュンとしそうだ。っていうか、照れさせないでくれ。でも、とても元気がでてきた。ありがとう翔亜。
「ああ、別に怖くないぜ。逆にワクワクしてきたな。見てろ、きっと問題なんかない。名の力を存分に見せつけてやるぜ!」
また意味もなくかっこつけてしまった。これが名の良くない?性格だ。名の言葉を聞いて、翔亜はニコニコと嬉しそうにしていた。うんうん、名の身に染みる名言が翔亜にきいていて良かった。そう感じた。さらに、なゆのが名の頭をポンポンしてきた。
「一緒に頑張ろうな、なゆの」
「アンっ」
そうして、3人で前へ進みだした。翔亜が足は痛くないかといってなゆのに靴を渡そうとしていたが、大丈夫と言っていた。なんでかわからないけれど歩いても痛みは感じないらしい。なゆのはいたって笑顔でいつも通りの様子だった。数年の付き合いだ。それくらいわかる。
この場所は寒いか、暑いかと言われれば、どちらでもない。名が着ている服は、紫のシューズに青の靴下、薄黒の緩い長ズボンと白色の服(少し肩が出て腕の真ん中に袖がある感じ)なので、これくらいの気温はいいけれど、これ以上(夜とか)寒くなれば困るって感じだ。正直、こうなるんだったらジャンパーを着てくればよかったなあと少し後悔している。
翔亜は濁った緑の緩い長ズボンに薄茶色の長袖だった。自分よりは暖かそうだと感じつつ、なゆのは多分だけれど、先ほど言った薄茶色の布が肩から膝まで1枚のように感じ、なゆのよりはましかと思いつつ、ひょっとして寒くないかなと顔を見たがやっぱり元気そうで安心した。なゆのは自分をじっと見てくる名に対して不思議そうに見つめていた。名はなゆののこういう表情が人間になる前もなった後も好きだったんだと改めて感じ、心がホットした。ありがとう。
「やっぱり、スマホもゲーム機も電源はつくけど、ほとんど使い物にならないな。カメラは動くみたい」
名にはもう一つ不安がある。これからはゲームもプレイできない、動画も見れない、家族や親友に返信もできない(そもそも、もう会えない)・・・(今、皆どうしているのかなあ)・・・(結論、寂しい)っていう問題もある。依存までとはいわないと思うものの、ずっといじることができないのは、とてもつらい。ただ、今はそんなことを考えることのできる状態ではないと感じ、足を動かしていくのだった。
「疲れたあああ」
名はついそう言ってしまった。かれこれ30分くらい歩いてる気がする。ちなみに、自慢でも何でもないが、自分は体力がない。運動もできないのだ。
「そうだね、一回休むとするか」
翔亜も確か体力はないはずだ。ここは、winwinだろう。名の黒いバッグには、スマホ、ゲーム機、家の鍵とか正直、使えそうなものはない。翔亜はどこかしら町に着いたら売れるものを考えてるらしい。本当に頼りになる存在だ。10分休憩し、再び前へと進みだした。
「あれ、もしかして」
「ああ」
そして、ついに恐れていたことはなく複数の家が建つ町が見えたのだ。頑張って力を振り絞り1時間以上歩いたと思う。ここから、新たな3人の物語が始まるのだと、そう思ったのだ。
これで第一章は終わりです。ここで、少しだけ補足。
*っていうことでこの3人がメインの物語となります。
これからも作品をお楽しみください。




