18話 進め、そして中心へ
構えられた剣の鋭い先っぽが名の方に光って見える。そして、構えたままこちらへと接近してくる。さっき一人やってある意味すっきりした中で、すぐさま次の戦いが。いや、これが当たり前なのだと感じながら、名は落ち着いた表情をした(つもりだ)。
どんっっ
またもや、気づいたら名は魔法を放っていて、それを今回の敵は避けたようで、さきほどの位置から名から見て左に移動しているようだった。つまり、ピンチが続く。次こそは本当にやばいかもしれない。人間はやはり無意識に危機が近づくと自衛することが改めてわかった。急に前から虫が来れば避けるのと同様に。
「ふん、少しはやるようだが、次で決める」
そう言い、先ほどとは異なる手の持ち方で剣を構えてきた。はー、心臓に悪い。過去に感じたことのないバクバクに襲われている。正直、思考がおかしくなりそう。といいながら思考を維持させようとこうやって、考え、自分の状況を見極めている。ははは、さすがです、名。足もがたがた震えてきたような感覚だが、問題ないでしょう。
「はあー、かかってきてよ。ね、さあ、か返り討ちにでですから」
にやりと笑って見せた(たぶん)。ふー、クールにやっと決めれた。そう名は満足して。
「いい度胸だ!」
どーん
名は両手で杖を持っていた。おそらく、ここまでの戦いすべて両手で持ちながら必死に放っていたのだと思う。さっきの相手はただ倒れていただけのように見えていたが、この相手は体から血を流して倒れている姿を見た。名は何となくっていうか、なぜか持ち方を相手同様に変えて魔法を放った。すると、見たことのない魔法を放った感覚を感じ、魔法の流れもカーブしているようにちっらと見えた気がする。
ふと下を見ると、相手の剣が名の右腕のななめ下に落ちていた。さっきから名は足はいっさい動いていない。これだけは分かる。もしかしたら、攻撃が当たらず、効かず、避けられて攻撃を連続されたらと思うと。
でも、心が急に楽になり、杖は今まで通りの片手で持ち、一歩足を動かした。両手でなんか、変な持ち方と構えだったと考えて、さすがにそろそろ自ら動かないとダサいどころか、足手まといになってしまう。さあ、ついにと。
ばかーん
名の2歩目は、左にいき、頭が動き出した今、横に町の人々がいる。一部の町民は建物の中から少し出て、様子をうかがっている。町の人々はずっと名を変な目で見ているように見える。確か、名が足の方向を変えて、町民たちがいた屋外であるでっぱた屋根のようなところへ来たとき、その辺りにいたみんはは急に屋内へ入り、ドアを閉めた。しかし、それから3分くらいした今は何人かは出て来ていた。
そんな名を見て逃げた町の人々を見た名は変に気持ちよくなっていた。強い者を前にして怯える弱者という構図に感じたからである。心の中では、「ははは、本当世界は弱く惨めなものだなあ」とか言っていた。もちろん、わかっている。名が戦いを起こしてきたあっち系の何をされるかわからないやばいやつだと思ったからだと。でも、自分たちに危害を加えるわけではないと思ったから、こういう状況なんだろう。
「ななと、第一線の部隊はほぼ殲滅したって」
なゆのがこちらへやってきた。無傷のようだ。そこは安心した。本当、頑張って偉いなあ。うん、うん。それに比べてなんかは考えないが、少なくとももし、「あれ、なんでここに」とか…さっきの大きい爆破音が遠くから聞こえたから、ここにいるなんては言えないから、そこには触れないでくれと思いつつ。
「今から中心の者たちで上に行くぞだって、天使さんが」
「な、なるほど。ということは…」
「よし、わたくしたちも行くよ」
名はなゆのに手を引っ張られながら、何十分かぶりに足を物凄く動かした。そりゃ、そうだ。あー言われて、こうならないわけがない。とうとうがちで覚悟を決めないと、なのかな。
いきなり、敵が出た。
「それっ」
ばたりと倒れた。さっそく、身につけた魔法が役に立てた。この場に来たんだから、役に立たないと困るから当たり前だな。
10分ほど経った気がする。ここまで、30人ほどの敵に出くわし、すべて無傷で倒せてこれた。もう、ここまでくると、始めは少し、なんか自分の手を見て複雑な気持ちになりながら、敵が基本的に先制攻撃をしてくるので自衛だと思い、それでもちょっと苦しんではいたが、それはない。これが戦いだと理解することができた。
このようなことをしなくても、昨日いろいろあって、結局苦しい思いを今日はせねばならなかっただろうから、もうこれでいいと完全に思えた。もう、どんどんやるのみなのだと。
僕は、正直、そこまで今の実力では強くないだろうから、あえて強力な相手がいないだろう戦いの中央ではなく、端で地道ではあるが、戦っている。これでも、少しは貢献できているだろう。他のみんな、特にななととなゆのは大丈夫だろうか。少し、疲れたので、今は敵がどこにも見えないから休んでいる。もちろん急に出てくるかもしれないので、目は休ませていない。
なゆのは思い切ってやっていると思う。瑠留さんを見習って。ななとはどうだろう。一緒にいた方が良かったかなあ。心配だ。力はあったと思うが、こういうとき、口だけになっていないかなあ。みんな分かれて戦った方が効率がいいと思ったから。でも、決まったところで大勢の方が良かったかも。後悔するならこれだけかな。作戦がちょっと甘かったかな、瑠留さん。いや、人のせいにしては…
どんっ
とっさに何とか動けたが、ちょっと足を痛めてしまった。幸い中の幸いだ。さっき座っていた切り株を潰して誰かが立っている。油断していたつもりはないが、すぐに気づけなかった。強者なのは間違いないと思う。
「よく、避けたなあ。結構、音抑えたのに」
「ええ、どうも褒めてくれてありがとう」
僕はこう返答する。
「余裕あるね」
「いいや、そんなことないです」
「そう。まあ、それはいい。私は香増市治安維持隊副隊長正井。短い間よろしく」
「勝つ前提ですか。私は松泡。見ての通りと言うか、わかるだろうけど、乱起こしの一員」
「そーか。では、先に失礼 ふんっ」
僕は必死に避ける。すばやい剣さばきだ。
「では、少し本気を出させてもらう 輝光機」
「んんんっ」
名となゆのは戦いのやっていないところをすり抜けながら、上という、たぶん市役所とかとかかなと思うところへ向かう。
「なゆの、実際に戦ってみて、どう?」
2回しか戦っていない名は尋ねる。
「うん。始めの者は弱かった。先に攻撃してぱっと倒せたよ。2人目もちょちょいのちょいっていうやつだったよ。3人目は恥ずかしいながら苦しだった。でも、いけたよ。けがなしで」
「そうなんだ。さすが我がえっと、相棒だっけ」
「うん、我が相棒もけがなしで活躍したもんね」
ちょっと心苦しい。あと、ちょっと気になったが、ちょちょいのちょいってどこで覚えたんだ?確か誰かさんが言ってたような言葉…
「でも、まだ面白くはないよね。なんか、上の者っぽい人と戦ってなくて、皆下の人っぽい。天使さんが同じような防具を身に着けた者は我の敵ではないって言ってて、そんな人だらけだった。上の人は名乗る場合もあるようで、下の者は名乗らないって言ってて、まさにそれで。上の強い人とやっと今から戦えるかな」
もしかして、2人目の者はそこそこの強者?確実にはわからないけれど、ちょっと自信がついたのであった。
5分ほど歩き、角を曲がるとついに市役所が見えた。そして、ちょっと奥に天使さんが誰かと戦っていて、ちょうど倒した瞬間を目撃した。再び、血らしきものが見える。改めて見るとぐろくてなんか気持ち悪かった。そして、戦いを終えた天使さんがこちらに向かって来て、こう言う。
「2人ともやっと来たか。とは言っても、まだ中には攻め込めていないのだが」
「そうなんですかあ。で、えっと、ななとは見つけれたんですけど、しょうあはちょっとわかんなくて」
なゆのがそう言う。どうやら、なゆのは天使さんに名としょうあを連れてくるよう言っていたらしい。この場には、中心メンバーである名たちや実力者の魔法学校の方たちなどがいるから、たぶん本陣を攻めるのに招集しているようだ。
そして、しょうあは居場所がわからないことを知る。なゆのは戦っている姿を見たが、しょうあは戦いが始まってから見ていない。ちょっと不安だ。でも、しょうあだし、きっと臨機応変にやっているように感じる。強い相手でも大丈夫、そう信じているので。何なら、さっきまでは、自分のことで精一杯だったから、そんなことを考えていることができなかった自身にちょっとだけ呆れてしまった。
「仕方ない。しょうあさんは無事に力を発揮していると信じて、我らで真を壊そうではないか。泥臭い闇から鮮やかな闇へと変えるために。ところで、なゆの殿はあちらで力を出していたようだが、ななと殿は?」
ついに聞かれてしまった。こういうとき、どうしたらいいのだろうと悩んでいると、なゆのが
「ななとは頑張っていたよ。見ての通り無傷で、そしてわたくしの心や頭の中で戦っていたのを見たから。間違いないです。ね、ななとー」
名は
「まあ、えっと、いちよ確か何か副隊長とか言っていた者を倒したと、ま、まあ、そうですね。頑張って、いろいろやりましたよ」
天使さんは
「さすがです。なゆの殿も、ななと殿も。では、その力ここでも輝かせ、闇のように広げて差し上げましょう」
なゆのの言葉から複雑ながら、期待されているのだなと感じた。最低限は頑張る。きっと、そうだ。まあ、嘘ではない。確かに言ってたし、頑張っていたのは間違いないから。敵と自分の心に対してであるが。
天使さんは、市役所のある方へ進む。なゆのが手を差し伸べてくる。名はもちろん、とる。どうやら、今からは個人戦ではなく、団体戦ぽい。安心感はあると共に、絶対に逃げたり、ごたごたはできない場となる。
「先ほどまでは皆の者個人でだったが、ここからは協力だ。集団戦は我もあまり経験がない。だから、ここまでは流れもあるものの、個人になったんだ。でも、集団の方がもしかしたら良いのではと思う。これから先、新たな敵が増えて、より大きな戦いになれば」
「それは正しいと思います。おそらく、この香増を支配したとして、それからは団体戦が中心になるかと。一つの大きな組織みたいになりますからね」
天使さんと魔法学校の先生原さんが雑談をしながら少しずつ敵陣へと近づく。
「大丈夫、我様がいるから」
なゆのの暖かい声はいつでもありがたい。手を力強く握ってしまったので、そう言ってくれたのだろう。どうしても、怖さか心は一向に落ちつきはしないものである。だけれど、今度は仲間が周りにいるから。
これからも作品をお楽しみください。