17話 初めての戦い
異世界に来て4日目の朝はまだ少し薄暗い時間にパッと目が覚めた。起きてはいるが、目を開けたり閉じたりしながら横になり続けている。
「ななと、朝だよ。起きて」
と、急にしょうあに起こされた。2度寝してしまったようだった。
泊っているところを3人で出て、天使さんの家へ向かう。本日はこの世界で買った着にくい服ではないので、動きやすい。
「よっし、行くぞ、2人とも」
「うん、もちろん」
なゆのの元気な声に対して名はそう答えた。しょうあは真剣な表情でうなづいている。ついに始めるんだと。そう不安と緊張とわずかではあるがワクワクの3つが入り混じりながら歩いているのだった。
「おーー、皆の者やっと来たか。みんな来ているから、ほら早く入りな」
天使さんが出迎えてくれた。正直時間はぴったりで遅れているわけではないが、皆準備がとても早い。名たちは天使さんの家へと入る。
「・・・ということで、昨日言った通りの手順でいこうと思うが、皆の者よろしいか!」
天使さんの力を込めた発言に皆が拍手をして、一部の人は声を出した。
「3人もよろしく。絶対に絶対に絶対に勝利を収めような。責任者として共に」
「ああ、もちろんだよ。よろしく、天使殿」
なゆのがそう答える。名としょうあはうなずくのだ。部屋には昨日の2倍は人がいて、さらに空気がとてつもなく盛り上がっている気がする。おそらくさらに計画が広まったのだろう。多分、ばれてはいないと信じて。でも、想像以上にみんなが本気かつ積極的であること、市の指導者に対する反感が思いのほか強いということはわかった。
「あの、園長さんは?」
しょうあが天使さんに尋ねる。
「あー、それなら問題ない。昨日の夜から決して家から出ていないことは判明してるし、さっき会いに行って、主に市街地と東香増の中間地点で指揮してくれることにもなったから。では、皆さん指定の位置に行きましょう。・・・っさ」
なんで名たちはそこまで園長さんを警戒していたのだろう。まあ、あのタイミングで帰るっていうか、ちょっと状況が状況だったから変に疑心暗鬼になっていたのかも。別にそこまでおかしな動きをしているのでもなく、何なら助けてもらった存在なのに。でも、それくらいこの世界は、ここまできて厳しいものだと感じたから仕方がないですよね。うん、そう思う。
こうして、天使さんが杖を市街地の方向に向けてポーズをとり、
「出陣!」
とまさに肖像画になりそうな顔で言い、ここにいた人たちがそれぞれの定位置へ向かう。名としょうあ、なゆの、そして、天使さんと他3人は市街地郊外にある川沿いへ行くのだった。
「皆の者、今の気持ちは?」
天使さんが周りに尋ねる。
「もちろん怖さはあるよ。初めてだし。でも、やってやろうっていう思いだよ」
なゆのがそう答える。
「確かに、それならそうだ。我も先ほどは威勢よくかっこよく声を出したけど、少しは怖さというより緊張している。しかし、洞窟で一人で大きな魔物を倒すときの興奮の何倍も気持ちが高ぶっている。そして、勝てば念願の力を、名誉を。そう夢見ながら」
天使さんは続けて言う。
「過去最大の強さというか、これまで我が戦ってきた相手と比べられないような組織を相手にするんだ。そもそも魔物ばかりしか真剣な戦いはしていないから。でも、集団戦は初だから。さあ、皆の者期待している。集中していくぞ」
1つの事に集中してぼーとせずにというのは名はとても苦手だ。なぜなら、ずっと集中できる訳がないからだ。とはいっても、それは勉強のことであって、これとはきっと大きく違うんだろう。そう考えながら徐々に定位置へと向かう。
名たちと一緒に前線という大事な戦闘に立って戦ってくれる人は、水魔法の統括部長の佐志さんと火魔法の統括部長、原さん、そして名としょうあ、なゆの、天使さんだ。皆を先導してという経験はないかつ、そもそも初めての戦いで先頭なんて前代未聞ではないだろうか。でも、ここまで来たんだからやるしかない。
そして、ついに定位置に到着したのだ。名はここに来るまで結局カッコいいことっていうか、決め台詞的な発言というか、そもそも起きてからしか声は出していない気がする。まあ、ここで活躍してクールに決めたら、それで良いと言い聞かせながら。
「では、決行の時間まで残り15分だが、まあ、ちょっと早くてもいい。体を整えてそれまで準備してくれ。我はもう大丈夫なんだけど」
と、天使さんの言葉を聞いていたのだ。
到着すると、他に杖や剣などを持った人たちが100人はいないくらいいた。改めてついに本当に始めるのだとそう感じた。
「皆の者、もういく準備はできたか。そろそろ仕掛けるよ」
えっ、と天使さんの声に驚く。まだ15分は経っていない気がする。
「いや、予定よりも早く着いた。それで、ここでずっと大人数が待機していると、目立ってしまうから。ちょっと奥の市街地の方が何か騒がしくなっているように見えてきちゃってさすがに不安だ。だから、さあ、皆さん行きましょう」
「おー!」
一部の参加者が少し小さな声をあげる。まだ心の準備がとは思うが、隣にいるなゆのは見たことのないような真面目な表情で、しょうあも似たような表情だ。
「大丈夫だよ、ななと。このあなたの相棒?なゆの様がいるから。さっ、行こう」
なゆのが手を繋いできて、励ましてきた。正直表情は変えていないと思うけれど、何かを悟ったように、不安そうな表情に見えたのか、笑顔でこちらを見ていた。言葉が話せるようになって思った。なゆのは名のことも物凄く見て来てくれたなだと。
「始まるよ」
しょうあは一声呟きながら、顔を後ろに向けて微笑んだ。
「それでは、皆の者我々の力を見せつけるときがきた。行くぞ。我の闇の炎を目印に、突き進め、輝け漆黒の者よ」
天使さんが杖を高く上げながらそう言い、空に向けて魔法を発射する。ドンッという音を鳴らし、天使さんが1番に駆け抜けていった。名たちも橋を渡って、市街地へ向かう。
駆け抜けていった町では、急の出来事のように、人が向かっているのが見えたのか、一斉に人々が建物の中へ入っていった。その様子を横目に見ながら、名たちは通り過ぎる。天使さんはかなり前を走っており、続いて魔法学校の先生二人、そして、名の前になゆのとしょうあがいる。走るスピードは名でも全然遅れない速度である。
「乱だ、乱だ」
と誰かが叫ぶ。いらないことをしていると戦いを起こしに来た側である名はそう思った。建物が並ぶ街を抜けると、いきなり市の軍らしき組織がぞくぞくと勢ぞろいし、立ちふさがった。
「貴様ら何のつもりだ」
組織のトップぽい人が声を出す。天使さんはわずかに笑みを浮かべ、なゆのはクールな表情を見せ、しょうあら他の多くの人は真顔で、ところところににらめつけるような雰囲気の人もいる。自分は自分でどんな顔をしているかわからない。それくらいの空気である。
「さあ、皆の者、行くぞ」
お話をするんかと思いきや、天使さんはまさかの先制攻撃と言わんばかりに魔法をトップぽい人めがけて放つ。後ろにいた参加者も天使さんに続き、魔法を放ったり、相手に接近しに行く。その姿を名はあっけにとられていた。まさに、目の前で戦が。
「よし、ついに出番。活躍してきます」
名の方を見ながらなゆのがそう言い、戦いの中心地へと入る。気づいたらしょうあの姿はなく、二人ともいざ始まって、マジでっていうか、度胸がすごいというか、決心できていてさすがだと思いつつ、1分ほど経っていた。
名ならいける。名ならできる。このななと様ならと言い聞かせながらも足が前に出ない。あの場に行こうと頭では思っているのに。さっ、行こう。いや、行けよ。お前。同じように何もせずに見ているだけの仲間はおらず、近くにいるのは町の住人のみ。その人たちは、戦いの様子を見ているようだった。何人かは唯一立っている名を見ている。恐怖や自分だけ動けていないという恥に加えて、数人に単独で見られるという緊張さも出てきて、もうパニックになりそうで。
バタン・・・
少し奥で誰かが倒れた。軍の格好ではない。仲間だ。
すると、後ろになぜか急に気配を感じた。こんな経験はない。後ろを見ると剣を振ってきた敵?がいた。
「はっ」
気づいたら初めてでいきなり使えた光魔法を放っていた。見事当たったらしく、相手は倒れる。遅れて攻撃態勢に入ったのも関わらず、先にやることができた。魔法の力恐るべし。無事、剣にも当たらず、目の前にポトンと置かれた。つまり、この結果、名はついに人をやってしまった。でも、そのことに関しては特に動揺はしなかった。急な展開で何がどうかはよくわからなかったが、勝てたことに少しながら嬉しさを感じたからだと思えた。
再び、場の方を見ると、仲間がさらに倒れていて、それでも軍の人間も複数人倒れていた。すると、ちょうど奥になゆのが軍の者、一人をきれいな天魔法で倒した。なゆのと目が合う。なゆのは人差し指を立てて、笑顔な表情を見せた。そして、名の倒した者の方に目線を向けると再び人差し指を立てて、さらに奥へと走っていった。少し、落ち着き、ほっとした。そして、勇気を出してもっと名も活躍しなければと思った。
本日は元の世界から着てきた衣装であるため、着心地がよく、動きやすい。タイミングよく戦えるのだから、恵まれていると思いながらついに、中心地へ行こうと動く。
「そこで何をしているの」
突如、斜め前から堂々とゆっくり、明らかにこちらを見ながら1人の少し大柄な人が現れた。
「私は、香増市治安維持隊副隊長、いずれは隊長になる男、白井だ。貴様はこの非常識な者どもと同じ反乱軍の一員だろ。ここで、一人参加せずに観覧していて、何をしている」
「い、いやあ、反乱軍って、ただのえっと通りかかりの者というか、いや、ここに1人この最強の力でぼこぼこに返り討ちにしましたけれど、いや、な、何ですか」
「もういい。一人離れているところにいるから気にしてやっただけだ。では、さっさと楽にしてやるからな」
意味不明な、どっちつかずな、かっこつけるのか、逃げるのか、どうしたいのか、自分でも頭が回らないままあやふやな反応をとりながら、結局やばそうなのに目をつけられて、相手は剣を両手で持った。いきなり、単独で話しかけられ、名乗られて、パニックになっている間に戦闘に。相手は大きな剣に頑丈そうな鎧、名と比べ物にならない体の大きさと筋肉。勝てるのか。2回目の生死に影響する新たな最大のピンチなのだと、相手が剣を構えて、そう感じた。
久しぶりの投稿となりました。
これからも作品をお楽しみください。




