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10話 それぞれの持つもの

名たちは学校の校舎に囲まれた広場に案内された。あの嫌な態度の学長に。それで、少し待ってろっと言われた。


 「なゆの、確かにあの僕の対応は良くない。でも、あれがあの場では最適だったんだ。理解しておくれ。あと、相手だったり場に応じて少しは状況は見極めてくれ。僕からの約束だ」


しょうあがそう言う。なゆのは笑顔でうなづいている。多分、わかってはいてくれてるだろう。それにしても、しょうあはなゆのには正直優しい。名にはあれだけ強く怒ったのに。ただ、この姿になってまだ3日。言葉も話せなかったから、あまり強くは言えないんだろう。


あと、なゆのは物凄く強い性格の持ち主であるようだ。よく考えてみたら、ここまであまり怖そうにしたり、不安そうだったりしている表情はなく、そんな声も出していない。何なら、ほとんど笑顔ばかりしか見ていない。

さっきのことでも、あれだけ脅されて、このあとずっとここに居たら間違いなくひどい目に合いそうなことが起きると予期できることをも告げられたのに、一切怖がっていない。急にごめんなさいとか弱気になることもなく強気で居続けた。


おそらく、なゆのは名とは違う。だから、改めて心配する必要はない。そう感じたのだ。


数分後、1人こっちに向かって歩いてきた。


 「えっと、皆さんこんにちは。この学校の教授の羽賀と申します」


 「こんにちは、この度突然ですが学ぶことになりました、松泡です」


 「いや、本当に突然ですね。さっき、私も学長に今から行けって言われたもので。今からっていうか、午後からは今日休みだったもので。でも、あの人には逆らえないからね。正直、無茶苦茶腹が立ちます。せっかくの休みが。我々を何だと思っているのやら」


 「いや、すみません」


しょうあはそう返した。すると、


 「いやいや、あなたたちは悪くないですから。謝らないでください。でも、この分の給料出るのかな?以前、同じような感じで働かさせられた人が出なかったって聞いたような。それはいいとして、なぜ今回急に?」


しょうあは言う。


 「いや、ちょっといろいろと混乱があって、結果的に今日からっていうか、まあ、やるという話に」


 「もしかして、学長と揉めてました?すごいイライラしながら言ってきて。そもそも断れる雰囲気ではなかったんですが」


 「まあ、ちょっと」


 「まじですか。気を付けた方がいいですよ。これまでもあの人気に食わなかった人に対して自分の権力を使ってひどいことをしてましたから。何人も。特に議会のトップになってから。もしかしたらのために逃げるべきかも」


 「ご心配くださりありがとうございます。でも、大丈夫です。あの、ではさっそく・・・」


しょうあがそう答える。いや、心配まではしてたか?それは関係ない。

っていうことで、授業が始まる。


 「まず、皆さんがどんな魔法が使えるのか、チェックをします」


 「そもそも、魔法は9つの属性があります。火・土・光・風・水・氷・天・闇・無です。そして、その中でも魔術か剣術かのどちらが自分にとって合うかが重要になってきます。魔術は杖といった物からか、手でそのままそれぞれの攻撃を、剣術は武器あるいは手や足といったものから攻撃をします」


続けて羽賀さんは言う。


 「ちなみに、回復魔法や吸収魔法といった無属性の特殊なものや防御といった土属性独自の剣術もありますが、これらは極めて稀です。そもそも、魔法がうまく使えない体ということだって多くあります。それが理由で1日で辞めちゃった子もいます。まあ、基本的にここに来るのは子供ばかりっていうか、若いときに学んで大人になることが普通ですから」


 「火・土・光・風・水・氷がそれぞれ1割程度、天と闇を合わせて1割(それぞれ0,5)、無属性が3割程度使い手がいるとされています。まあ、どれが希少とかはないです。ちなみに、私は水の魔術を使います。ただ、水の剣術も使えます。ただ、魔術の方が種類も多く、威力も断然強いということでこっちしか使わないだけです」


 「さらに補足すると闇魔術には毒や相手への状態異常、天魔術には攻撃力アップや自分あるいは仲間への状態向上、状態異常無効といった戦いが有利になるものもあります。希少性はないとはいったが・・・まあ、重宝されるとかはあるかもしれないですね」


 「なるほど、よくわかりました」


しょうあがそう答える。この世界での仕組みがさらに分かった。つまり、天や闇は珍しく、多くの使い手がいる無でも場合によってはレアになる。結構、複雑だと感じた。


 「あと、剣術を扱う人の3分の2は無属性で、天と闇は基本的に使えない(つまり、魔術のみ)、土は先ほど言ったように防御である。使い手の割合自体は、魔術が6割ちょっとだ」


そう羽賀さんは言った。っていうことは、無属性自体の魔術を主に使う人は少ないんかな。確かに、独自のが多そうだったもんな(無属性の魔術には)。


 「では、さっそく皆さんがどの魔法を使えるのか。魔術と剣術のどちらが合うのか検査をしましょう」


ついにこの時がきた。この時を楽しみに待ちながら聞いていた。隣にいるなゆのは目を輝かせている。

自分は何が使えるのだろう。でも、やっぱ魔術が使いたいよね。っていうか、剣術を使える自信がそもそもない。闇は面白そうかつダークさがあってかっこよさそうだけど、攻撃っていう感じがしないなあ。天もカッコいいけれどさっきの話から手助けする感が強いなあ。うーん、ってなると光がいいかなあ。1番強そうで見栄えが良さそうだ。


 「ななと、なゆのじやなくてわたくしは天を希望するのです」


だから、その1人称は何?とはいえ、なゆのは天がいいのか。やや使い手が少ないらしくきれいでかっこよさそう。正直、なゆのに合っていると感じた。


 「そうなんだあ。似合うと思うよ。名は光を希望するのだ」


 「似合う、似合う。ななとにぴったりです」


 「二人ともこの杖を持って」


しょうあが茶色のザ魔法杖というような古い感じのを持ってきて渡された。どうやら、これを持って杖を上に突き上げると使える魔法がわかるらしい。まずは、ちゃんと使えるところから願わないと。

まずは、しょうあがいく。


 「では、いいですか」


 「はい、大丈夫です」


名たちはしょうあの方をみて、見守る。  


 「しょうあ、何がいい?」


なゆのが突如聞く。


 「いやあ、普通に使えるなら何でもいいよ」


しょうあがそう答えると、上に杖を突き上げる。その姿は物凄く良い。


杖からは緑の光が輝いた。しょうあは腕を下す。


 「おお、風の魔法ですね。色の濃さが強かったから魔術が合うと思います。あと、結構威力がありそうで、才能があるのかも」


 「そうなんですね、良かったです」


何でそんなに冷静なんだ。才能があるかもって言われてるんだよ。にしても、風かあ。いいとは思うけど、正直しょうあは氷が似合いそうだなあと勝手に感じていた。

次はなゆのの番だ。なぜか、っていうか、流れ的に名はラストになった。ある意味プレッシャーを感じる。


 「いけえ、なゆの様の力!」


そう言うと、なゆのは腕を上げる。とてつもない笑顔だ。


白色に杖の先が光る。


 「先生、これはどうなんですか」


なゆのは羽賀さんに詰め寄る。羽賀さんは落ち着いてというような表情をして言う。


 「これは天魔法です。最近、この学校ではあまり見ていなかったので、久しぶりに。天は魔術のみなので」


 「本当に!希望通りだ」


なゆのは満面の笑みで名に抱き着いてくる。


 「良かったね、なゆの」


 「うん。最高の気持ち。先生、威力はどうですか?」


 「しょうあさんと同じように才能はあるように感じます。少なくとも弱くはないです」


そして、ついに名の番がやってきた。みんなが見守る中、名は静かに杖を空へと突き上げる。何か言おうかなっと考えたけど、何も出てこなかった。これまでとは違う感じで緊張していた。結構、名は緊張する性格のようだ。今、気づいた。


名が希望した光になるか。少なくとも使えるだけはあってほしい。威力もあればいいが、まあ、そこまで願うのはわがままだろう。っていうか、別に神様を信じてる訳ではない。あくまで自分に対してだ。?


名が持つ杖の先は黄色に光った。まだ、何も言われていないが、なぜか嬉しい気持ちになった。


 「これは、光魔法ですね。色が濃いので、魔術向けですかね。いや、皆さん威力があるように見えます。才能があるかもしれませんね」


なゆのが再び抱き着いてきた。 


 「ななとも希望が通おって良かったね。なゆのも嬉しいよ」


ああ。まずは普通に使えるということが一安心だ。それから、希望の光の魔術が使えるということで。ただ、うまく行き過ぎているっていうか、運をとても使っているように感じて、逆に不安にもなるという。まあ、でも良かった。


 「皆さん、魔術型ということで。では、その杖は差し上げますから、次にどんな技が使えるか、確かめて、さらにとりあえず使える技の練習をしましょう」


そうして、練習が始まった。名はレーザーのような光攻撃、しょうあは横から出す風攻撃、なゆのは目では見えないレーザーみたいな攻撃がそれぞれ使えた。始めから多くの人が使える1番基本的な魔法のようだ。っていうか、何か光と天の攻撃魔法は似ているなあ。


羽賀さんに尋ねるとそもそも天と闇は攻撃もできるがサポートだったり妨害だったりがそれぞれ中心とのこと。だから、天の場合、攻撃に関しては光に似るのは仕方がないとのこと。


ちなみにだが、名たちに関係はないが、回復魔法を扱える無属性魔術の所有者はこの時点で攻撃ではなく、回復の基本魔法しか使えないとのこと。っていうことは、この人たちはそもそも攻撃できないので、冒険が1人でできないようだ。こういうところ、重要な情報だなあ。


そうこう言われたことを振り替えながら威力が向上するよう練習を続けていた。なゆのは、ポーズまで取りながら。打った後、どや顔をしたり、下を向いたり、名がやっていた腕を前に出したり、急に笑い出したり。いや、最後のは悪役の姿ではないか!


ちなみに、名は新たに顔の横に親指を立て人差し指と中指でピースをして手のひらを自分の方に向けるポーズを発案した。なゆのと共に左右対称に腕を出すポーズも再現した。無茶苦茶楽しかった。多分、この世界に来て1番。一方、しょうあは真剣にやっていた。


なゆのはこれから、攻撃魔法ではなく、サポート系の魔法を習得するのかなあ。3人でパーティーを組むとしたら、二人で攻撃して、なゆのが後ろからっていうのがベストのような気がする。まあ、それはなゆの次第だから。今考えることではないな。


ってか、名は前衛にいないといけないのか?そう思うと急に怖くなった。前に立つのは苦手だ。後ろでみんなの様子を見ていたいタイプだ。やっぱ、サポートの方が良かったかもしれない。まあ、後ろからの急な襲撃には合わないだろうけど。


今日の授業、最後に実践練習をすることになった。ここで、今日の練習の成果や今自身が出せる威力が図れる。まあ、ある程度の力が出せたら今はいいかな。


今回の的は、鉄?の鎧を着た人形である。


 「ななと、とりあえず黒いマント探しにいこうね!」


なゆのが急に話しかけてきた。ああ、そうだね。魔法使いらしく見た目には気を遣おう。って、それは今関係ない。そうは感じながらもうなづいた。勿論笑顔で。すると、それを上回る笑顔で返してくる。世間は冷たいけど、ここの空気は暖かいようだ。


今回はいきなり名からになった。これもまた流れだ。まあ、皆に手本を見せてあげよう。


そう、定位置に立つ。腕を上げ、ぱっと前へ杖の先を向けて鎧に向かって魔法を打つ。いや、とてともなく気持ちいい。おそらくだが、かっこよく見えてあるだろう。

すると、光の魔法はきれいに鎧の真ん中に当たる。腕の質が上がったようだ。そして、きれいに穴が背中の方まで開き、後ろにある板で止まった。


 「おおー、これはすごい威力だ。習得して数時間とは思えない強さだ」


っと、羽賀さんは声を荒げて言った。 


 「え、、そんなにすごいの?」


名はすぐに聞いた。


 「すごいよ。ここまでの威力を初めてで出すのは見たことがない。君、才能があるんじゃないの」


まじでっと思った。嬉しいという気持ちよりびっくりの方が強かった。こういうのって、運動神経がいいとか、体力があるとか、そういう人が才能があるのではっと思った。ほとんど、運動もしてこなかった人間が才能あるなんて。こういうのはやはり運なのか?それとも、転移者だからなのか?


 「ななと、良かったなあ。才能があるって。よし、わたくしもななとに負けないように頑張るぞ」


っと言って、なゆのが定位置につく。


 「もしかしたら転移者はそういう才能があるのかもしれないな。でも、調子には乗らないでね」


しょうあがそう言う。わかっているって、言われなくても。きちんとうなづき、なゆのに目線を向ける。


 「いけえ、なゆのつよいつよい光線!」


いつの間にか必殺技名ができていた。ちょっと、あれだとは思ったが、なゆのが満足しているならそれでいい。

そんななゆのの目には見えない光は、そんなことを考えている最中に鎧を貫通させていた。


 「すごい、またもや鎧に穴を。皆さん本当に才能が・・・」


 「予想通り。ななとができたんなら、なゆのもできるのは当たり前」


そう言い、皆に向かって指をさしながら、広場を回っていた。よっぽど気持ちいいらしい。

しょうあが羽賀さんに聞く。


 「初めてで鎧に穴を開けるのはすごいんですか?」


羽賀さんは言う。


 「穴を開ける方は稀にいますが、背中にも開けるのは見たことがありません、初めてでは」


 「これまで、旅の途中にここへ来て、魔法を習った方もいたと思うんですが、その方々はどうでしたか」


しょうあがそう聞くと、


 「確かに、他の人たちに比べたら威力はあった方ですが、ここまででは・・・。ただ、多くは8歳くらいで習得する人が多い中で、旅人の皆さんの多くはもう大きい方がほとんどですからね。まあ、そこがどれほど違いが出るかはわかりませんが」


しょうあはさらに尋ねる。


 「僕たちは16なのですが、それでも初めての割にはすごいですか?」


 「ええ、いくら大きくなってからだとしても、普通背中まで穴を開けることは困難です。すごくないということは絶対ないです」


 「な、なるほど」


 「しょうあ、そんなに確かめても何にもならないって。我々はその辺の普通のやつらとは違うんだから。才能がある、ただそれだけだ。ねえ、ななと」


 「う、うん」


名はそう答える。なゆの、言い方がすごいうざいやつみたいになっちゃっているが・・・。まあ、悪気はないのだろう。それにしても、さらに言葉が上達しているな。そこに名は関心していた。


 「さ、次はしょうあだよ。何となくなゆのの勘?だけど、しょうあも力を持っていると思うよ」


 「名もそう思う。心配する必要はない。頑張って」


名はそう言った。なゆの同様、名もそう感じた。転移者だからという訳ではないようだが、2人とも才能があるのなら、しょうあもあると思う。理由はないが。ただ、そう感じたのだった。

1日遅れました。また、大分長くなってしまいました。


これからも作品をお楽しみください。

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