作品ボロクソ
某喫茶室にて、テーブルの上に原稿用紙が何枚か置かれてある。
出版会社王道館『ルンルンノベルン』編集部の辺と作家志望の茂無が向かい合い、応募作品についてを話し合っているところだ。
空気は結構淀んでおり、そんな中作品への酷評が下された。
辺
「色々云いたい事あるんだけどさ……先ず、何これ?
この、道をさ、縮める……『でえたらぼっち物語』?
ヒドイ、ヒドイ」
茂無
「え……どの辺りに問題があるんでしょうか?」
辺
「いやいや!
何故、気づかないかな?
救急車だよ、タイヤのトコ!」
茂無
「タイヤのトコ……パンクするシーンですね。
ここ、結構考えたんで……」
辺
「考えた?
これ考えて、これなんだ?
へえええ……あのさ、命を救う為の救急車のタイヤはさ、砂利道ごときでパンクしないんだよ‼」
茂無
「え?
しない……え?」
辺
「何本気で驚いてんだ?
君、年いくつ?
小1でもそのくらい知ってるよ‼
救急車のトラブル描くんならさ、他の車の事故に巻き込まれたとか、土砂崩れに遭ったとかさ他にあるだろ⁉
パンクって何だよ……レベルがロー過ぎるわ‼」
茂無
「す……すみませ……」
辺
「後さ、これ。
日舞の話……扇子を隠されたヒロインさ、この子なんで扇子を隠した先輩がそれを探してたなんて思う?
扇子の話してないのに、話の食い違いが出てきてるよ!」
茂無
「それは、ですね……これまでに度々ヒロインの物が紛失していまして……その都度その先輩が見付けた風に芝居を……」
辺
「続けて物が、紛失?
してるのに、未だに先輩を信じるヒロイン……この子アホ?
鈍いにも程がある‼」
茂無
「つまり、ですね、ヒロインは他者をうたがう心を持っておらず……純粋……」
辺
「いやいやいやいや、純粋って、違うよ、アホだよ!
この子アホなヒロイン『アホイン』だよ‼
いい加減、気付けよ、『アホイン』はよ!」
茂無
「……」
辺
「後さ、これ、この作品なんだけどさー」
辛口編集男性、その名は辺……彼の酷評は終わることなく、この場を蟻地獄の砂のように吸い込んでいくのだった。