Quaiet Story: 1st one
「くはは!四番席次も実は大したことないんだな!!」
全身をアダマンタイトのフルアーマーで包んだ、いかにも屈強な戦士が言う。彼の冒険者ランクはS+、全体の冒険者ランクのうちの最高位である。国の中で有数の上級戦士であり、二つ名は「鉄の獅子」。最高品質の防備に身を包みながら、それでいて自身の鍛錬を欠かさず行い、防備なしでも彼の身体はダイヤモンドの様に硬い。まさに最強の戦士、それが彼であった。
ただし、この場にいる最強は彼だけでない。「暴風王」の二つ名を関する上級魔法使い、「神の代理人」の二つ名を関する上級神父、そして彼らを束ねる勇者。人々はこの勇者を神話の英雄を喩えて「ヘラクレス」と呼んだ。
「ほんとぉ~、『弓騎士長』がやられたって聞たときはどんな強大な相手なのかと思ったけど、興ざめぇ~、こんな雑魚で国から莫大な報酬が得られるなんてほんっとコスパいいわ~!!」
目の前の怪物を嘲笑するように上級魔法使いが悪態をつく。
「えぇ、全くその通りでございます。この程度であれば勇者様が出るまでもありません。」
魔法使いの悪態に呼応しながら神父が言い、「全くだ!」と戦士がうなずく。
「いや!これはみんなのおかげさ。みんなが強すぎるんだ、あぁなんて可哀想な怪物だろうか。こんなにも未熟であるのに四番席次に選ばれたばかりにボコボコにされちゃって。でも、どうか恨まないでくれよ。君が負けたのは僕たちのせいじゃない。君が弱いのが悪いんだ。」
まるで勇者のいう言葉ではない。だが、この人物こそいわゆる”勇者”と呼ばれる存在であるのだ。
「さて、そろそろトドメといこうじゃないか!早く帰らないと”俺の女”が寂しがっちゃうからね。」
「へへ、さすが勇者様はモテますな!!」
「えぇ、全くです。」
「もぉ~、帰ったらあたしにも”ご・ほ・う・び”くださいよ?♡」
勇者の呼びかけに各々応じたあと、勇者は倒れている目の前の怪物に身体を向けた。
倒れている怪物は「死神長」の二つ名をもつ九大魔族の四番席次である。九大魔族とは、魔界の支配者である闇の帝王に仕える九体の有力魔族である。そして彼らには「席次」の称号が一人ずつ与えられ、その席次に応じて戦闘力が高くなる。つまり、四番席次とは九大魔族の中で四番目の強さをもつ実力者ということになる。
ヘラクレスはかつて九大魔族の八番席次である「墓場の守り人」の二つ名をもつマルボロに惨敗した過去をもつ。その時に彼は仲間に助けられ、命からがら魔界の大墓地「セメタリル」から逃げた経験がる。その際、彼の仲間は一人も助からず、それ以来彼は雪辱を晴らすため、日々鍛錬と功績を積み、今では「英雄ヘラクレス」となった。だからこそ、彼には疑問だった。いくら自分があの頃より強くなったとはいえ、マルボロよりも遥かに強いはずの四番席次が自分、それどころかパーティの戦士に敗北するのかということだ。頭の中と矛盾する今の状況に困惑しながら、とにかく早く帰りたいという思いにひたすらに駆られていた。
勇者は剣を持つ。聖剣であり、人間界の中でも屈指の業物だ。それを目の前に倒れている怪物の心臓にブスリと突き刺した。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
剣を刺した刹那、さっきまで悪態をついていた魔法使いが叫んだ。
勇者はとっさに振り返り、彼女の目線の先に視線を向ける。
そこには、さっきまで快活な物言いでドシリと構えていた屈強な戦士が大量の血を流している姿があった。見事なまでに心の臓をえぐりとられ、アダマンタイトの鎧に傷は一つもついていなかった。つまり、身体にだけ傷がついているのだ。
「の、呪いです...。」
先ほどまで余裕綽々であった神父は声を震わせながら言った。
「呪い...!?」
「いったい誰が呪いをかけたっていうのよ!!」
魔法使いが声を荒げるのも納得である。というのも、四番席次を討伐しに来る最中、冒険者パーティは誰ひとりとしてクリーチャーや他の人間にあってはいないのだ。四番席次の支配領域に足を踏み入れてから、ただこの四番席次にしか会敵していないのである。だが、その四番席次はこうして戦士が戦闘不能の状態にまで追い詰めたはず。だからこそ、彼らには見当がつかないのである。
しかし、彼らの犯した失敗はこれからのことである。
彼らは、戦士が失血死したことに気を取られすぎてしまった。
そのことに勇者が気づくころには既に事態は起こっていた。
魔法使いと神父が夢中になって戦士に寄り添っている一方で、嫌な予感がした勇者はすぐに倒れている怪物の方に目を向ける。
「いない...。」
さっきまで目の前で倒れていたはずの四番席次の姿は失われていた。
すると頭上から幼い女子のような声が聞こえてきた。
「ぬはははは、やっぱり人間種はバカだな。劣等極まりない。目の前にクリーチャーが倒れているにも、自分の強さを驕り、すぐにトドメを刺さずに放置。まぁ、すぐトドメを刺すにしても同じ状況になっていたんだけどね、うははははは。」
その声は、愚かな者を見下す嘲笑に満ちたものだった。
「お前は...誰だ!!!」
勇者は声を荒げる。それは怒声に近かった。
「え????なんてお笑いなのかな????君たちは、もしかして本当にバカだったんだねぇ???」
そう言いながら、一人の少年...?いや少女とも見える子どもが勇者の目の前に現れた。
「吾輩は、闇の帝王が配下、九大魔族四番席次、『死神長』、"ユウマ・ドルーヴィス"だ。そう、君たちが討伐するべき敵は、吾輩だよ。」
”ユウマ・ドルーヴィス”...。勇者はその名前に聞き覚えがあった。忘れもしない過去。彼の仲間が無残に八番席次に殺された日。あの時にマルボロが言っていた言葉。
『全く、闇の帝王に関わるとこうした雑魚を相手にしなくてはならない。どうして”ユウマ様”ともあろう御方が帝王の傘下にお下りになられたのか。甚だ疑問でございます。ただ、いかなる事情があろうとも、私はただ、ユウマ様、貴方様に忠義を示し申し上げます...。』
そうか、目の前の奴こそマルボロの主人、つまり本物の四番席次「死神長」なのか。
しかし、おかしい。さっき俺たちが倒した奴は誰だったのか。目の前の四番席次と違い、身長も体つきも何もかもが違っていた。
「さっき君たちが倒したのは吾輩のビスクドールさ。美しかっただろう?」
誇らしげの様に死神は答えた。
「アンタ、人の心が読めるの...?」
(グサッ)
魔法使いが死神に尋ねた刹那、どこからともなく現れた剣がたちまち魔法使いの腹をえぐった。
即死だ。魔法使いは驚く暇もなくそのまま息絶えた。もちろん、上級魔法使いであるから最高位の自然防御魔法を発動させていた。にも関わらず、魔法使いの腹は肉片になっている。
(ユウマアアアア!!!!!)
勇者は強い怒りを覚えながらも、身体が震え死神へ踏み込む一歩さえ出なかった。強大なオークであっても、大量のスケルトンの群れにも躊躇なく立ち向かう彼の両脚は、死神の前で停止していた。
それは勇者自身があまりにも恐怖に支配されていたからだ。圧倒的な力量の差を推し量っていたから、勇者が真に強いものであったからこそ足は前に出なかった。
「はぁ、人間の小娘はやっぱり下品極まりない。人に向かって”アンタ”なんて、どんな教育を受けたのかな。生まれつき魔力が少し強くてチヤホヤ甘やかされて育ってきた人間はいつもこうだ。この程度の魔力、上級魔族には太刀打ちできるかもだけど、最上級魔族の吾輩には無にも等しいわ。」
『言葉遣いを誤るだけで殺された。』その出来事に勇者はただただユウマの恐怖を再確認した。
「あなたは!!神の意向に反している、決して許されない存在です!!滅びなさい<神の弓矢>!!」
魔法使いを殺されたからか、神父は怒りを露わにし速攻魔法を撃つ。この魔法は聖職者しか使うことが出来ない反面、非常に強力なもので、消費魔力量も一般魔法と比にならない。つまり、人類が使う魔法の最高峰といえるものである。
「この程度か。」
そういうと死神はポケットから取り出したビスクドールで攻撃を受け止めた。しかしながら、あれ程の強力な魔法攻撃であったにも関わらず、ビスクドールに大きな外傷は見当たらない。
その時、勇者は手に生暖かい何かの液体を感じた。それは赤い液体。源流を辿ると、そこには強力な魔法で腹を撃ち抜かれた神父の姿があった。そしてその傷跡は間違いなく神の弓矢によるものだった。
勇者はすべてを捨て逃げた。とにかく早く、何より早く、絶対に逃げ切らなくては、そう誓った。足を止めてはいけない、止めたら殺される、少しでも早くこの場から逃げ出したい。あの時の様に、仲間を見捨てマルボロから逃げたあの時のように。
ーへぇ、マルボロを知っているのかぁー
勇者は絶望した。目の前にいる少女のような死神が、結晶のように余りにも美しい死神が、笑みを浮かべて立ちはだかったからだ。
「ねぇ、勇者くん。吾輩のことを恨まないでくれよ。恨むなら、弱い君自身を恨むんだよ。」
そう言い。死神がビスクドールにナイフを突き刺すと、勇者はたちまち真っ赤な花火となった。
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「とりあえずこんなものか。仕事も終わったし、帰って本でもよもー。」
そうつぶやきながら死神は闇へと姿を消した。
少し前に出てきたドルーヴィスの過去編です。
本編が区切りを迎えるたびに投稿できたらいいなと思ってます。
ちなみにドルーヴィス自体の強さは四番席次の器ではありません。いい意味で。
それでは、今年も今作をお読みいただきありがとうございました。
来年も連載を続けてまいりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。