Vegetable shop
(....じょうぶか...、だいじょうぶか...?)
かすかに誰かが自分に話す声が聞こえる気がする、、、。
俺はさっきまでユウマと一緒に異空間にいた。そしてこの世界に召喚された。
その間にかすかに無機質な声で何かを読み上げている声が聞こえた。多分恐らくだが、俺かもしくは誰か近くにいた人物に話しかけていたように聞こえた。ただ、あの場所には俺しかいなかったはずだ。だからきっと俺に何かを伝えようとしていたのだろう。ただ、なんと言っているのかは聞こえなかったが。。。
「おい、兄ちゃん、大丈夫かってんだ。」
「うおぉ!?」
「んだよ、そんなに驚いて。驚きてぇのはこっちだってのによ。急に空から降ってきたんだからな。」
「あぁ、これは失礼しましたぁ....、って、今なんて?」
「んん??だからこっちが驚いたって言ってんだ。」
「いや、その前の、、、」
「あぁ、お前が空から降ってきたって...」
「えぇ!?!?」
俺は驚愕した。たしかに召喚されたところまでは覚えていたのだが、まさか空から降ってきたのか。
ラピ〇タじゃねぇんだから、、、。でも、こうして世界に落ちてきたってことはユウマの言っていた通り、召喚が成功したってことだよな。それにしても、なんの説明もなしに放り込まれるのは、ゲームばかりやってチュートリアルの存在に完全に慣れていた俺には酷な話だ。とにかく、何かしら行動を起こさなければ。。。
とりあえず俺は身体を起こし、目の前にいる男にこの世界について聞くことにした。
「な、なぁオヤジ、ここはどこだ。俺はこの通り、何の準備もなしに召喚させられて右も左も全くわからねぇんだ。」
俺の問いに男は怪訝な顔を見せたが、答える。
「ここはスミノフの街だ。領主ドレイク様の統治される街。昔はウィトー家の領主が居たが、あいつらは悪政者でな。領民のことをちっともわかっていねぇ。だから、ドレイク様が先の戦いの領地替えでこの街を統治し始めた時、俺たち領民は喜んだもんだ。なんてったって、税金の半分は浮いたからな!領主様には頭が上がらねぇってことよ。」
(思ったより詳しく教えてくれたな...、まぁでも、かなり参考になったな。領主ドレイク、どんな人物なんだろうか。)
「オヤジ、教えてくれたありがとな!」
「あぁ、まぁいいってことよ。ところで兄ちゃん、そういえばお前何者なんだ?」
「え、、、?何者?」
「あぁ、何者なんだ?」
「んー…。」
「おう...。」
「んん?」
「おう?」
「なぁ、オヤジ。」
「あぁ、なんだ。」
「俺って、いったい何者なんだ...?」
ーーーーーーーーーーーーーー
「おーい!兄ちゃん、こっちの荷物も頼むぜー!!」
「はーい!いますぐ!!!」
俺の名前は、山口隼人。今はこうして元気に働いています!
一週間前、俺はこの異世界に召喚された。今いるこの街はスミノフという街で、ドレイク伯という領主様が治めているらしい。そんなスミノフの街で、八百屋の店主であるジルドさんが一文無しであった俺を雇ってくれた。だからこうして汗水垂らして働いているというわけだ。
八百屋の仕事は意外にも俺が元住んでいた世界となんら変わらない。召喚前の世界でも俺は居酒屋のバイトをしていたから特に接客に抵抗はない。それどころか、この街の人はジルドさん同様、親切な人が多い。これもドレイク伯が良い統治をしているおかげなのだろうか。
「このナルッポ5つ頂けるかしら?」
ナルッポというのは、召喚前の世界でいう梨のようなものだ。非常にみずみずしく、それでいて甘い。色は梨よりももう少し緑色であるが、よく熟すと茶色っぽくなる。
「ナルッポですね!かしこまりました!!」
「ハヤトくんは、いつも一生懸命で見ていて気持ちがいいわね。」
目の前の淑女は、町長さんの奥さんで八百屋に頻繁に通ってくれる常連さんだ。ちなみに、スミノフの街はドレイク伯の直轄地であるが、ドレイク伯の流動的な市政をしたいとの方針により、町長さんが街の支配をしている。だからこそ、街の実態もすぐに把握でき、最適な市政を行うことができる。
「奥さんも!いつも通っていただいてありがとうございます!こちらナルッポ、1つオマケしておきますね!」
「あら!ハヤトくんは商売上手ね。でも、ありがとう。またお邪魔するわ!」
「はい!ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております!!」
そう言ってナルッポを持つ婦人を見送る。
「兄ちゃーん、勝手にオマケされちゃ商売困るぜ?」
口ではこう言いながら、いかにも「でかした!」と言いたげな顔のジルドさんが俺をからかう。
俺は、この街で順調に暮らしている。でも、なんで召喚されてまでこんなに勤勉に働いているのだろうか。悪いことではないんだが、普通異世界に召喚されたりしたらなんかすごい力とかステータスとか持っているものじゃないのか?
生まれながら魔力が強かったり、闇の帝王になったり、女神と一緒に冒険したり、スライムになったり...。果たして、俺に何か特別な力はあるのだろうか。本当にないのか、それとも俺が気づいていないだけなのか...。いずれにせよ、今はまだ情報が足りないしな。誰か有識者にでも今度聞いてみよう。
「すいませーーん!!」
「はーい!!」
とりあえず今は、もう少し仕事を頑張ろう。