The Flower Garden
ードレイク伯領、花畑ー
「お父様ったら、ここのところずっと王城の方に行かれて全然おうちでゆっくりされてないわ…。もう少しお休みになればいいのに。お母様がいたころはもっと…。」
若干16歳の少女、エカトリーナ=ドレイクである。
「いいえ、お父様もお忙しいのだわ。ここ最近、平野の方がどうやら騒がしいもの。」
そういいながら少女は哀しそうに視線を落とす。
「お嬢様、ここに居りましたか。」
ビシッときめたタキシードに身を包んだ初老の男が呼ぶ。
「お嬢様、勝手に外出されては我々は心配してしまいます。どうか、我々の許しを得てから外出されることを願います。」
「もう…、私は16なのよ!?未だにお出かけするのに許可を得ないといけないのかしら。」
「しかしそれでは…。」
「もしかして…、戦争が近いの…?」
少女は懐疑的な目を執事に向ける。
「どうしてそれを…。」
「そんなこと、近頃のお父様を見ていればわかるわ。何か抱えてらっしゃるお顔をしているの…。」
「お嬢様…。」
「ねぇ爺、なにか知っているなら教えてちょうだい!」
「しかしそれでは…。」
少女の鋭い視線を感じる。
(まことにあのお方の様だ…。)
「はっはっは!まったくお嬢様には敵いませんな!」
「爺!からかいは要らないのよ!」
少女はいかにも真剣なんだと頬を膨らませる。
「これはこれは、大変失礼いたしました。」
執事は半笑いから忽ち真剣な表情に戻る。
「帝国が平野を越えて我が国、正確には我らの領土に攻め込んでくると、旦那様は睨んでおります。」
「帝国が攻めてくる…!?でも、前回のは誤報だったじゃない…!今回もそうではないの…?」
少女は不安の塊に包まれ声が若干震えている。
「前回のはっ…!!!」
執事が声を荒げる。
「爺…???」
執事の豹変ぶりをみて少女は恐怖症を患った顔でこちらをのぞいてくる。爺は一息ついて話を続ける。
「声を申し訳ございませんでした。実は前回のは誤報ではないのです。」
「どういうこと…?」
初めて知らされる事実に少女は驚愕を隠せない。
「前回の侵攻の際、帝国は確かに平野最前線まで兵を進めておりました。しかし、寸前のところでビタ止めしたのです。」
「なぜ帝国はその様なことをしたの…?」
「スードル侯爵です。彼が帝国に情報を流しました。」
「スードル侯爵…!?」
少女にはその名前に覚えがあった。この地域に住む貴族の風習では、女子が16歳を迎えると婚約の話が持ちかけられるようになる。その持ちかけられた名簿の中に「スードル侯爵」その名前があった。しかし少女は婚約に前向きではなかった事により申し込まれた求婚を破棄していたのだ。
「でもなぜスードル侯がそのようなことをしたのかしら…。」
少女には侯爵の行動が理解出来ずにいた。
しかし、執事は理解っていた。なぜ、スードルが敵国に情報を渡すのか、王へ兵の派兵を抑制することを提案したのか。それは、スードルがエカトリーナへの求婚を拒絶されたからである。しかし、言えるわけがない。正義感の強い少女にこの事を話すと必ず少女が自身の犠牲になる事を理解しており、何よりも彼の主人ドレイク伯の意向ではないからだ。
「はて、それは私でも推し量ることの難儀なことです。」
そう言葉を濁すしかなかった。