Summon
ー日本、東京ー
『ぷるるん♡えんじぇる』、それはゲーム会社フリータイムズによって発表されたタイトルで、ネット掲示板を中心にオタク界隈で大ブームを引き起こした。
「ミカたんしか勝たんのです!」
悪い意味でツヤツヤした髪をもち、チェック柄シャツをピッチピチのジーパンにインをした、太っちょの野中が叫んだ。
「い〜やいや!リエルたんこそ至高なのです!!!なんとも愛くるしいビジュで、くりっくりの可愛い瞳。彼女こそが小生の最推し、いや、人類皆全員の最推しなのです!」
バンダナを付け、テロテロのだらしないTシャツを着ているメガネが印象的な河村が対抗する。
「何をぉ〜〜????」真夏のフードコートでオタク2人が自分の最推しをかけて相対している。
「それではこうしましょう。ズバリ山口氏に決めていただくのです。公平な判断をお願いするのです。」
と野中が言うと、それに呼応して河村も
「それはそれは良い提案と言えるでしょう。さて、山口殿お頼み申し上げますぞ。」
こぉ〜れは、正直めんどうな事になった。ぶっちゃけミカエルもガブリエルもどっちも可愛い。優劣なんて決められない。
だが、それはこの2人に限ったことである。そう、俺にだって推しがいる。その推しを発表すれば良いだけなのだ。
「俺は…。」
(ごくり…。)2体のオタクが唾をのむ。
「ルシファーたんしか愛せない!そう!俺の心はマイスイートルシファーなのだ!!!!」
ここ一番の大声をあげる。争いは不要。そう、推しの優劣争いなんて虚無でしかないのだ。
「「「は???????」」」
オタク2匹が軽蔑した眼差しを向ける。
「え?」
「あ〜なぁたはぁぁぁ!!!!大バカ者なのですか!!!なんてバカらしい人なのでしょうか!!!」
「えぇまったくです!本当に本当にその通り!山口殿あなたは大バカ者極まりない!!!!」
「そ!も!そ!も!ルシファーは裏切ったんですよ!!あの聖母のようにお優しい神々を裏切ったんですよ!!」
「えぇまったくです!本当に本当にその通り!ルシファーはあのお美しくてお優しい神々を裏切ったのです!」
「ちょ〜〜〜と、胸が大きいからって!容姿が端麗だからって!だぁ〜からといって、他のえんじぇるたん達を悲しませるなんてあってはならない!!!」
「えぇまったくです!本当に本当にその通り!許せない!!!」
流れて出る濁流のようにオタク2頭から、俺は永遠と罵詈雑言を浴びせられた。
ーーーーーーーーーーーーーー
俺のハウスルーティンはまず、コンビニで購入してきた1.5mlペットボトルのコーラを傍らの保温性金属カップに注ぎながら、ポテトチップスうすしお味を口に運び、足でPCの電源を入れることから始める。
PCが起動するや否や、もちろん開くのは『ぷるるん♡えんじぇる』である。
このゲームはログインボーナスや日替わりのショップなどが更新されるから必ず毎日ログインしなければならない。運動や勉強が続かない俺にとって、唯一継続しているのがこのゲームである。
「さて、ルシファーたんの部屋でもみにいくかな。」
このゲームには、「推し天」というものがあり、自分だけの推しの天使を選択できて、彼女たちの日常を拝むことができる。
「あら、ハヤトくんお帰りなさい。少し待ちくたびれてたところだったわ。」
ルシファーは落ち着いた妖艶美女のキャラクターである。そのスタイルや端正な顔立ちから一番人気になっても良いキャラだが、実態は圧倒的最下位の人気である。
それは、このルシファーというキャラクターが神々を裏切り、彼らが創った天界や天使たちに大きな被害をもたらしたからである。そのため、他の天使キャラとは異なり堕天使と呼ばれている。
「ただのストーリー展開なんだから、別にいいと思うけどなぁ〜。本当に可哀想。俺がこの世界にいる天使だったら間違えなくルシファーたんの仲間になるのになぁ〜。」
ぶつぶつと独り言をいう。
「ほんと…?じゃあ、助けて。私を。私たちを。」
「え?」
その刹那、俺はPCから煌煌とした光に包まれた。