teacher
スミノフに帰ると、街はかつてない喧騒に包まれていた。いつもの様な長閑な雰囲気とは似ても似つかないようだった。
「ハヤト!!!エリスちゃん!!!」
大声で背中を刺された。振り向くと、そこには顔に滝汗を浮かべたケルトさんがいた。
「とにかく、良かった。早く教会に顔を出してあげてくれ、神父様とジルドはそこにいる。」
「わ、わかりました。ところで、、、」
「それじゃあな!!俺はまた後で向かう!!」
この緊急事態に何があったのかケルトさんに問おうとしたが、忽ち彼は走り去ってしまった。
「いったいどうしたのかしら…。こんな様子、初めて…。」
「とにかく、教会に向かおう。」
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教会に入ると、中の空気は重く、血生臭さがあった。
内部を見回し、いつもなら等間隔に並んでいるはずの長椅子は教会両脇に片づけられ、そこには街の住人が5~6人ほどのグループにまとまる様に円を描き座っていた。
人々の顔は引きつれ、絶望の色が濃く出ている。
「エリス!!」
絶望する人々の奥にパウロさんがいた。その顔は、さっきまで絶望を孕んでいた名残を持ちながら、いま少し安心したのか、微笑みを浮かべていた。
「うおっ!」
パウロさんに話しかけようとした刹那、後ろからガバっと強く大きな力で抱えられた。
「ハヤトっ!!!良かった!」
大きな腕の正体はジルドさんだった。
「もう、お前が帰ってこないんじゃないかって心配したんだぜ。でも、良かった。ハヤトが無事に帰ってきてくれて。」
ジルドさんの目には少しの涙が浮かんでいる。
俺がジルドさんの目をじっと見つめていると、彼はその視線に気付いたのか、照れくさそうに目元を腕で乱暴に擦った。
そして次にはすぐに真剣な面持ちになって、俺とエリスの顔を見て言った。
「8人死んだ。男が1人、女が3人、子どもが4人。」
ジルドさんからは、そう業務連絡のように淡白に伝えられた。そこには感情がまるでこもっていなかった。敢えてこめなかった、そういう感じだった。
そして続けて、口を開く。あっという間の出来事だったという。ジルドさんやケルトさんなどの騒ぎを聞きつけた街の男達とパウロさんがその建物についた頃には、その建物は血で染められていた。
その日は街の婦人4人が1人の婦人を除く3婦人が各々の子どもを連れ、ある民家に訪れていた。このスミノフの街のどの民家よりも大きい建物。
家の主人と婦人は彼女とその子等を誰に接する時と同じ様に、親切に迎えた。そして、彼等は楽しい時間を過ごしたようだ。長閑な陽気に包まれ、ティータイムを過ごしていたようだ。
犯人は見つかっていない。
隣街の商人の男が、近々スミノフにキャラバンが立ち寄るから、といってこの街で1番偉い人に尋ねてきた。チャイムを鳴らした。しかし、誰も出てこない。いつもなら必ず暖かく迎えてくれるはずの夫妻が出てこない。予め来ることを手紙で伝えてもいた。何か不思議である、と思ったので、商人の男は庭の方に向かった。夫妻は庭にいることもしばしばある、商人は知っていたから。その庭に植えられた花はいつだって純白で、夫妻の清廉さをアピールしているかのようだった。
赤い薔薇であった。
商人は足の先が冷たくなるのを感じると、踵を返し、誰よりも速く走った。
ちょうど先には石材店があったので、屈強で気さくそうな男に声をかけ、伝えた。
「町長夫妻が死んでる。」




