About this World
「ここが町長さんの御宅よ。」
そう言って、先行していたエリスが青い屋根の家の前で止まった。建物は豪邸とまでは行かないが、他の家と比べると二周りほど大きい。立派な石造の家だ、部屋はいくつあるのだろうか、お風呂はあるのだろうか、そうどうでも良いことを思い浮かべながら、エリスに手を引かれるまま玄関の前に立った。
「あ、ベス!ここに居たのね!」
エリスが大声を上げる。彼女が指差す先には、犬…?らしき生物がいた。しかし、犬ではない。というのも3本の尾をもち、背中には天使の片翼がそこにはあった。明らかに俺の知っている犬ではない。
エリスはベスと呼ばれる何かに近づくと、ワシワシと彼の毛皮を掻き撫でた。そうすると、彼は嬉しいのか3本ある尾を乱れる蛇の様に動かしている。そして、「キュイン」と可愛い声を出すのだ。その愛らしさに俺も魅了され、気付くとベスの身体を撫でていた。すると、ベスは嬉しそうに俺の顔を舐める。気のせいだろうか、なんか俺の顔が強い酸によって溶ける感覚がある…。まぁ、可愛いしいいや。
「ベスが懐くなんて珍しいわね!」
「そうなのか?」
「ベスは物凄い人を選ぶ子なのよ。ベスがここまで懐くのは、神父様、町長さん、アタシくらいかしら?それ以外の人には決して自分の身体を触らせたりなんてしないわよ。」
「へぇ、そうなのか…!」
嬉しい。現世では動物を飼ったことはなかった。「マンションだから。」という理由で親に許可してもらえなかった。ただ、多分本気で説得すれば許可してもらえたかもしれない。しかしながら、そこまでしてまで俺もペットが欲しかったわけではない、ただ漠然と欲しいなと思っていただけである。
でも、この世界なら飼えるかもしれない。その事実が嬉しかった。
「じゃあ、そろそろ中に入りましょ。」
エリスがそう言うと俺は頷き、町長さん宅のベルを鳴らした。
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「あら、ハヤトくん。今日は訪問販売かしら?」
チャイムを鳴らし出てきたのは町長さんの奥さんであった。
「奥さん、今日は神父様にお会いしたくて。町長さんの御宅いるとお聞きしまして。」
「なるほど!そういうことね!だからエリスちゃんも一緒なのね。神父様は旦那と話しているわ、さ、入ってちょうだい。」
奥さんはそういうと、俺たちを客間に案内した。
そこには、ふくよかな体型ながら街のリーダーとして凛々しい表情をした町長さんがいた。今日は休日であるからか、前に見た正装ではなく、部屋着であるセーターを着ていた。まさにオフの装いである。
対して、向かって左側には紺に染まったローブを身に着けた初老の男が座っていた。神父である。
「町長さん、お邪魔しております、エリスです。そして、神父様、こちらハヤトさんでございます。神父様に御用があるようなのでお連れしました。」
部屋に入るや否やエリスは目の前の二人の男に丁寧に挨拶をする。きっと育ちが良いのだろう、先ほどまでの様子とは大違いである。
「初めまして、ハヤトと申します。この度は神父様に用があり参りました。」
そう言い、俺は頭を下げた。
「あぁ、ジルドさんのところの。聞きましたよ、急に空から人が落ちてくるなんて、まるで神話の世界の様です。」
俺の挨拶に応えながら、神父は深く腰掛けた椅子から立ち上がり、手を差し出し握手を求めた。
俺も握手に応じながら、目の前の老人に目をやる。その身体や握手をした手は確かに一般的な老人のものであるのだが、彼の顔には未だに燃え滾る闘志を感じた。まだまだ若い、そして間違いなく勇敢である、直観的にそう感じた。
「挨拶が遅れたね、私の名前はパウロ・リキュール、ルゼン教の元大司教だ。今はこのスミノフの町教会で神父を務めている。よろしくね。」
元、、、?何か含みのあるパウロの言い方に違和感を覚えた。まぁ色々あるのだろう。とにかく、今は情報収集だ。できるだけパウロに聞いてみたい。
「エリス。ハヤト君を連れてきてくれてありがとう。君もハヤト君ともう少し居たいのだろう?今日は教会での予定もないから町長さんの家に少しお暇すると良い。」
パウロがエリスにそう声を掛けると、彼女は少し嬉しそうな顔を見せながら、またすぐ真剣な表情に戻り軽く頷いた。
「さぁ、ハヤト君、エリスちゃん、二人も座りたまえ。母さん、二人の分のお茶も淹れておくれ。」
町長さんの掛け声により、俺の質問会が始まった。
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まずは、俺が口を開いた。気付いたらジルドさんの目の前に倒れていたこと、この世界に飛ばされる前の亜空間のような場所で”ユウマ”という人物とであったこと。とにかく、俺が覚えている範囲、今までここ最近の出来事をそのまま説明した。但し、俺が居た前の世界、つまり現実世界の話はしなかった。なぜなら、そんな話を聖職者にしようものなら「魔女だ!」と呼ばれて殺されてしまうとビビったからである。ただ、恐らくその話をしたところでパウロなら、すぐに否定せず俺の話を聞いてくれるのではないか、そんな気がした。
「亜空間???ユウマ??一体、誰のことかしら。アタシはそんな名前の人聞いたことないわ。」
エリスが開口一番言う。
「それに亜空間の中の人物なんて、変な夢だったんじゃないかしら。もし、本当だとしたら、そもそもそんな亜空間を作り出せて、更にハヤトを私たちの街へ転送させることが出来るってことじゃない?そんなことが出来るのは、神か、神に比類する力をもつ最上級天使や最上級悪魔くらいよ。でも悪魔ではないでしょうね、悪魔なら間違いなくハヤトに憑りつくし、もし憑りついたのなら神父様の前に堂々と立つことなんて出来ないわ。」
「最上位天使?それに悪魔って何のことですか?」
エリスの発言からフィクションの世界でしか登場しない存在がこの世界には存在するのか、そう疑問に思った俺は不意に質問していた。
俺の疑問にすかさずパウロは頷き、ゆっくりと話し始めた。
「まず、この世界には三つの世界で構成するとされています。はじめに我々が住む人間界、ここには沢山の生物が住んでいます。人間種、ドワーフ、エルフ、亜人、魔族、など多種多様です。人間が治める国もあれば、ドワーフやエルフが治める国もあります。但し、そのほとんどが戦争に明け暮れ、民が死に、その死に涙します。ここ、スミノフの町も領主のドレイク様が治政をするまでは、その多くが悲しみに打ちひしがれておりました。」
(ドワーフやエルフなど人間以外の生物もいるのか…、まるでファンタジーの世界のようだな…。)
一息ついて、パウロは再度語り出す。
「この中で、最も警戒しなければならないのが魔族です。一言に魔族といっても、魔人、魔物、魔獣、半魔族がおります。魔人はその名の通り、人間の姿をした魔の存在。つまりリッチや闇魔導士などが当てはまります。かつては吸血鬼も存在しましたが、七聖と呼ばれる7人の最上級司祭に滅ぼされました。次に魔物。魔物は魔人と魔獣のちょうど中間の存在です。当てはまるのは、腐敗巨人や腐敗者、骸骨などが当てはまります。魔物は概ね魔人のように人間のシルエットをするものが多いですが、その知能は低く、魔獣と同等です。そのため、魔人に比べてそこまで苦戦することはありません。そして、魔獣。魔獣は魔の獣。代表的なものであると、飢狼やワイバーンが当てはまります。動物のような存在ではありますが、その実態は至って凶暴であり、獲物を仕留めることに熱狂し、自分の獲物を横取りされると仲間割れすらする存在です。大抵の魔獣は群れで行動します。そのため、近接先頭はお勧め致しません。弓などの飛び道具や遠距離魔法で対処するのが最善です。最後に半魔族。半魔族の存在は現在定かではありません。半魔族は名前の通り、半分魔族の存在。つまり、魔人とエルフやドワーフ、そして人間の混血の存在であります。無駄に長く生きております私でさえ、半魔族を見たことはございません。といったところでしょうか、基本的に戦闘を行うことになるのは魔族ですので、エルフやドワーフの説明はまた今度ゆっくり致しましょう。」
こうして、俺はこの世界の主な魔族についての情報を得ることができた。




