第6話 手作りのボタン
ロールキャベツを食べながらの賑やかな食卓。
お昼にミルクをあげた妖精さんたちがお友だちを連れてきたんだよねえ。
火水風土光に闇の妖精さんたち。
ロールキャベツを食べているよ。妖精さんたちが。フォークを神力で小さくしてあげたら、それはもうパクパクパクパク。
美味しいかい?
そりゃあよかった。ミルクもお飲み。
やがて満腹になりテーブルの上でうつらうつらと眠そうな妖精さんたちにクッションという寝床を提供して、わたしたちは洗い物。
「多くの人がピリピリと神経をとがらせている印象でした。ダンジョン内では怒鳴り合いも数件見かけましたよ」
「そりゃあ、不安な人が多いよね。不安が多いと喜怒哀楽の均衡が保てないって言うし。よく怒る人ほど内心不安だらけなんだって聞いたことがあるよ。影響だとしたら、はじめての世界創造で自分の思いどおりにいかない神さまくんも、実はとっても不安だったんだろうね」
「そうですね。そもそもの話、創造主が星へ世界を託すとき、世界は荒れやすいんです。そして、彼はとても若い神です。ですが、これからはフクがおおらかに過ごしていれば世界も良くなりますよ」
「ありがとうルジェタさん。しばらくは昼間ぬい作りして過ごすよ。あっちはどうだった?」
「フクの予想は正解でしたよ。神さまくんの悪影響がありました」
「そっかあ」
わたしが予想したというか、見てきてと頼んだのは世界に何人かいる神託の巫女さん。
王族というか、お偉いさんの娘や一目置かれてるような女性しかいないんだってよー巫女。
巫女ってそういうもんじゃなくね?
というのがわたしの第一の感想。
地球の知識がかなり邪魔だなー。
地球基準で考えるこの頭もどうにかしないとマズいわ。
ジェフクタールのお偉いさんは政治家や貴族、大金持ちじゃないのに、真っ先にそれを思い浮かべてしまう。
それじゃダメだとわかってても、急には変えられないねえ。意識して変えていかないと。
とりあえずネット断ちだね。思考の癖を変えないと失敗だろう。
あと、神さまくんの第一印象が心中おだやかに見えなかったからさあ。
思春期の少年のようなとこもあるしなんかやたらと疲れているように見えたし情緒不安定だしクズだし、影響あるかなって。
あったねって話。
自分に余裕がないと人は優しく出来ないと思うんだ。
余裕がある世界がわたしの理想のひとつだ。
世間が張り詰めた空気になるのは嫌だからね。
ただわたしは誰かひとりを助けたりだとか、そういうことは特別何もしない。
よっぽどのことがない限りね。
神さまってそういうものだと思ってる。
何にせよ、わたしの影響力が強いんだわ。
わたしが狂喜乱舞すれば世界に花が降るくらいだしね。
地球と比べたらとんでもないことだよ。
ジェフクタールは神さまがガチでいるってわかる世界。
ジェフクタールがどういう世界になるのかはわからないけれど、ゆっくり育てばいい。
そこに苦しみもあるだろうけど、それは神さまが手を出しちゃいけない。
わたしはもうちょっと感情のコントロールを出来るようにしなくては、夢の図書館にもいけない。
毎日世界に花を降らすわけにはいかんのだ。
「私はやはりあの神さまくんがつくったダンジョンに興味が出ました」
「ソロっすか?」
「ぬい作りが終わったら一緒に行きません?」
「マジか。イベント以外で歩きたくない」
「行きましょうリアル探索。一層目でも別の意味で面白いダンジョンでしたよ」
「そんなダンジョンでおおらかに過ごせる自信はまだないっすわ」
「冗談です。ですがフクぬいは強制連行します」
「あ、寂しかったんだ」
「ぼっち旅でしたので」
「秘書ぬいくんの次はフクぬい作りにしますよ」
「ぜひそうしてください。待ってます」
そんな会話をして食器を片付け終わると、クッションの上で妖精さんたちはすやすやと寝ていた。
早寝早起きっぽいな妖精さん。
食卓の明かりを消してから、ルジェタさんと遊び部屋に向かう。
「これはフクにお土産です」
「ボタン? うわ、可愛い木製だ。おしゃれだね。ありがとう」
「どういたしまして。これはひとつひとつ手作りだそうで。あなたに喜んでもらえてよかったです」
「これぬいに付けてもいい? この小さい方」
「もちろんいいですよ。もっと欲しいですか?」
「欲しい。ほんと綺麗」
「フクは何色が好きですか?」
「全部好きだよ。どの色も好き。あのね、このサイズだと――」
ルジェタさんのお土産でテンションがさらに上がったわたしは、大いに語った。
うんうんと聞いてくれるルジェタさんは聞き上手だ。
手芸に使えるボタンいいよねえ。これは集めたくなる愛らしさ。
ハッ!
ところでルジェタさんお金どうしたの? ボタンねだっちゃったけどお金大丈夫なの?
いや、ジェフクタールは物々交換が多いか?
ガチギレしそうだから、まだそこまでこの世界を把握してねえ。
とにかく金品だ。大丈夫?
「大丈夫ですよ。ダンジョンの宝箱という戦利品がありますから」
「冒険者だ! 冒険者してる!」
「私の最初の装備は拾った石でした」
「すごい! 次は何? 剣? それとも防具? わたしは防具にお金かける派だよ」
「私は武器にしましょうかねえ。このままでは変なあだ名が付きそうなので」
「石ころのとか呼ばれそう」
「あはは。それ、笑えません」
「なんて呼ばれたの?」
「石ころの怖いお兄さんですよ。ジェフクタールは他族と言葉が通じないのに、何故わかるの? と。幽霊っぽく振る舞って誤魔化してみました」
「ホ、ホラーだ……。でもなんでホラー? わざとやったでしょ?」
「私は実はおちゃめな秘書くんなので」
「知ってた! それもわたしの性癖!」
ケラケラ笑いながらその夜は更けていった。
あー楽しい。
冒険者ランクが低いと嫌だよねとわたしたちは笑い合い、ゲームを手にする。
この世界では絶対役に立たないだろう冒険者のイメージトレーニング開始である。