第5話 人生に必要なもの
一日の始まり。
わたしたちの家は異空間にある。
神界ともいう。
草原に小さな一軒家という感じだ。
山も川も海もある。わたしはまだ窓から草花しか見ていないけど。
鳥や動物、魚とかそういうのもいる。
そして妖精。
気性はみんな穏やか。
気候は一年中春。雨は降ったりする。
春夏秋冬わたしの好きに出来るけど、今はこのままでいい。
「わたしは今日から秘書くんVerとルジェタさんVerのぬい作りを開始します」
わたしの人生に必要なので。
「では私はジェフクタールを見てきますね」
「変装をしてね。その尊さに死人が出るからね。地味に地味に、とにかく地味に目立たないようにしてね」
「わかりました。私はフクのぬいが欲しいです」
「わかった。がんばる」
今日の予定はお互い別行動だ。
わたしが秘書くんに頼んだのは情報収集。
神さま視点というか世界を見渡せたりはここからでも出来るけど、そうするとわたしがぬい作りに集中出来ない。
ルジェタさんが暇になってしまうのもあれだし、わたしと違って引きこもり属性はなさそうだし、ルジェタさん視点の土産話も聞きたい。
ルジェタさんとはいざとなったらテレパシーみたいにお話出来る。
それはそれこれはこれで、スマホを渡してるけどね。
秘書くんではなく、ジェフクタールで目立たないラフな服装もよかった。
「いってきますフク」
「いってらっしゃーい」
ルジェタさんはわたしにちゃんとご飯食べなさい的な注意事項を語ってから家を出た。
もう人間ではないから食事必須ではないんだけどね。
美味しい食事は心を豊かに彩るから。
食べたら神力になるし、美味しいご飯は好きだ。だって食材は神力製だもの。
水も肉も魚も野菜も果物も、塩も砂糖も、わたしたちが口にするものは、全部神力から生み出している。
神界はわたしの神力で出来ているんだ。
川を泳ぐ魚も神力製だから獲って食べることも出来るのさ。木や花だって食べようと思えばどれでも食べれる。
これも神さまくんと話し合って決めたうちのひとつ。
女神はトイレなんて行かないらしい。
そりゃそうだともと思ってそういうことになった。身体的に便利ではある。
一軒家にトイレがないのは変な感じがするけどそのうち慣れるだろう。
ぬい作りの材料は、わたしが地球で持ってたやつを神力で再現した。
思えば地球から遠くへ来たもんだ。便利な家電とかももちろん全部再現した。
好きな曲をかけて、チクチクタイム。
秘書くんアルバムを見ながらデフォルメした秘書ぬいくんの型紙を作ったら、お顔をチクチクチクチク刺繍する。
ぬいぐるみ作りはよくやってた。
公式から供給がされていないとか愛が止まらないとか理由はそんな感じ。
一軒家にはわたしの部屋もルジェタさんの部屋もある。
個室は大事。趣味が多ければ多いほど。
わたしはあれこれと、インドアな趣味がたくさんある。
物作りは基本大好きでさあ。
ひとりで集中出来る趣味をしていると充実感があるんだよね。
贅沢な時間だと思うからかもしれない。
好きな音楽を聴きながら珈琲を飲んで、手を動かして、完成したらうれしい。
そんな風に過ごしていたらスマホが鳴った。ルジェタさんだ。
お昼ご飯の時間になってた。
ルジェタさんにメッセージを返して、いったん休憩。
お昼ご飯を作りましょう。
完成した料理を神力でポンッと出すことももちろん出来るけど、わたしは作りたいから作る。
忙しくて疲れててそんな暇も時間もないという生活ではもうないから。
ゆったりまったり料理が出来るって、わたしにとっては贅沢で幸せなことだよ。
ルジェタさんは現地の料理を撮ってくれた。送られてきた写真を見ると異国感がある料理だ。
今日の朝食はルジェタさんが作ってくれたから、夜はわたしが作ろうかな。
ロールキャベツが食べたい。
周りが春っぽい気候だから春キャベツが頭に浮かんだんだよねえ。
ついでにミートソースも作って冷凍しておこうかな。
太る心配がないと夜食の誘惑に負けそう。絶対負ける。
パスタでも良しグラタンやラザニアでも良し。ミートソースはとてもいい。
わたしの冷凍しておきたいランキング上位の一品だ。
「おや、妖精さんだ。風の妖精かな」
キッチンの窓から妖精がわたしを見てる。
興味津々って感じ。手のひらサイズの妖精さんが二人。女の子みたいだけど妖精さんに性別あるのかな?
女神さまパワーで脳内検索。答えはあります。なるほどね。ミルクをあげるとよろこぶらしい。
窓を開けてさっそくあげてみた。
「美味しいかい。そりゃあよかった」
気分は隠居したおばあちゃんである。
二人仲良くお飲みなさいな。
妖精さんは喋らない分、表情が豊かだ。
ふたつの可愛い笑顔に癒やされる。
ぬい作りが終わったら、妖精さんに何か作るのもいいね。