第3話 福は大事
ここまでは地球から異世界への引っ越し準備みたいなものだ。
次は新生活。
神さまくんが初めて創造した世界はジェフクタールという。
ジェフクタール。
名前の真ん中にフクがあるのがいいね。
「福はいくらあってもいい。福多。素晴らしいネーミングの世界ですね」
「そ、そう? ありがとう」
そう褒めると神さまくんはちょっとうれしそうな顔をする。
地球なんて地の球やぞ。アースは殺虫剤のイメージだ。
名前もフクもとても大事である。
「じゃあきみの新しい名前は女神フクタでいいかな?」
「それは違うって突然の女神? どこから来たの女神なにそれ?」
わたしの立場は女神になるらしい。
お、おう。そうか。
激しく動揺したけれども、まあもう年取らないしな。
ついでに黒髪の美少女になった。
わたしは女神のイメージに合わない容姿だったかと神さまくんを責めた。
すっぴんだったしさもありなんだけどよお。新しい人生だけどよお。
けど視力と歯並び良くなったから許すよ。
永遠に虫歯とお別れはありがたい。
でもなー。
「なんか違う。自分でしたいな」
「そう?」
「女の子の身体だよ?」
「あっ、そうだね。そうだよね。うん」
「ありがとう」
さらに思春期神さまくんはわたしに白銀の髪になって欲しかったみたいなんだけど断った。
その後、話の流れで背の高い美女になることも迷ったけどやめた。
もともとの背が低いので困りそう。足の長さの違いで転びそう。そうそうきっと頭をぶつけたりするんだ。そうそうそう。
「わたしはたまに変身くらいでいいんだよ。変身はロマンだから」
「変身はロマンか。それも楽しそうだ」
「そうだよ神さまくん。すべてはいい気分転換になるというわけさ」
「きみと話していると新しい発見があるよ。本当に、驚くほどにある」
「それはよかった」
わたしが住むのは神界という名の異空間。
気が向いたら降臨して世界を歩き回ってもいいらしいけど、今はあんまり興味ない。徒歩が嫌だともいう。
魔法の絨毯とかさあ箒とかさあ、そういうファンタジーな乗り物が欲しい。觔斗雲もいいけどお猿さんのイメージだからなあ。
あ、だから神さまくんペガサス飼ってるの?
まあ、ファンタジーな乗り物はおいおい悩もう。今後の楽しい悩みにひとつ追加だ。
そして重要なのはわたしの話し相手!
主な仕事はジェフクタールの人との橋渡しというか、交渉役というか。わたしが苦手なこともお願いしたい。
今まで神さまくんが神託を伝えたりしてたんだって。大きな自然災害とかそういうの。
そういう神のお仕事的なものを管理したりする秘書的な存在って絶対にいる。
わたしはジェフクタールという世界が病まないように、出来るだけノーストレスで生きていかねばならないのだ。
ついでにその秘書に恋人にもなってもらう。わたしが変に誰かに恋したらマズそうだから。
恋は人を狂わせるってさあ、あるよね実際。脳が普段は出さない物質出したりするっていうしさあ。脳内お花畑とはよく言ったものだよ。
現地人とは寿命も違う。
悩み多き恋はしたくない。
最初から秘書で恋人としておけば悩みも減る。絶対にわたしに合わせてくれる存在はありがたい。
ハグはストレス軽減。心の栄養。
人の温もりは大事だ。
神さまくんのパートナー。
馬だけにショッキングピンクでユニコーンみたいなのは絶対に嫌なので。
そいつ絶対ペガサスじゃねえわ。
「精神的にも老いないように。これも重要だよね。年を取るとゲーム出来なくなるとかよく聞くし」
「なるほど。それも大切だ。神でも時に永遠に続く生に飽きて永い眠りにつくほどだからね」
わたしは神さまくんに思いつくことをちょいちょい語り、さらに体感三日間ひとりでもう一度考えて再び話し合い準備は完了した。
あっ、あれ言い忘れたとかあれも言っておけば、しまった卵を買い忘れたみたいな後悔がないようにね。
イベントには行ける神さまくんはこれから新たな世界創造で忙しいと言い張るし、次に会えるとしたらきっとずーっと先の未来になる。
なんだかんだわたしは慎重派なのだ。たぶん。
「またね神さまくん。いってきます」
そうしていよいよわたしはジェフクタールの異空間へと引っ越しである。「頼んだよ僕の女神」と背に聞こえてきてちょっとうれしくなった。
言うと思った。
勘違いすんな。おめーの女神じゃねえよ。
ありがとう愚かな愚かないつまでも思春期クズ野郎の神さまくん。
おだやかに、にぎやかに、お前が捨てた世界で永遠に楽しく生きるよ。
「ヒヒンッ」
ペガサス野郎。
わたしのガトーショコラにすぐさま食いついた雑食のおめーも許さねえからな。
あばよ!