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第19話 いろいろ考える


 体感的に連日ちょこちょこと、ルジェタさんに相談しつつ、話し合いは続いている。

 わたしは七日間で世界をつくる自信はとてもじゃないけどないのでね。


「フクは本当に魔法の箒や絨毯が好きですね。陸の種族は、今は海に出るより空だと思いますけどね。まあ必要になれば彼らが考えるでしょう。聖地からは基本的に他族が入れない王都へしか行けませんから。遠い他族の国へ遊びに行きたいのなら海か空または陸路。隣国なら、陸路で行ける場合もあるでしょうけどね」


 ルジェタさんに頷いた。


 普通は隣国すら難しい。

 陸路よりも空の方がまだ行けそうだよね。

 途中の山とかどんだけ魔物倒すことになるか。

 寝れる時間も無さそう。

 魔物の縄張りになってる場所が多いんだよ。

 誰のものでもない土地は魔物の住処。

 船は沈むと思うよ。

 海にもヤバい魔物いるし。

 人魚族が配送業始めたらまた話変わるけど。

 自分たちだけならキッツいわ。


「移動ヤバい。わたしなら絶対聖地で楽に遊んですませる。容量重量無視の魔法の鞄は、ギルドで買えて宝箱にもするかあ。ダンジョンいくつ作ろう」


 今あるダンジョンはひとつ。

 魔物を殺す。負けたら死ぬ。宝箱がある。

 人魚族の入場者数ゼロ記録更新中。

 以上だ。


 人魚族が川で宝箱をどうやって取るんだよ。

 ほぼ取れないよ。

 海中で戦う人魚族がどうやって陸の魔物と戦うんだよ。

 でもこれがさあ、このダンジョンがさあ、絶対にいる種族もいるんだよ。


 解体の仕方とか教える場所にもなってるの。

 自分の国付近で魔物を狩って、安全に解体出来るのって極論王都だけなんだよ。

 血の匂いに寄ってくるからね魔物。

 ダンジョンだったら殺して放置でもいいし、ダンジョンに吸収されるのが有り難いみたいなの。

 死骸の処理の仕方とかさ、剣や魔法の練習してるんだよ。弓とか槍とか盾の使い方とか。

 武器の斬れ味の確認もしてる。

 持って来た罠の効果を確認したりね。

 森の階層で魔物から逃げる練習とかさ、火の魔法と水の魔法の練習。

 山火事にならないように消火出来るように練習してるの。ロッククライミングの練習とかもさ、してるんだ。


 彼らの本番は国に帰ってからなんだよ。

 突然強い魔物が襲って来るかもしれない。見たことのない魔物が集団でいるかもしれない。

 そういう世界で生きてるんだ。

 これは残すべきダンジョンだよ。

 生き残るために必要とされてるダンジョン。


 だからこれはそのまま、もっと練習しやすいように階層を分けてね、沼地とか魔物の種類を増やそうと思うんだ。

 好きなステージで出てくる魔物の種類が選べるダンジョン。ランダムでもありだよ。

 朝昼夜。天気。魔物の強さ、魔物に負けても死なない負けたら死ぬまで全部選べる。

 負けても死なないは魔物がピタッと時間停止する感じね。希望を聞く。

 素材搾取が目的ならそういうステージを選べばいい。

 今までは他族とごちゃ混ぜだったけど、受付で希望を聞いてあなたたち専用ステージのダンジョンだよ。

 どう使うかよく考えてくれると有り難いね。

 きっと、うん。

 間違いなく受け付けが混むしね。


「文字がわからないならイラストだ。写真の方がいいかな」

「ダンジョンは写真の方がいいでしょうね」


 お天気シールや魔物シール。

 これを使えばちょっとはスムーズにいくはず。

 記入用紙に自分たちで先に貼ってもいい。

 持ち帰りシールは有料販売にしよう。

 タブレットの操作に慣れたら、タブレットをぜひ使ってほしい。

 みんなと話し合ってて、メモしたくなったりもするよね。


「聖地文字も教える」

「いいと思いますよ。文字がある種族の方が珍しいですから」

「よし」


 文字が欲しくなったりしたら、聖地の文字を教えよう。

 聖地語のひらがなとカタカナだよ。

 数字は123でもいいんだ。

 漢字は神語だからカノン族はよくわからない、まだお勉強中ということにしよう。

 ジェフクタール人に漢字までは、絶対無理だろうから。

 そもそも文字って何? という種族がほとんどだからね。


「動画で文字のお話と、新しい聖地に聖地文字の看板とかつくろう」

「文字を目にすることも必要ですからね」

「絵本とかも売ろう。まずは文字に興味を持ってもらわなきゃね」


 カノン族が使ってる文字は聖地でよく見ることになるだろう。

 そういう作戦だ。

 カンバンに書かれてる文字だ。

 カノン族がよくトショカンで読んだり借りたりしてるホンの文字だ。

 モジきょうしつで習えるよって広めていこ。


「あともう、絶対清潔感を!」


 これだけは譲らんぞジェフクタール人。

 人族獣人族以外にも、人族獣人族ほどではないにしろ、普通に臭い種族もいるんだろう?

 わたしの秘書くんルジェタさんに聞いたぞ。


「うっうっ。つらかったです。あんなに酷いスメハラははじめてでした」

「ほらー! うちの秘書くんが泣いちゃったじゃーん!」


 お風呂を覚えて帰ってくれ。

 石鹸。シャンプー。リンスまでどうか覚えて帰ってくれ。

 無臭の石鹸シャンプーリンスもあるから安心して覚えて帰ってくれ。

 聖地に浴場も作るから、もっと上の清潔さを頼むからみんな覚えて欲しいんだ。

 わたしは徹底的にやるぞ。

 靴や防具の汚れ悪臭とかは聖地クリーニング店に持って行くんだ。無臭になるから。

 清潔魔法教室も開くから。

 何日旅に出ても清潔になれる魔法だよ。

 自国でもトイレやお風呂、清潔が当たり前になるようにするから。

 さらに上を目指したくなったらうちのスーパー派遣社員にお金を払いましょう。

 いろんなことが出来るから、お金をたくさん払いましょう。


「わたし別に潔癖症とかじゃないけどさ、許容範囲はあるよ」

「頑張りましょうガチで。彼らは先祖代々熟成された悪臭の原始人だと思ってください」

「え? そ、そこまで?」

「嗅ぐべきですよフク。あなたも人族と獣人族の現実を知るべきです。放置すればここまで臭くなれるのだと知ってください」

「ぎゃ、ぎゃああああああ!」


 現実を知ったわたしは寝込みました。

 神さまくんへの慈悲の心が消え去るレベルの悪臭でした。

 腹が立ちました。

 わたし、臭くて腹が立ったのははじめてです。

 恵まれていたんだな、と今までの人生を振り返るレベルの悪臭でした。


「フク。大丈夫ですよ。私がいますからね」

「か、嗅がせたくせに……」

「ああ! とうとうお熱が!」


 女神に病はありません。


「目的は看病だったか……」

「フクが大好きな桃缶を開けましょうね」


 体感三日後。

 ようやくわたしは復活しました。


「楽しいことを決めよう」


 けれど心はまだ弱々チキンでした。


「かわいそうに。つらかったですね」

「嗅がせたくせに!」

「私は一度だけでもフクの看病をして苦楽をともにしたくて」

「神界じゃ楽しかないもんね」

「最初で最後のチャンスだと思いました」


 ルジェタさんとお話をしてたらちょっと元気になれました。

 てなわけで!

 続きを考えるよ。

 ダンジョンの楽しみだ!

 宝箱はダンジョンの出口でGET。

 数も中身もランダムだよ。

 それも楽しみに来てるからね。


「ダンジョンで出るアイテム考えるの楽しい」

「フク、フクのお母さまが宝くじがお好きなのはわかりますが少々高額では?」

「お母さんみたいにわたしも夢が見たいんだ」

「排出率は私が担当しますね」

「え? もう考えてるよ」

「私が担当します」


 にこ。わたしの秘書くんルジェタさんが微笑みました。

 そして叱られました。

 わたしが考えてた排出率はサ終直前の大放出ガチャのようだと叱られました。


「そんなことないし!」

「SSR確定のお正月福袋ガチャがゴミ袋に見えるレベルですが? SSR確定の無料ガチャにしてどうするんです。絶対許しません」


 どうやらわたしは激甘だったようです。

 絶対許しませんとか、はじめて言われた。


「ハズレアイテムをもっと考えてください」

「ハズレハズレってなんて運営だ!」

「SSRはなかなか出ないからうれしいんですよ。いいから考えなさい」

「くうううう」

「私は空箱でもいいんですよ」

「嫌だ! せっかく手に入れた宝箱がからっぽなのも絶対に嫌だ!」

「では考えましょう。ティッシュでいいじゃないですか」

「ティッシュ? ティッシュって言った? 宝箱を開けてティッシュだと?」

「柔らかい紙はジェフクタール人にとって貴重なものですよ。まったく、フクはいつまで地球人気分なんですか」

「チャンスとばかりにわたしに喧嘩を売る」


 目的がわかりやすい。


「目的? そんなものありませんよ」

「仲直りイチャラブ希望でしょ」

「はあ。これだからフクは」

「喧嘩の売り方が雑すぎて笑う。じゃあ痴話喧嘩なんて二度としないようにしよう」

「なんでですか!」


 時にはこんな会話もしながら考えます。


 冒険者の証は神殿で更新推奨だよ。

 もうわたしが神さまくんの山のような問題を片づけてる冒険者の証だから、そのままでも一応いいけど更新しなきゃ不便だよ。

 ぶっちゃけ聖地会員+更新でギルド銀行カード機能みたいなものだから。

 今は自国で魔物と戦えるかを色で判断する、大まかな目安のひとつになってるんだよ。


「あとは謎解き脱出系ダンジョンと殺したらアイテムになるSFやファンタジーゲーム的な可愛い見た目の、現実ではありえない魔物がいる有料ダンジョンにしよ。リアルと絶対混同しないように。どっちも子ども向けVerのダンジョンもつくろ。ゲームオーバーはオートで治療して瞬時に退場だ。ステージもSFやファンタジー。あ、ペガサス野郎ここで出そう。みんなで殺そうペガサス野郎だ。ジェフクタール人はペガサス野郎知らないよね?」

「知っている巫女たちはもう亡くなってますよ。問題ありません」

「……それ、高級車自慢みたいにペガサス野郎に乗って女の子にフフーンってドヤ顔だろ。そうだろ絶対。ムカついたからマヌケ顔の腹立つペガサス野郎にするわ。フレーメン反応でキョトンのイメージでスタートだ。わたしの想像とおそろいだ」

「い、いいですね……」


 わたしの頭に浮かべたペガサス野郎のイメージに、ルジェタさんが笑いをこらえている。


「わたしも絶対殺しに行くんだペガサス野郎。復讐は必要。一緒に脳天かち割りに行こうね」

「はい」


 プロだ。

 でもあと一歩だ。

 口元がうずうずしてるもん。


「ヒヒーン」


 必死におすまし顔だけど、わたしの馬面真似っ子モノマネにもう駄目そう。


「っ、ふ、はッ」


 ルジェタさん大爆笑。

 意外と笑い上戸なんだよね。

 笑っとけ笑っとけ。

 あはははは。


「もう大丈夫です、私は今日の分を笑い終えましたので」

「ほんとに?」


 困り眉のキョトン顔で言うと、ルジェタさんが再び笑い袋状態に。

 笑いって繰り返すよね。

 箸がコロンコロン転がりまくってるわ。

 はあ、わたしも涙出て来た。

 笑いって伝染もするよね。


「はあっ。もう今度こそ今日の分を笑い終えました。それから? ええ、どうします?」


 今またわたし渾身のキョトン顔で「だいじょうぶ?」って聞いたら絶対笑うわルジェタさん。

 かわいそうだからもう許してあげよう。


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