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第147話 神界名物


「こうして見ると妖精くんの髪が短いよね」


 ファヌアス王が何か言い出しました。

 こじらせた妖精くんが帰還して、さっそくアイボリーのフレアロングワンピースにお着替えをすると、この発言でした。


 こじらせた妖精くんは肩上ボブなんだがー?


「妖精は髪が伸びないの?」

「……どうだろ?」


 ネフェティ姫のご質問。

 みんな髪型固定ですよ。

 神界で長く過ごしたりして、地上に戻るとジェフクタール人が『急にガイド妖精の髪が伸びた!』とか驚いたりしないように。


 そもそも、神や天使とか髪型変わらないイメージだったんだよね。

 でもまあ、ヘアアレンジ系が好きな村の住人たちがキレたよね。

『オフクロさん何やってんの!』って。

 たださあ、髪が伸びるのうぜえって思う神界勢もいるわけじゃん。

 インドア派が特にそうなのよ。

 だから実は、個別に対応しております。

 本人の希望があれば女神パワーです。


「聞いてみるよ」


 フクフォンを取り出す妖精くん。

 オフクロさんをなんかホラー扱いして、塩対応でもあるこじらせた妖精くん。


「ふんふん」


 神界ネット。

 色無しカノンの掲示板のスレッド。

 とある何でも質問板に、こんなカキコミがあったとさ。


□□□――――――□□□


677:色無し☆妖精さん 

 質問なんだけど

 僕たちの髪って伸びないの?


678:色無し☆カノンさん

 髪……

 伸びなくね?


679:色無し☆カノンさん

 伸びてるやつもいる


680:色無し☆妖精さん

 え?

 伸びるやついるんですか?


681:オフクロさん@管理人

 個別対応ですじゃ


□□□――――――□□□


「ふぅ。やれやれ」


 意外と広まってなかったか。

 髪のことで個別対応した子は神界にあんまり帰って来ない子が多いんだよね。

 聖地や森の葉国の美容室勤務が楽しいらしくて盛り上がってる。

 神界勢はジャンルごとに集まる感じでもあるし、髪のことについて話そうとしなければ知りようもないか。

 興味がなければ疑問にも思わないことだし、報連相してないんだよね。


「ヒッ」


 またなんか、こじらせた妖精くんがフクフォンを見ながら『ヒッ』って言った。


 オフクロさんをホラー扱いするのやめなー!

 質問に答えただけじゃん!

 これはウザ絡みじゃないし。

 ちょっとリスレイさんの真似はしたけど。


「どうしたんだい妖精くん?」

「な、なんでもない……」


 胸を片手で押さえて、長い息を吐くこじらせた妖精くん。

 なんだよその反応ー!


「うーん……」


 悩んでる。

 フクフォンを見ながら悩んでますな。


「ファヌアス。僕、髪を伸ばした方がいい?」

「ああ」

「そっか……」


 考えてるお顔のこじらせた妖精くん。

 そんなに、そんなに考えるほどオフクロさんに会いたくないのかよー……!


「難しいのかい?」


 こじらせた妖精くんを心配してるっぽいファヌアス王。


「大丈夫?」


 ネフェティ姫も。


「どうしたの妖精くん?」


 ギュルヴィくんも心配そう。

 なんだよー!

 ぎゃおおおおん!


「難しくはなさそうなんだけど、難しくもあるって感じなんだよね。もう少し聞いてみるよ」


 どういうこと!

 難しくないじゃん!

 帰って来なよ実家にさあ!


「……オフクロさんに直接聞かないで、どこに聞いてるんだ」


 こじらせた妖精くんはフクフォン中ですが、質問板には聞いてません。

 また副社長兼秘書くんか。


「フク。いえ」


 やはり。

 ルジェタPが来ました。


「いじけた女神」

「いじけてないし?」


 心がうぉおんと遠吠えしてるだけだし?


「全部気圧のせいですよ」

「知ってるけどさあ」


 気分が落ちるのは全部気圧のせい。

 そうやって自分の機嫌は自分で取って来たけどさあ。

 ついこの間まで、こじらせた妖精くんはあんな感じじゃなかった。


 なんだよー!

 彼氏が出来たら途端に付き合いが悪くなるってやつかよー!

 こじらせた妖精くんはうちの子ー!

 まだ創造してからそんなに経ってない。


「フク。こじらせた妖精くんのこじらせた発言や主張を思い出すんですよ」

「……」

「こじらせた大人ですよ彼は」

「間違いなかったわ」


 こじらせた妖精くんの自由だよな。

 彼氏も出来るよな。

 でもな、早すぎるんだよ!


「妖精も、壁や床や天井になりたい種族だけれども……」


 心の準備がまったく出来てなかった件。

 カノン族は、もしかしたらあるかもなって最初から思えたよ。


 妖精だよ?

 手のひらにお座り出来ちゃうサイズの妖精なんだよ?

 んな覚悟出来るわけがねえわ!

 予想外すぎたわ!

 しかも、神界勢第一号の両想い感がある!

 なにそれ?


 そういうジャンルはあるさ。

 けどね、そちらはほのぼの系や純愛ならアリなタイプなの。

 鱗族、違うじゃん。

 わたしが受け入れなきゃいけないことが多すぎるんだよ。

 こじらせた妖精くん、男の子だよ?

 しかも相手はハーレムメンバーのひとりとして、お手伝い係的にいいなって感じじゃん。

 本命は別。

 こじらせた妖精くんはそれでいい! って力強く言う性癖でもあるよ。


 だから、うん。

 わたしは、一生懸命受け入れようとはしてるんだよ。

 ただ、早すぎるんだよ!

 心の準備と遠吠えくらいさせてくれよ!

 ぎゃおおおおおん!


「ガトーショコラに生クリームを添えますか? それとも桃にしましょうか?」

「ガトーショコラとブラック珈琲で」

「神界ポイント二千になります」

「わかりました」


 神界ポイントを二千、ルジェタさんに付与。

 少し待っているとガトーショコラのセットが並べられました。


「いただきます」


 癒やしの空間。

 珈琲の香りは素晴らしいものですよ。

 ウニのように黒くトゲだらけだったわたしの心もパッカリと割れて海の幸ですよ。


「ごちそうさまでした」


 美味しいものはいいね!


「ところでフク。神界ポイント五千でお願いがあるんですが」

「なんだい?」

「チョウハツヤクをお願いします」

「挑発役? おおん? おめーなに言ってんだよ? おおん?」

「……」


 これでいいのか神界ポイント五千で、とも思ったけどルジェタさんだしな。

 たまによくわからないことも言い出すし。


「あのですねフク。チョウハツヤクとはこう書くんですよ」

「…………おおん?」

「おおん? ではなく」


□□□――――――□□□


    長髪薬


□□□――――――□□□


 メモに書かれた文字を見つめる。

 近くで見ても、離して見ても……。


「裏切りルジェター!」

「言葉のDVはやめてください! ルジェタだって傷つきますよ!」

「うおおおおん!」


 罠だった。

 ガトーショコラの生クリーム添えとブラック珈琲のセットは罠だったのだ。

 うおおおおん!


「ママッ!」

「マザコン連合!」


 そこに颯爽と現れたマザコン連合の深緑のカノンがひとり。

 冒険者ギルドのギルド長のときはその表情筋、動かざること山の如しですが、神界の一軒家ではとても表情筋が動きまくるマザコン連合の創始者のひとり深緑のカノンです。


□□□――――――□□□

  転勤のお知らせ


 本日付けでルジェタは

 冥界へひとり

 無期限の単身赴任

 冥界へひとり

 無期限の単身赴任

 冥界へひとり

 無期限の単身赴任

 となります

 二度と帰って来るな

 

      女神フク

□□□――――――□□□


「ここに印鑑を押してママッ! 早くッ!」

「お、おお……」

「待ちなさいッッ!」


 大事なことを三回言ってる感。


「静粛に!」


 神界の揉め事などを見逃さないフクエル裁判チョー。

 手にカップラーメン。

 ちょっと小腹が空いたらとんこつラーメン。

 インスタントも可。

 たまたまリビングに来た感もありますが、フクエル裁判チョーは見逃さないのです。


 てなわけで!


 神界の一軒家で、マザコン連合vsル○ェタがはじまりました。


「「最初はグー! じゃんけん!」」


 オフクロさんへの主張。

 その順番決めのじゃんけん。

 五百回勝負です。

 五回じゃないんですよ。


「…………」


 ずるっちょしないか鋭いおめめで見つめるフクエル裁判チョー。


「フク」


 じゃんけん審判係のフクぬい。


「ぬぬっ!」


『マザコン連合』と書かれた団旗を振ってる秘書ぬいくん。


「深緑のー! カ! ノ! ン!」

「「「「「カ! ノ! ン!」」」」」

「ママのーッ!」

「「「「「ハンバーグカレーッ!」」」」」


 駆けつけたマザコン連合応援団の皆さん。


「いい感じ」


 パシャ!

 パシャ!

 神界新聞部のフラッシュ。


「私は今、神界の実家に来ています!」


 そしてライブ中継。


「「ポンッ!」」

「フク!」

「「あいこでー! ショッ!」」

「フクー!」


 おお。

 今、二戦目なんですがね。

 みんな元気ですよね。


「ぬぬーっ!」


 秘書ぬいくんの団旗が大きく振られてます。


「「「「「「よっしゃあ!」」」」」」


 ドンドンドンドンッ!

 マザコン連合応援団は太鼓もリビングに持ち込んでいます。


「くっ……!」

「次よ。立ちなさい単身赴任」


 思わず片膝をついたルジェタパパの前で仁王立ちの深緑のカノン。

 二戦目で別に0対2ではなく1対1なんですが、神界名物マザコン連合vsル○ェタはいつもだいたいこんな感じです。


「カフェオレはいかがですかー?」


 ジュース売りのカノンならぬカフェオレ売りのカノンも来ました。

 一軒家のリビングはじゃんけん試合中など、大きな試合会場のような広さになるのです。


「あっ、カフェオレ一杯ちょうだい」

「はーい! 五百クルですよー!」


 観戦席があるんです。


「神界製菓部のクレープ! クッキーはいかがですかー? 神界製菓部に入りませんかー?」

「神界お料理部の幕の内弁当だよー! 神界お料理部においでよー!」

「B級グルメ研究会の唐揚げ串はいかがですかー! 入会届もありますよー!」


 部活や同好会の勧誘もはじまってます。


「B級グルメ研究会とかあったんだ」

「あったんですー! B級グルメ研究会をよろしくお願いしまーす!」


 新しい出会いもある神界の実家。

 帰っておいでよ神界の実家。

 うおおおん!


 この騒ぎは夜まで続きました。

 勝者ルジェタパパ。

 夜はお庭でBBQです。


「このウィンナーヤバくね?」

「神界燻製部だぜー! みんな食べてけー!」


 食いしん坊が作った部や同好会も多い神界。


「炭火焼きは最高だよね!」

「ねー! 次は鶏皮焼こ! あ、フクエル裁判チョーにまた場所取られてる……」

「全部豚バラ串になってる……」


 アウトドア派も意外と多いんだよね。


「燻製部、このウィンナーとベーコンお持ち帰り出来ます?」

「いいぜー! 持ってけ持ってけー!」


 しれっと鉱石国専属の灰色のカノンがお散歩にも来てました。


「あーもー! 腹立つ!」

「ぬぬっ!」

「次こそ単身赴任ですよ!」

「そうだよ!」


 マザコン連合は、それはもうヤケ食いしたりもしてました。


「ママ! ママのこの手作りつくね串!」

「はいはい」

「そのお肉俺のだからねオフクロさん!」

「はいはい」

「焼きおにぎりー! マミィー!」

「はいはい」

「マミィー。焼きもろこしー」


 マザコン連合のためにBBQをするのは、当然オフクロさんでありました。

 リクエストは不可なので、網の上から選びなさいスタイル。


「マシュマロは自分で焼いておいで」

「「「「「はーい!」」」」」


 焼き待ち時間用に手作りマシュマロを串に刺すのもオフクロさん。

 焚き火に火をつけるのもオフクロさん。

 オフクロさんが火をつけた焚き火はマザコン連合専用。

 ここまでオフクロさんがしないと食べないのがマザコン連合なのであります。

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