第141話 すやすや
「ふむ」
神界お弁当屋さん計画をいつでも開始出来るように準備だけはしておかねば。
「どんなお弁当箱にするか」
バランに紙カップにピックも考えねば。
使い捨て容器だよなあ。
「お弁当屋さんポイントカードに、お弁当シールにしますかね」
神界も大忙しですわ。
実は今、ファンタジーダンジョンもえらいこっちゃになってて妖精たちが緊急出勤したりしてるんですが、女神はその対応もしたりしてます。
とりあえず今は鱗族ですが。
ファンタジーダンジョンもブオンブオンと、またあとで見守らなくては!
てなわけで!
「あああ〜……」
またお風呂に逆戻りしたファヌアス王たちであります。
ファヌアス王がお風呂で癒されてます。
実はですね。ミラクルロッカーの中のファヌアス王のフクフォンの着信が、えらいこっちゃになってるんですよ。
ミラクルロッカーに入れたお荷物は、帰りに湯浴み着からお着替えとかする時に取り出してください、だからさあ。
フクフォン放置状態。
「王……」
鱗国物産店の中で非常に困ってる爺ことリスレイさんです。
何故電話に出ない、と。
奥さまを置いて行けないし、奥さまを連れて探し回りにも行けないとひとり言を言ってました。
リスレイさんね。
いろいろと早くファヌアス王にお話して、地下室について工務店にもまた行きたいらしいのよね。
まだフクフォン使いこなせてないから、お電話で精一杯なんだと思う。
GPS使ってー、探し回らなくてもいいよと思うんだけど。
でも奥さまがなあ、とも思うし。
見守ってるだけで女神は悩んじゃうのよね。
「帰りたくない……ここは素晴らしいね……」
はふぅ。
ファヌアス王。
このね、わかります?
二窓で神界で見守ってる女神なんですがね。
このおふたりを綺麗に横に並べて見守ってる感じなのよ。
ごめん、正直笑う。
「王兄ちゃん滑り台行こ!」
風呂桶は放置して、元気に遊び回ってるギュルヴィくん。
女神はこの子こんなに遊ぶんだなあと感慨深いですわ。
前はひとり地面や床に座って工作ばかりしてたからね。
ギュルヴィくんが遊び回っているゾーンは、アスレチック公園お風呂版、ミニレジャー温水プールという感じです。
お風呂が温水プール扱いでもある。
少し肌寒くなったらお風呂に行こうね、って感じです。
「……ギュルヴィもおいで。このお風呂は本当にいいから」
「もう王兄ちゃんさっきもそう言った!」
プンプン。
まるで休日に寝転がって動かない父親のようなファヌアス王。
こじらせガイド妖精くんは、ファヌアス王の風呂桶の中でお昼寝中であります。
「王兄ちゃんが今日は悪い子だよ! ちょっと遊んで来たよおれ」
ファヌアス王がちょっと待ってもう少し、したんですよ。
「わかったよ。ごめんよギュルヴィ」
ようやくザパアしたファヌアス王。
ジャグジーにかなり後ろ髪を引かれてますが、ギュルヴィくんがガシッとおててを繋いで引っ張ってます。
「姫姉ちゃーんっ! 王兄ちゃんを連れて来たよー!」
「待ってたわ兄さま!」
「……何を、してるんだい妹よ?」
びっくりしてる。
「これに乗るのよ兄さま!」
「これに乗るとね、上まで行くんだ! それから滑り台なんだよ! 一番すごいやつ!」
はい。自動です。
デカい浮き具の黄色いアヒルボートみたいなやつ。フロートです。
二人乗りもOKサイズ。
こういうフロートに乗って、まっすぐ坂道のように登るんじゃなくて、くねくね蛇行しつつも気づけば上に登ってた! みたいな作りになってます。
んで、少し渦巻く滑り台。
スーパー銭湯はスーパーなので!
おいでよ五百クル!
「うわあああああ!」
「きゃあああああ!」
「……」
妹と弟がお手本的に滑り台中。
それを驚いたお顔のまま見てるお兄ちゃん。
「え?」
安全性は保証します。
くるくると回転しながら滑り台したりもする黄色いアヒルちゃんのフロートですが、女神は安全性重視なので安全対策済です。
そんなこんなで!
「ネフェティ。もう少しだから」
「うん……」
ファヌアス王に手を引かれるネフェティ姫。
もう眠い。限界。
そんなネフェティ姫です。
ギュルヴィくんは遊び疲れてお昼寝中です。
眠ってる弟を抱っこと眠い妹の手を引いて。
自分も眠いのに頑張るファヌアス王。
「頑張ってファヌアス」
「私も眠い……」
よたよた。
ファヌアス王たち、宿屋を目指しています。
最後はお風呂が温水プール状態だったのよ。
ファヌアス王もなんだかんだ、ギュルヴィくんたちと一緒に遊んではしゃいでました。
いい感じに疲れて眠くなるよね。
「王。爺は待ちくたびれましたぞ。それでですな。王?」
「……ん? んんー。後にしてくれ爺」
ごろん。
宿屋のベッドに寝転がるファヌアス王。
チェックインの手続きと前払いはリスレイさんがしました。
奥さまはこことは別室で外から施錠中です。
「王! まだ昼ですぞ!」
午後二時くらいです。
ギュルヴィくんとネフェティ姫は別のベッドですやすや。
「静かに爺。ネフェティたちが起きる」
「ファヌアスも眠いんだよ」
「知りませんじゃ!」
ぐおおおおおお!
ふぬううううう!
これ、よくある感じ?
リスレイさんがファヌアス王のお布団を掴んで、まるで大きなカブのようにファヌアス王と引っ張り合いっ子をしてます。
「おやすみ爺!」
必死にお布団に包まるファヌアス王。
「昼ですじゃあああああ!」
そうはさせるかとお布団を剥ぎ取ろうとしてるリスレイさん。
「…………」
ポカンとただ見てるしか出来ない感じの、お昼寝しておめめパッチリのこじらせガイド妖精くん。
ファヌアス王が子どもみたいだし、お布団の端をサンタさんの袋のように引っ張りつつ背負投げも目指してるっぽいリスレイさんもそう。
「んんんんんんーッ!」
「諦めなされえええええ!」
結構コミカルでもあるね鱗族。
「王兄ちゃん! じぃ! 静かにしてよ!」
ガバっと起きたギュルヴィくん。
文句を言うとネフェティ姫がいるのを確認したように頷いて、パタン。
ね、寝言?
起きたら絶対覚えてない系だと思うわ。
ネフェティ姫は普通にすやすやしてます。
「「…………」」
時が止まったファヌアス王とリスレイさん。
「はあもう。爺のせいだよ」
ギュルヴィくんが寝言文句を言ったのをリスレイさんのせいにするファヌアス王。
「王のせいですな」
ぷいん。
爺悪くないもん悪いのは王だもんみたいなノリのリスレイさん。
「「…………」」
やるかコラ?
おおん?
みたいな雰囲気。
見えない火花が飛び散ってますわ。
「だいたいね。妻を置いて、ネフェティとギュルヴィを置いて行けないだろう」
「行けますじゃ。妖精くんがいますじゃ」
煽り合い。
はあやれやれなファヌアス王vsあんた馬鹿あ? みたいなリスレイさん。
「「…………」」
火花ですわ。
無言で睨み合うおふたりですわ。
見えない火花ですわ。
「え? 僕?」
置いていかれるこじらせガイド妖精くんですが巻き込まれてますわ。
当事者ですわ。
「何かあればフクフォン、ですじゃ」
リスレイさん。
まるでCMポスターのように顔の横にフクフォンを丁寧に両手で持って、にっこり。
なんかこんなCMポスター見たことある気がするわ。
シャンプーとか飲み物系とか芳香剤とかのやつ……。
「……え?」
こじらせガイド妖精くん。
招き猫のような笑顔のリスレイさんに大いに戸惑うの巻。
「はあ。地下室には小さいお風呂と……。アレだよ。他は爺に一度任せるから行って来ていいよ。また図面を書いてくれるだろう。後でそれを見せて」
「小さいお風呂ですじゃ……」
なんか不満そうなリスレイさん。
「フクフォンのジェインでお話したら? 文字だし個人間でのやり取りだから禁止ワードには引っ掛からないよ」
「おお」
「なるほど」
どんだけ禁止ワード案件なんだ。
ですがこれが、ちょっと見てて女神面白い。
「は? 爺は私が必死に皆のためにと計算してる間に?」
こいつ! って感じでフクフォン片手に文句を言うファヌアス王。
「参考になりましたじゃ。爺も王や皆のためにといろんなお部屋で妻を躾けましたじゃ」
「この!」
「王、小さいお風呂でいいですじゃ?」
「……」
「爺がこの目で見て、経験したからこその助言ですじゃ。後悔しますぞ王」
「……もう一度、計算をするよ」
ファヌアス王の凄いところは、冒険者ギルドで絶対いつでもこの値段で買い取り、という収入のみで計算するとこなんだよね。
物産店で鉱石族とか他族が買って得る不確定の収入を計算に入れないの。
お金なんてはじめてなのにさ。
ボーナス一切当てにしてないような感じ。
「国のブティックホテル。あれは絶対に移動させますぞ」
「それほどか……」
「寝台もどの部屋も素晴らしく、ソファーも良かったですじゃ。アメニティも宿屋とは違いましたじゃ」
「……爺。ひとつ聞きたいんだが」
「何ですかな?」
「そのギュルヴィが笑う喋り方はいつまで続けるんだい?」
は?
「…………そういえばそうだったな」
「だろう。せめてギュルヴィが寝ている間は止めておくれ」
マジ、か。
知らんかった……。
そうだったんだ……。
「……」
こじらせガイド妖精くんもこれには驚いて絶句ですわ。
「ミラクルくだものグミがなかったら、一生あのままだったろうなあ」
「私はお祖母さまたちが心配だけれどね。ギュルヴィのためにと皆してきたが、ミラクルくだものグミを食べればお祖父さまと父さまがどう厳罰を与えるのか。お祖母さまと母さまが短期間とはいえ女王だったんだ。お祖父さまたちの命令であっても許されないだろう。ネフェティですら日記を書いていなかったし、私もネフェティが日記を書いたと報告しに来なくても、それに気づきもしなかった」
「……まあ、兄上の厳罰はアレだが。若返り薬を飲ませてから、と止めるしかないだろう」
「今日、妖精くんが奇跡の国体験だと言い出してね。マッサージとやらをされたのだけれどね。アレでお祖父さまや父さまの機嫌は確実に良くなる」
「……奇跡の国体験?」
「カノン族は素晴らしいね。妖精たちも可愛らしい。おいで妖精くん」
「……う、うん」
いい子にファヌアス王に近づいちゃったこじらせガイド妖精くん。
「いい子だろう?」
「まあ」
「え? なに?」
緊張感。
こじらせガイド妖精くん。ファヌアス王の手のひらにお座り状態ですわ。
「皆が笑顔になるとギュルヴィが奇跡の言葉を言うはずだよ。奇跡の国体験。次は爺に体験させておくれ」
「え? いいの? ありがとう!」
お礼言っちゃうか!
「みんなに伝えなきゃ」
妖精用フクフォン取り出してキャッキャキャッキャ。
もう駄目だわこじらせ村。
スレの加速が凄い。
お嫁入りする未来しか女神には見えない。
子離れかあ……。
覚悟しとかなきゃなあ……。
てか、こじらせ村の住人多くね?
「フクがひとりですからね」
「ん?」
「鱗族男性は常に見守ってるとも言えるんですよ。放置していては管理出来ない。妻が亡くなるまでは絶対に奇跡の実を食べ続ける。絶対に妻をひとりにはしないと言う男性ですし。奇跡の実がない時代は妻と必ず心中してましたからね。こじらせ村の住人たちは、元はママを独り占めしたいという気持ちがあったんでしょうね。マザコン連合に遠慮した子たちの集まりが、フクにも遠慮してしまった子がこじらせ村の住人になったとも言えます」
「あー、それはわたしのせいだわ。寂しいとは知ってたんだけどなあ」
うちは兄弟多い実家ですし。
「私じゃ駄目なんでしょうね」
「ママとパパに対する感情は違うかもなあ。少なくともわたしは一緒じゃないわ」




