第128話 特大サイズ
クレーンゲームに初挑戦。
白イルカの特大ぬいぐるみが欲しい獣族最高齢の王族メリべ婆さまのために、ライ王子がミラクル鞄からフクフォンを取り出しました。
竜人族のべファル王たちはちょっと離れてライ王子たちを見ています。
「そこの妖精ちゃん。ちょっといいか?」
獣族はわからないときは基本全力で人族を頼ります。が、ライ王子はここに人族がいないので、たまたま近くにいた暇そうなガイド妖精ちゃんに全力で頼る気なのでしょう。
「え? 私っ?」
このガイド妖精ちゃんは、脳内ネットをしつつ獣族情報を収集していたと思われる腐ったガイド妖精ちゃんであります。
「……私よりクレーンゲームが得意な妖精を呼ぶから待って」
逃げましたね。
獣人国推しで腐った村在住の妖精ちゃん。
推しにあまり近づきたくないという防衛本能でしょう。
神界にはいろんなタイプのオタがいるのであります。
「こんばんはー! クレーンゲームだね!」
そうして呼ばれて来たのは、ゲームセンターの店員もしている妖精くん。
この妖精くんは同村の住人たちと神界に一軒家を建ててシェアハウス。自宅を自分たち用のゲームセンターにしている妖精くんです。
「はじめてやるんだ。どうすればいいか教えて欲しい」
「いいよー! 初心者用のクレーンゲームじゃなくて、この景品を狙う?」
「初心者用……。練習しなきゃ駄目か?」
「うーん。クレーンゲームはね、取れるときはあっさり取れたりするんだ。運もあると僕は思ってる。どんなに練習をしても取れないときは取れないし、初心者が一回で取れちゃうときもあるんだよね。この特大白イルカが景品のクレーンゲームは難易度が高い一回二百クルのクレーンゲームだから、まずは基本操作を知るために一回百クルの初心者用クレーンゲームをやってみた方がいいかなって僕は思ったんだ」
いろいろと持論を展開する妖精くん。
ライ王子やレオング王子たちは真剣な表情で聞いてます。
ちょっと離れて、竜人族のべファル王たちも真剣なお顔で聞き耳を立ててます。
「わしのおっきな白イルカちゃん……すぐ落ちちゃうんだよ……」
何度も挑戦しただろうメリべ婆さまが泣きそうなお声で言いました。
他の挑戦した獣族もライ王子のように全力で誰かに頼ったはずだけど、それでも、何度挑戦しても駄目だったってことだよね?
「そうなんです。やっと白イルカのぬいぐるみが持ち上がったと思ったのに、すぐに落ちちゃうんです……」
うーん。
まあ、アームを引っ掛ける場所はそうない。
あと特大サイズだから重さがあるんだよね。
わたしならヒレを狙って引っ掛けて、尾の方が軽いだろうから、そのバランスを考えて取るかなあー……。
全体的に丸っこいフォルムだから、落ちやすそうだし重そうだし、ぶっちゃけわたしならこの白イルカのぬいぐるみはスルーして他の景品を狙うな。
「あのタグ、透明な紐と白イルカの絵が描いてある紙の部分を狙った方がいいよ」
妖精くんのアドバイス。
タグにアームを一本通して、もよく聞くクレーンゲーム攻略法だよね。
ただそのタグ狙いが難しいんだよ、とつい思っちゃう女神がわたしです。
特大サイズのぬいぐるみだから、余計にきっちり狙わないとそもそもタグに届かなそう。
タグの紐で出来てる輪も小さいし……。
「狙ってもちっとも上手くいかないんだよ……」
メリべ婆さま、しょんぼり。
獣耳がずっとぺたんとしてます。
タグ狙いをアドバイスした妖精は他にもいたんだろうね。
アドバイスされても出来ない。わかるよ。
難しいよね。
得意なひとは、ちゃちゃっと簡単に狙えるんだろうけど……わかるよ。難しいよね。
「まずはあのタグを狙いやすいように白イルカのぬいぐるみを移動させるんだよ。一度で取ろうとしないで、あのタグが狙いやすい位置にする。取るのはそれからだよ」
「一度で、取らない?」
「そうだよ。白イルカのぬいぐるみがあの状態じゃ、一度じゃ取れないよ。何度か位置を調整して、それから取るのさ」
妖精くんのそんなアドバイスに何度も深く頷いて、ライ王子がいざ初挑戦であります!
「いくぜ」
ピッ。
ライ王子は人魚族のリーセイリウのようにフクフォンさえあれば便利な聖地生活にしてました。
百クル玉を二枚投入ではなく、フクフォンでピッと二百クルお支払いです。
「左にズレた!」
「いい感じだよ。次はタグを狙いやすいように考えていこう」
真剣。
妖精くんがまるで師匠のような風格を出しながらライ王子にアドバイスをしています。
ピッ。
もう一度です。
ちなみにゲームセンターのクレーンゲームでは、五百クルで三回とか六回といった値段設定はありません。
一回いくら、という設定です。
ライ王子はこうして何度か特大白イルカのぬいぐるみを取るのではなく、取りやすくなるように移動させます。
そして、とうとう来ました!
「おっ!」
「いい! いい感じだ! その位置ならもうタグを狙えるよ!」
妖精くんがボクシングのセコンドかというくらい興奮をしていますが、クレーンゲームがそう上手ではない女神が見ても『これ取れるんじゃね?』『やってみようかな』と思うくらいのベストポジションであります!
「わしのおっきな白イルカちゃん……」
「ライ王子がきっと取ってくれますよ婆さま」
「そうだよ。兄さんは凄いんだ!」
これにはライ王子を応援する獣族のみんなも期待大!
「「……」」
そのさらに後方で何気に興奮してるっぽい竜人族のべファル王とセノキアちゃん、他の民たちもグッと期待しているおめめです。
本当になんか、試合会場みたいな雰囲気になって来たな……。
「妖精くんがあんなに喜んでるし、あれはもう取れるんじゃないか?」
「けど、あんなに大きいよ」
「本当にあれが取れるのかな?」
通りかかった他族も足を止めて野次馬しているんですよ。
女神はつい、いい客引きだなとか思いつつライ王子たちを見守っています。
「いくぜ」
ピッ。
フクフォンで二百クルお支払いです。
ドキドキドキドキ。
ライ王子の緊張が周りに伝わってきます。
ゲームセンター内はいろんな音が聞こえてきますが、このクレーンゲームの周りだけシーンとしている雰囲気がここにあります。
ライ王子がちょっと失敗したら、今のベストポジションが崩れてしまうかもしれません。
「よし、よし……ここだ!」
ウィーンと横に移動をするアーム。
ライ王子はピタッとアームをいい位置で止められました。
「いいよいいよ!」
妖精くんもうんうんと頷いてます。
「次は、あの辺だよな」
ライ王子は横側からもう一度、しっかりとアームを止めたい位置を確認。
「よし、やるぜ」
緊張しつつ、アームが前に進むボタンを押すライ王子。
頑張れー!
ウィーン――ピタッ!
「いいだろ? 妖精くんこれいいよな?」
「いい! これはきっと取れるよ!」
ウィーンと下がっていくアーム。
クレーンゲームは絶対取れたと思っても取れないことがあると何度も経験済の妖精くん、断言はしない。
「わしのおっきな白イルカちゃん……!」
「取れてください白イルカ!」
「兄さん……っ!」
獣族の応援団も必死です。
「入れッ!」
タグに片方のアームが、ズポッ!
入った! 入りました!
そのまま閉じていくアームです!
「やった!」
これは取れたわ。
これで取れなきゃゲームセンター総合担当を女神社長がガチで呼び出すレベルだわ。
ゲームセンター総合担当、今ライ王子のセコンドについてるけど呼び出すわ。
ググッと閉じて、アームは一度停止。
そして上昇を開始しました!
「わしの……!」
「婆さま……!」
片方のアームがタグに通っているので安定感があるまま、持ち上がっていく特大サイズの白イルカのぬいぐるみ!
ガコン! と最大まで上昇したところで一度揺れましたが落ちてません!
アームはしっかりと特大サイズの白イルカのぬいぐるみを景品獲得口に運んでいます!
「お、お……」
「そのまま、そのままだ。いけー!」
一度下がったアームが最大まで上昇したときの揺れという難所をクリアして、ゆっくりと運ばれていく景品。
そして――ドサッ! GETとはならず。
アームが開いて景品獲得口に見事に落ちませんでしたあああっ!
「あ、嘘だろ……」
落ちない! とショックを受けるライ王子。
「わしの、おっきな……白イルカちゃん……」
「そんな……」
「兄さん……ああ、女神さま……なんでっ!」
ぷらーんと揺れてる特大サイズの白イルカのぬいぐるみを見てショックを受けてるメリべ婆さまとリズさんとレオング王子。
「GETだよッ! これは取れたんだよライッ! 落ちなくても、これは取れたんだよ!」
「え?」
「特大サイズの白イルカのぬいぐるみ! ライのものだよッ!」
ガチャガチャガチャン!
ススー。
クレーンゲームのガラス板を横に開けて、アームに引っ掛かってるままのタグを外すと、妖精くんは妖精パワーで特大サイズの白イルカのぬいぐるみをライ王子に渡しました。
「おめでとうございまーすっ!」
妖精くんはすかさずお仕事用のミラクル鞄から大当たり用の鐘を取り出してカランカラン!
「ま、じか……」
「兄さん! やった! めっ、あっ愛されてる! やったよ! 愛されてるよ!」
信じられない、と小刻みに震えるライ王子と感動しつつも他族にとても気をつかっているレオング王子。
「やったぜ! 婆さま! この白イルカはメリべ婆さまのものだ!」
「ライーっ!」
特大サイズの白イルカのぬいぐるみをメリべ婆さまに渡してから、そのままぎゅっと抱き締めるライ王子。
「ありがとう……! ありがとうライ! 婆はうれしいよ……っ!」
メリべ婆さまはホロンと泣いちゃってます。
めちゃくちゃ欲しかったんだね。
よかったね。
「婆さま……よかった……っ!」
「さすが兄さんだよ。婆さまもよかった……!」
感動。
感動の輪がゲームセンターに広がっていくのであります。
「おお……」
「王、王、私たちも早くクレーンゲームをしましょう王」
「頑張ろう王」
「百クル玉いっぱいあるもの」
そしてその感動の輪が直撃した大雑把な竜人族の皆さんが、とても張り切り出しました。




