第117話 情報爆弾
「ノチア、なっちゃん」
おじいちゃん王がちょいちょいと王のおばあちゃんたちを呼びました。
ノチアは王のおばあちゃんのお名前です。
「ナディ。この宝箱のカードを開けよう」
おじいちゃん王とレドム王子は、王のおばあちゃんやナディ奥さまたちに鱗族のギュルヴィくんたちのような反応をしてほしくないんだろうな、と女神は思いました。
獣族のライ王子には近づかせん、というおじいちゃん王たちのお気持ちを強く感じます。
「……そうかい。なるほどなるほど」
王のおばあちゃんが、おじいちゃん王とレドム王子の様子を見て何かに気づいたお顔をしました。
「行くよなっちゃん」
「え?」
「ノチア。これ……っ!」
「母さん! ナディ!」
よいしょと立ち上がる王のおばあちゃんと困惑しつつもそれに続くナディ奥さま。
これにすっかり余裕を無くしたおじいちゃん王とレドム王子は大慌て。
ですが、王のおばあちゃんはスタスタと獣族のライ王子たちに向かって歩きます。
「すまないね。他族のかた。少し教えて欲しいんだが、いいかい?」
「ん? ああ。こんばんは」
「こんばんは。どうしたの?」
獣族のライ王子とミティ姫。
あっさり愛想よく王のおばあちゃんにお返事であります。
「こんばんは。少しだけなら」
「ありがとうね。あたしゃ魔毒族のノチア。このダンジョンについて聞きたいんだよ」
人族のリファ王子も笑顔です。
身だしなみガチ勢は、獣人国イメージアップガチ勢でもあります。
以前のイメージが本当に悪いので『悪魔にしてやられていた頃とは違う』精神なのです。
あとは女神に自称とてもとても愛されちゃっているので、他族には優しくしてあげなきゃ、みたいなお話も国ではしています。
「誰か、ゆるふわモンスターにターゲットを破壊された子は見たかい?」
王のおばあちゃんの質問にリファ王子があっというお顔をしました。
「いたよ。突然現れたゆるふわモンスターにターゲットを破壊されたんだ」
「あっという間だったぜ」
「たまに強いのが現れるのよ。ターゲットに当たっても壊れないの。ミラクル銃をカスタムしたら一度で倒せたよ」
王のおばあちゃんは結構疑問があったようでリファ王子たちにいろいろと聞いてます。
最初不安そうなお顔だったナディ奥さまのおめめが輝いてきました。
「シェイクは見たかしら?」
とうとう、本領発揮です。
王のおばあちゃんが小さく頷いたのを女神は見てしまいました。
おじいちゃん王とレドム王子は「あああ~……っ」とうなだれています。
諦めモードです。
「ファンタジーダンジョンの攻略……」
「聖地文字は読めるだけでも違うと思うぜ」
「ミラクルタブレットも毎回音声を聞かなくてもよくなるのよ」
「聖地文字は本当に凄いんだ」
少しだけ、と言いつつも丁寧にナディ奥さまの質問に答えていくライ王子たち。
ナディ奥さまたちはファンタジーダンジョンの攻略本のことや聖地のガイド本、聖地文字の布教までされていました。
「あとは、若返り薬だな」
「若返り……?」
最後にライ王子たちは若返り薬の布教もしました。魔毒族はおじいちゃん王よりも年上っぽい高齢の民たちも来ているので気になったようです。
「じゃあまた会ったらよろしく」
「またねー」
「また」
こうしてライ王子たちは、魔毒族にそれはもう丁寧にいろいろな爆弾を投げつけて去っていったのです。
「……若返る、薬……」
「なんてこと……」
呆然であります。
ファンタジーダンジョンについての疑問だけではなく、さまざまな情報という名の爆弾をくれた獣族のライ王子たち。
その場に立ち尽くしていたナディ奥さまがハッと我に返りました。
「いっ行かなきゃ! 冒険者島よ! 冒険者島のダンジョンよ……っ!」
「焦っちゃ駄目だ。絶対駄目だよなっちゃん」
「でもおばあちゃん! みんなが若返るのよ! 王やおばあちゃんだって!」
「焦るのだけは絶対に駄目だよ。今日は一度このまま国に帰るんだ。子どもたちとレストランのお料理を食べてゆっくり入浴をして、みんな落ち着いて、それからだよ」
とりあえずみんな落ち着こうと、ナディ奥さまも落ち着かせようとする王のおばあちゃん。
最初は諦めモードで涙目だったおじいちゃん王とレドム王子も、若返り薬の話には腰を抜かしたようにビックリ仰天しています。
「みんな、一度国に帰るよ。アンフィたちにもそう伝えるように誰かここに残っておくれ。あたしらは女神さまのお宝のことも、何ひとつわかっていないんだ。わかっていない状態で動くのだけは駄目だ。みんな勝手に冒険者島のダンジョンに行くんじゃないよ」
おじいちゃん王とレドム王子があまりの衝撃にふらふらしているので、王のおばあちゃんがみんなに指示を出してます。
「しっかりしておくれ王! 泣くのは若返り薬を手に入れてからだよ!」
「あっ、ああ……っ!」
魔毒族。
一度帰国であります。
と、女神は思ったのですが……。
「スーパーだけは行こう」
涙を拭いたレドム王子が王のおばあちゃんに言いました。
「ナビちゃんに聞いたんだ。宝箱のカードを開けて福引のカードになったら、それを十枚集めるとスーパーで凄い景品が貰えるかもしれないと。スーパーに何があるのかも見る必要があるだろう?」
「……そうだね。スーパーは重要だ」
「宝箱のカードを開けよう」
おお。
レドム王子の意見に王のおばあちゃんが納得したように頷きました。
食料でも苦労してきた魔毒族。
お金があればスーパーでも食料が手に入ると専属のカノンに聞いて、重要視してましたからね。
魔毒族の皆さん。
再び床に直座りです。
気持ちの切り替えがやっぱり凄いなと女神は思いました。
これが夢か現実かわからない状態のままだと大変なんだな……。
「宝箱のカードはあんまりないね」
「あの躾がなってないゆるふわモンスターたちを殺さなきゃ、たぶん駄目なのよ」
王のおばあちゃんとナディ奥さまは、ナディ奥さまがミラクル浮遊ボードをGETしてから初期ステージをあっという間に駆け抜けただろうから、カードの枚数が少ないと言ってるんだと思います。
「ワシらより充分多いが?」
「……開けよう王」
おじいちゃん王のツッコミ。
レドム王子はツッコまないぞの気配で自分の宝箱カードを見てます。
宝箱のカードは宝箱の鍵穴を魔力を込めて触るとその場で宝箱が開く演出が開始されます。
現金ではなく聖地商品券十万クル、五万クル、二万クル、一万クル、五千クル、三千クル、千クル、五百クル。
宝箱のカードがそのまま商品券のカードに早変わりするのであります!
聖地商品券は聖地のお店で使えます。が、ダンジョンの入場料などには使えません。
もちろん、ハズレの空箱もあります。
初期のチュートリアルも兼ねたステージでも手に入るカードなので、ハズレがあるんです。
ただ空箱、残念ハズレでした! というのは女神は絶対に嫌だったのでハズレのカードは福引補助券です。
空っぽ宝箱のハズレカードはショッキングペガサスのドヤ顔デザイン。
そのハズレカードを十枚集めると福引カード一枚分になります。
福引カードは十枚集めるとスーパーや冒険者ギルドで福引が一回引けるんですよ!
この福引にしかない景品も当然あります!
女神のダンジョンご招待券やフクエルのダンジョンご招待券などなど!
もちろん、目玉景品は別にありますよ?
排出率担当のルジェタさんが『数百年に一回当たるくらいでいいでしょう』とか言ってましたけど! 可能性はゼロじゃない!
ちなみに一番下の五等でも、聖地商品券一万クル、バカンス島いも掘り四名ご招待券、バカンス島フルーツ狩り四名ご招待券、妖精たちの宅配おまかせピザ十枚と大盛りポテト&フクジェチキンとおまかせドリンク&デザート無料券、福引券一枚、カジノコイン二百枚の中からどれかひとつが当たります!
福引カードを十枚も集めて引けるの一回だからね! ハズレはティッシュではないのだよ!
「俺から開けるぞ」
緊張してるっぽいレドム王子がカードの宝箱の鍵部分にそっと魔力を込めて触れました。
すると立体映像。
カードから宝箱の映像が浮かび、ゆっくりと宝箱が開きます。
「「おお……」」
これにはおじいちゃん王もレドム王子と一緒にビックリ。
王のおばあちゃんたちも注目してます。
宝箱が完全に開くとカード全体が発光。
宝箱カードから、おお、これはさっそく福引カードであります!
「な、何のカードだ? あっ、ああ音声案内を聞かなければ」
レドム王子、カードの端にあるスピーカーマークの部分にまた魔力を込めて触れるの巻。
【福引カードです。十枚集めれば楽市島のスーパーや冒険者ギルドで福引が出来ます】
ふんふんと音声案内を真剣なお顔で聞くレドム王子たち。
「ナビちゃんが言ったとおりだ。このカードは十枚集めなきゃな」
「ワシの宝箱カードにもそのカードがあるといいが……」
おじいちゃん王も魔力を込めて宝箱カードをオープン!
「おっおお! ワシのも光った」
「何のカードだ?」
「まっ待て。今やる」
もう一度魔力を込めて、今度はスピーカーマークにタッチで音声案内がスタート!
【聖地商品券千クルです。聖地のお店でお金と同じように使えます。ダンジョンの入場料などには使用出来ません】
千クル商品券!
「お金と、同じように……」
「スーパーでも使えるということか……」
お金と同じ、という部分が衝撃だったっぽいおじいちゃん王とレドム王子。
これを見ていた王のおばあちゃん。
「ナビちゃん。聖地商品券はダンジョンと、他には何に使えないんだい?」
【聖地商品券が使えないのは、コインランドリー、ゲームセンター、自動販売機やカプセルガチャ。百クル玉を機械に入れなきゃいけない場所は使えないんだよ】
聖地商品券は電子マネーには出来ないので。
「ありがとう。ナビちゃんは、若返り薬のことは知ってるかい?」
【知らないよ】
このナビくんはファンタジーダンジョン専用だからね。
「ファンタジーダンジョンに若返り薬は絶対にないってことだ。ファンタジーダンジョンで戦える部隊と、冒険者島のダンジョンに行く部隊を考えなきゃいけないのかね……?」
「新しい動画は紫のカノンと一緒に見たいわ」
王のおばあちゃんは頷いて、さっそく自分の宝箱カードを開けるようです。
そのときでした。
「あ、あ……明るい? あっああ、母さん義姉さんッ! 俺やられたああああッ!」
「アンフィ」
お仕置き棒を片手に持ったアンフィ王子が現れました。
床に尻もちをついたような格好なので、これはターゲットを破壊されたみたいですね。
「もううううううッ!」
相当くやしかったみたいで床に伏せて駄々っ子してます。
「なんなのよッ!」
ユノ姫も現れました。
ミラクル銃を構えているので、ユノ姫もターゲットを破壊されての強制退場ですね。
「姫! 姫はどこだ!?」
「隊長ッ! あ……ああ……俺、俺はやられたのか……」
おお。
ターゲットを破壊されたっぽい魔毒族が強制退場になってます。
「……あ。いたわ! ああ! よかった! 怪我は! 怪我はない?」
「急に消えたから驚いたぞ!」
「大丈夫か?」
リノ姫と民たちです!
こちらは自主退場してますね。
「隊長ー!」
「ユノ姫隊長生きてる!?」
退場ルームに魔毒族が増えてきました。
これは、強めのゆるふわモンスターに遭遇したのでしょう。
はい。女神の仕業です。
ファンタジーダンジョンは日が沈んだタイミングなどで、強めのゆるふわモンスターの出現率が上がります。
もうそろそろ国に帰ろうかな?
どうしようかな?
そんなタイミングでターゲットを破壊されたら帰るきっかけにもちょうどいいかなと……。
「「「うおおおおおおッ! お?」」」
鉱石族です。
こういった場合の安全対策もしてあります。
冷静になるまで一時的に金縛りな感じです。
鉱石族のゼガロフ王が受付で聞いてとても安心していたやつです。
落ち着いたらセルフサービスのお水でも飲んでいってくださいな。
「セリィアッ!」
「クソッ! あ、キアキノ?」
どんどん強制退場になってますね。
ま、まあ初日なので!
慣れればきっと大丈夫!
次回からは武器もカスタムしてるからね!




