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第109話 駄菓子屋さん


「ふぅ……」


 女神はちょっと気分転換がしたくなったので先程後回しにした鉱石族のゼガロフ王とギュルヴィくんたちを見守ります。

 鉱石族は癒し。間違いない。

 お酒が欲しいゼガロフ王は酒の実をGET出来たかな?

 ギュルヴィくん、全部冒険者ギルドで売ってはないと思うんだけど……。

 そんなわけで娯楽島です。


「うわあ! うわあ! おれ全部! いっぱい行きたいよ姫姉ちゃん!」


 ネフェティ姫とおててを繋いで、もう片方の手で聖地船の白イルカのぬいぐるみを抱き締めるように持っているギュルヴィくん推定五、六歳。

 女神はもう、パシャリでした。

 普通にはしゃいでるよギュルヴィくん。

 お顔があっちこっちに向いて、足どりも跳ねる子うさぎのよう。

 このために生きてる……と女神は感無量なのであります。


「ここが駄菓子屋さんだよ」


 相変わらずファヌアス王の肩にお座りしている鱗族にご執心のこじらせてるガイド妖精くんが、ミラクルくだものグミを販売中の駄菓子屋さんに案内しています。

 ガイド妖精くんに頷いたファヌアス王たちが黒マスクをずらしました。


「いっぱいある! すごいや!」


 ギュルヴィくんのおめめがキラッキラ。

 駄菓子屋さん、わくわくするよねえ。


「まあ! これが駄菓子というものなのね!」


 ネフェティ姫もテンションが上がってます。


「欲しい物はそのカゴに入れるんだよ」

「カゴとはずいぶんと可愛らしい箱だね」

「色もたくさんありますなあ」


 ファヌアス王と爺ことリスレイさん。

 慣れてない様子ながら、落ち着いてカゴを手にしました。

 カゴの色は駄菓子屋さんだからね。

 子どものときってカゴの色を選ぶのも楽しかったんだよ女神は。


「ほらギュルヴィは白イルカをミラクル鞄に入れて、ふたりともきちんとカゴを持ちなさい」

「「はーい!」」


 ファヌアス王に言われてカゴを選ぶギュルヴィくんとネフェティ姫。


「白はないから、おれは赤にする!」


 そう。

 白いカゴは用意してなかったんだよね。


「私も赤にするわ!」


 キャッキャ。

 なんて平和な光景でしょう。

 頑張ってよかった、と女神が思えるほのぼのっぷりなのです。


「行こう姫姉ちゃん!」


 カゴを持って駄菓子屋さんを見て回る仲良し姉弟の姿に癒やされる女神。

 はあ。尊い。


「妖精くん、これはどういうものだい?」

「小さいけどこれもゼリーだよ」


 女神はこんにゃくを使ったゼリーもとても好きなんです。

 安全対策はしてますよ。


「ゼリーにはいろんな味や形があってね。こんな風に大きさも固さも違うんだ。鱗族の朝食やおやつにもいいと思うよ」


 ファヌアス王とガイド妖精くん。

 ふたりの目と目が合ってしまいました。

 ただのフルーツゼリーの話題ですけどね。


「ほう。他にもありますかな?」

「あるよ。僕は詳しいんだ」

「きみは本当に頼もしいね」


 女神はなんとなくこの三人はスルーします。

 別に深い意味はありませんが、ね。


「すごいや。これは魔石? 魔宝石かな?」

「……魔石でも魔宝石でもないわ。何かしら?」


 お。

 さすがおしゃれさんな鱗族。

 ギュルヴィくんとネフェティ姫が見ているのは翻訳アクセサリー。


 人魚族のリミーちゃんがキラキラだと気に入ってる翻訳指輪などです。

 駄菓子屋さんにあるじゃん?

 子ども向けの玩具のアクセサリー。

 あとお祭りの屋台でも見たなあ。

 駄菓子屋さんなのでお値段は一律五百クル。

 ちなみにジェフクタールの魔石は魔物から入手出来る素材です。

 魔宝石は鉱山などからですね。


 で、この五百クルの翻訳アクセサリー。

 宝石っぽいやつの原料は、アイツです。

 人魚族に狩ってきてと依頼をしているクリスタルのようなゴーレムっぽい魔物。

 アイツ、本当に万能素材なのよ。

 女神の神界と聖地はアイツが支えていると言っても過言ではない。

 ギュルヴィくんたちがおててに持っているカゴだって原料はアイツなのよ。

 アイツね、着色性にも優れていて綺麗に出来るし加工もしやすいしと本当万能素材でね。

 もうなんか、石碑とか建ててもいいくらい女神たちは感謝をしている魔物なんです。

 クリスタルのようなゴーレムっぽい魔物、名前すらないんですけどね。神界でのあだ名は万能素材くんですよ。

 万能素材くんここに眠る、みたいな石碑。

 建てたいよね。

 みんなお花を供えると思うよ。


「あ! 白い子!」


 おっと来ました。

 鉱石族ゼガロフ王です。

 ガイド妖精ちゃんもいます。


「ゼガロフのお兄ちゃん」


 ギュルヴィくんも気づきました。

 駄菓子屋さんなど、聖地の建物の通路は広めにしてあります。


「……」


 早い。

 ネフェティ姫、そしてファヌアス王たちもスッと黒マスクを元の位置に戻しました。

 おめめが嫌そう。

 もふもふのお髭なので彼が鉱石族だとわかったのでしょう。

 ネフェティ姫がファヌアス王にサッと手首を掴まれて、リスレイさんがファヌアス王たちの前に立ちました。

 ネフェティ姫はまだ未婚だけど、他族の男性とは出来るだけ距離を取らせてる感じですね。


「会えてよかった。新春おめでとう白い子」


 そしてこちらも早い。

 サッとギュルヴィくんの前でしゃがむゼガロフ王であります。


「新春おめでとう。あっ、おれ鱗族のギュルヴィだよ。ギュルヴィっていうんだ」

「……ギュルヴィ。鱗族とは?」


 ギュルヴィくん。

 ちょっと緊張しつつも自己紹介です。

 女神も緊張。


「……」

「おれの兄ちゃんたち」


 ギュルヴィくん、急に現れた鉱石族に無言のファヌアス王たちを紹介してます。

 ゼガロフ王がパッと笑顔になりました。


「ああ! やはり黒い布の一族が白い子の一族だったんだね!」


 お。おお!

 なんと!


「こんにちはギュルヴィくんのお兄さん。僕は鉱石族のゼガロフだよ。いつも、とてもギュルヴィくんには仲良くしてもらってるんだ。ありがとう」

「……」


 ゼガロフ王に小さく頷いたファヌアス王。


「兄ちゃんたちは他族に慣れてないんだ。ごめんねゼガロフのお兄ちゃん」

「ああ! それはすまない。僕は酒の実が欲しくてギュルヴィくんを探していたんだよ」

「えっ? も、もうなくなっちゃったの?」


 ギュルヴィくんがびっくりしてます。


「ごめんよ。女神さまの若返り薬で何人か若返って、飲んじゃったんだ」

「……女神さまの若返り薬?」

「うん。ダンジョンのお宝でね」


 ゼガロフ王が若返り薬のお話をしてます。

 これに興味を引かれたようなおめめをしているネフェティ姫とファヌアス王たち。

 鱗族専用の奇跡の実は若返りはしませんからね。気になるようです。


「本当に白い子の、ギュルヴィくんの言ってたとおりだったよ。ありがとう」

「へへっ。よかった! 女神さまはみんなを笑顔にしてくれるんだよ」


 出来るだけね、女神頑張るよ。

 ギュルヴィくんはいつもわたしを応援してくれるのであります。

 ちっちゃい子の真っ直ぐな期待はプレッシャーでもありますが、女神の力にもなるのです。


「酒の実、準備が出来たら聖地の土地で売る予定なんだよね」

「売る……お金だね。どれくらいのお金がいるんだろう?」

「カノンと話してもう決めてるよ。あの酒の実は一粒十万クル」

「じゅ十万クル!?」


 今度はゼガロフ王がびっくりしてます。

 これね、酒の実は一粒で約二十リットルのお酒になるんだよ。

 しかも地球なら、どれもが間違いなく最高級酒レベル。

 そしてね、普通なら割って飲むようなお酒を鉱石族はストレートで飲んでるんだよ。

 一粒十万クルはむしろお安い値段設定なんだよね。白のカノンは一粒二十万クルでもいいってギュルヴィくんにお話をしたんだけど、鉱石族はたくさん買うだろうからってアルコール度数の高い酒の実は十万クルになったの。


「ゼガロフ。鉱石で何か作って冒険者ギルドで売ればいいのよ」


 ですよねー。

 ガイド妖精ちゃんのアドバイスです。

 鉱石族も稼げるんだよ。

 作って売れば普通に買えるよ。

 冒険者ギルドで鉱石族に依頼も出してるし。


「う、うう〜んっ、今日はどうしよう……」


 あ、そういう心配か。


「今日はあげるよ」

「えっ!? いっいいの!?」

「いいよ。みんな泣いちゃうでしょ」

「あっありがとう白い子! こんなに!」

「次は売るからね。泣かないでよ。あとおれはギュルヴィだよ?」


 だばあ。

 どうしても涙が出ちゃう鉱石族である。

 でもゼガロフ王は布を持ってました。

 ぐすんぐすん、ありがとうギュルヴィくんと涙を拭っています。


「……」

「……」

「……」


 判断が、難しい……。

 そんなおめめのファヌアス王たち。

 そんなお顔の兄ちゃんたちにギュルヴィくんが気づきました。


「おれ、ゼガロフのお兄ちゃんにずっと聞きたかったんだけど」

「ん? なんだい?」

「どうして鉱石族の女のひとは男を叩くの?」


 鱗族審判。

 鱗族にとっては重要な質問でしょう。


「叩く?」


 ゼガロフ王。

 キョトンとするの巻。


「叩くでしょ。ジュリンもゴードルをいっぱい叩いてた」

「ああ。あれは叩く? 叩くと言うのかな? 僕たちからすれば叩いてはないんだけど、他族にはそう見えるんだね」

「え? よく叩いてたよ?」

「うーん。叩くなら喧嘩のときでしょ? 素手じゃないよ」

「……えっ?」

「手で叩いても痛くないし、喧嘩をして誰かを叩く気なら何か持つよ。僕たちは撫でてる感じなんだけど、他族には叩いてるように見えるのか……」


 はぇ~、ですわ。

 応援とか励ます意味で背中をバンバン叩いてると女神は思ってたけど、あれ、鉱石族にとっては撫でてる感覚なんだ。


「撫でてるんだ……」


 ギュルヴィくん。

 衝撃を受けるの巻。

 ファヌアス王たちも目が驚いています。


「うん。他族には叩いてるように見えるってみんなに話すよ。変な目で見られたら同族を叩いてると思われてるのかもしれないって。喧嘩もしてないのに同族を叩くわけがないのにね。ああ! でもギュルヴィくんのお兄さんの背中を僕たちがって考えたら、確かに叩いてるように見えるだろうね」

「うん……」


 ギュルヴィくん。

 ギュルヴィくん。

 嘘つき女神は見たぞ。

 ずいぶんと気まずそうに頷いたじゃないかギュルヴィくん。

 ファヌアス王たちは「えっ」ってお顔をしましたよ。


「鱗族だけだよ。他族には言わない方がいい」


 ヒソヒソヒソ。

 鱗族にご執心のガイド妖精くんが、すかさずファヌアス王に囁いています。

 まあ、躾のためでしょ?

 鱗族の男性が女性をペチンペチンするのは仕方がないですよねー。

 道具も使いますよねー。


「カノンたちは鱗族の女性と同じように厳しく躾けなきゃ駄目だから問題ないよ」


 こじらせ妖精くんが何か言ってますが。

 一度は解放されてしまったカノン族が鱗族にお嫁入りルートですが、きっとこうして鱗族にお嫁入りルートは閉ざされていくに違いない。

 女神はそう思います。


「ごめんなさい。おれの勘違いだった」

「他族にはそう見えるって、わかってよかったよ。ありがとうギュルヴィくん」


 何も知らない鉱石族のゼガロフ王。

 にっこり。


 鉱石族がお互いに背中をバンバン叩くの、鱗族以外は気にしないことなのかもしれないね。

 魔毒族のほっぺたパシーンッだって、叩くというよりも夢か現実かの確認だったし。


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