第10話 人間度■■■■□
文字が書けない。読めない。計算が出来ない。
そんな人が大多数。
そもそも文字すらねえわという国がほとんど。
絵ならあるぜというレベルよ。
そんな人たちが大勢集まる聖地。
生態も言語も、文化も風習も、価値観も寿命も違う種族たち。
トラブルが起きないわけがない。
椅子に座って、スプーンなどの道具を使って食事をする種族。
地面に座って道具を使い食事をする種族。
手づかみで食事をする種族。
食事だけでもさまざまな問題が起こるだろう。
不幸中の幸いは、神が存在していると全員が理解しているということだ。
誰かが争っていると、別の種族が「聖地で何をしている」「神の裁きが下るぞ」と身振り手振りで騒ぎ出す。
それで場がおさまる場合もある。おさまらないほどに乱闘して怪我人が出て、神罰のきっかけになったこともある。
はあ。スーハースーハー。
神さまくんがみんなおいで精神で作った聖地。
みんなで仲良く、そういう理想だったんだろう。聖地で争えば神の裁きが下ると全種族が理解するほどに。
世界の中心に綺麗な円形の大陸が聖地。
ホールケーキを切り分けるように、神が定めた種族ごとの聖地の道がある。
ウエディングケーキの二段目へ行くように階段や川をのぼって、中央にある神殿と試練の塔、そしてダンジョンへどの種族も行けるように。
人間だけでも言語風習その他で揉めるのにさあ。もうううう。多種族!
川をのぼるのは人魚族だよ! 神殿内にも川という人魚族の道があるよ!
川にゴミを捨てたり立ちションする他種族に怒り狂ってるよ!
そりゃそうなるよ!
神さまくんトイレ作ってないもんね!
聖地にトイレなんて(ドン引き)とでも思ったか! いるだろいるんだよ!
だいたい川ってなんだよ!
普段は海水ですが淡水もオッケーですってか!
そういう種族にしてたわ!
二足歩行の種族と尾びれの種族を川だけ作った聖地で共存させようとするな!
生態から別物なんだぞもっと考えろ。
なんで喧嘩になるか。それは風習の違いとかもあるさ。
だけどなんで戦争になるかって、それは全部が全部! お前のせいだよ。
神さまくんの癇癪だろう「なんで喧嘩してるの!」的な裁きは、聖地で乱闘があれば継続するしかない現状よ。
今は抑止力がそれしかない。
聖地でいくら争っても大丈夫だとなれば、聖地で他種族巻き込んでの大戦争になる。
ダンジョンでトイレしてるのは偉い方だわ。ダンジョンなら一定時間経つと排泄物も吸収されるし外でトイレするより問題は少ない。
でも川でやってるやつは、ここでトイレするな川でやれって怒るんだわー。
そりゃ争うわ。
ダンジョンにも川があるもん。
聖地では道なんだよねー。
人魚族を見てこれは彼らの道だとわかってる種族もいれば、ただの聖地の川という認識のままの種族もいる。
もう人魚族は聖地で見ない。
幻的な種族だもの。
そういうこともどうにかしないといけない。
ノアの方舟を思い出すよねー、ははっ。怒った神さまがノアたち以外を一掃するために大洪水。
地球に有名な前例があるじゃんね。
それは最終手段として覚悟はしてるけどね。最終手段は最終手段。
わたしはお互いの意思の疎通からゆっくりとやれることをやってみる。
物々交換とかやってたりもするんだ。仲良くなってる種族もいる。
身振り手振りのボディランゲージでも結構通じたりするんだよね。
そして子どもは特に、いつの間にか相手の言葉をなんとなく理解してたりするんだ。
翻訳の魔道具が広まれば世界は変わると思うんだよ。
この世界には魔法もあるしね。翻訳アプリならぬ翻訳魔法が普通の世界になるかもしれない。
言葉がわかるとなれば、捕虜に拷問して情報を吐かせるとかありそうだけど、そういう問題もあるだろうけどね。
「大丈夫ですよ。悪いことに使わなければいい、そういう道具です。包丁と同じでしょう」
「使う人次第だよね。うん。使う人次第で危険なものになる道具だ」
世界がいい方向に進むように、わたしは余裕をもってゆったりと過ごす。
そのために! ストレスになりそうな問題を今日終わらせよう。




