第104話 布教活動
「え?」
「めめめ女神さまにっ?」
ドッキンちょ。
リノ姫たちが挙動不審になりました。
女神フクさまに授けられた特別な果物。
「そそっそんな! だっ駄目よ!」
「よよ妖精ちゃんのだろう!」
「俺たちはいい! いいから!」
妖精村長の言葉にアタフタとしつつも、全力で遠慮を開始。
知ってた。
魔毒族は特にこうなるって、妖精村長だってもちろん知ってた。
「どうか遠慮なさらないで? 皆さんは女神フクさまの特別な果物を食べるべきよ?」
すすすとリノ姫たちに近づいて本格的に接待を開始する妖精村長。
「だって、こんなに強くて優しくて素敵なんだもの。そうじゃなきゃ私だってこんなこと言わない」
言葉巧みにリノ姫たちを誘導していきます。
その結果。
「〜〜っ!」
「なにこれ!」
「うっま!」
こうして、女神が妖精たちに授けたという特別な果物。
桃の布教が完了したのです。
パチパチパチ!
拍手!
わたし果物だと桃で好きでさー。
桃缶や桃ジュースも好きなのよ。
ジェフクタールの新年は春でちょうどひなまつりくらいだしさ、カレンダーの木に新年だよー! ってひなあられが果物のように実るようにしたわけで。なら、大好きな桃も女神の特別な果物にしようと思ったわけです。
宝箱があるダンジョン共通で出るレアなお宝に、桃缶や桃ジュース、桃のゼリーとかがあるんだ。
桃シリーズは実はすっごいレアなんだよー!
という布教活動です。
そして、普通の桃。
果物の桃は妖精の村でしか手に入らない、と女神はジェフクタール人に広めたいんですよ。
「なんて美味しいの」
リノ姫。
わかる。
その桃はね、桃好きな家系に生まれた女神が人生で一番美味しかった桃の再現なんよ。
ヤバかろ?
もっと食べたくなるやろ?
女神、ついポンッして神界で今食べてるけどさ、やっぱこの桃美味しいんだわ。
「ああ、女神さまの桃が終わっちゃったわ……」
「王たちにも食わせたかった……」
だよね。
贈り物やお土産にしたいレベルだよね。
ジェフクタールの果物とかってさ、品種改良とかもちろんないわけで。
広めたい!
女神はこの桃の素晴らしさをジェフクタールに布教したいのだよ!
「まあ! それなら皆さん、私のお願いをどうか聞いてくださらない? お礼に桃のカードを差し上げるわ!」
クエスト発生!
妖精のお願いクエストが発生であります!
桃関連は非売品なのよ!
ファンタジーダンジョンはオープンワールドの要素もあるからね。
こういうちょっとした目的というか、お楽しみも用意しております。
もちろん、しなくてもいいんだよ。
あくまでもおまけみたいなものだからね!
「何をすればいいのっ?」
食い気味。
リノ姫たちが見事に釣れました。
桃で一本釣りであります!
「私たちに楽市島のお話を聞かせて欲しいのよ。ぜひ」
妖精村長。
エステ無料お試し券をスッと差し出すの巻。
楽市島にもエステ店はあります。
「え?」
「これはね、楽市島にあるエステというお店の無料お試し券なの。でも私たちはここで大切な桃を守る使命があるから、あなたたちに行って来てほしいの。エステのお話だけでも聞きたいの」
ただのお試しですよ、お試し。
無料の。
おまけに桃が手に入る、ね。
「エステ、にこれを持って、私たちが行けばいいのね?」
「ええ! ぜひ皆さんで!」
妖精の村は、こういう村です。
村ごとに違いがありましてね。
この村は楽市島担当ですね。はい。
ある程度楽市島の無料お試し券を配り終えたら、次は別の何かになるでしょう。
普通にファンタジーダンジョン内でのおつかいクエストなどもありますよ!
「行けば、女神さまのあの桃が……」
「姫!」
「姫!」
「みんなで行こう! 姫!」
盛り上がってまいりました。
「行くわ!」
「ありがとう! ああ、そうだわ! これも皆さんに差し上げるわ!」
妖精村長。
小さな宝箱をパカリ。
「これは妖精の転移石。ファンタジーダンジョンにある、行ったことがある妖精の村に一瞬で行ける石なの」
別名リピーター石。
妖精の転移石は青い石です。
ファンタジー腕輪に追加出来る石ですね。
【ボクがお写真を撮るよ! この村だってわかるように画像がいるからね!】
ナビくん。
ターゲット状態を解除して球体に戻るの巻。
ふよふよ。
すぐさまお仕事を開始です。
緊急事態に含まれますよこれは。
リピーターの確保は大切なのです。
【はーい! リノ撮るよー】
リノ姫と妖精村長。
桃のフレームでツーショット。
この村に移動をしたいと、わかりやすい画像をパシャリであります。
妖精村長は民たちとも次々にパシャリパシャリなのであります。
これで次回、リノ姫たちはこの妖精の村をわざわざ探さなくてよくなりました。
「エステのお話を、また皆さんに会える日を楽しみにしてるわ」
妖精村長は「少ないけれど」とリノ姫たちに一枚ずつ特別な桃のカードを渡しました。
桃関係のカードは特別感を出すために、ダンジョンやお店の中以外でお祈りをするとポンッとカードが桃関係のものになります。
「待ってるよ!」
「エステのお話を聞かせてね!」
「次はもっと! もっとたくさん桃を収穫しておくよ!」
お別れです。
ありがとうありがとうと、お互いに言い合うとても温かいお別れであります。
きっとまた、会えるでしょう。
ええきっと、すぐに。
「さて」
目覚まし時計型の特殊なタイマーをアラーム音が鳴る前にポチッと押して停止。
そろそろ時間ですな。
冒険者島のトレーニングダンジョンにひとりでいる人魚族のシェジュ王くんを見守ります。
『……』
シェジュ王くんは宝箱ルームにいました。
階層では終了時間の前にアナウンスが流れるんですよ。
無料三十分の場合は五分前に。
それ以外の有料プランは十五分前に。
もちろん終了アナウンスは五分前がいいとかご希望に応じて、ですけどね。
有料プランの場合は希望がなければ十五分前にお知らせしてます。
無料三十分でも有料プランでも、終了時間をオーバーすれば延長料金です。
オーバーした場合は、延長料金を支払うまでトレーニングダンジョンから出ることは出来ません。
延長料金を受付でお支払い。
出来なければ呼び出しです。基本王族を。
シェジュ王くんはそのアナウンスを聞いて、少し早めに階層から出て来たのでしょう。
予定どおりの終了時間です。
『……』
クルクル回ってるルーレットを見ていたシェジュ王くん、ちょんと指で触れました。
有料プランでは最高で五個の宝箱をGET出来ます。
シェジュ王くんは何個でしょう。
『……』
あっ、とシェジュ王くんの無表情だったお顔が素に戻りました。
三個!
有料プランは最低でも二個の宝箱なので、ひとつ多い。
『……』
シェジュ王くんの喜んでるおめめを見て、女神は自分は汚れてるなと思いました。
三個かあ……、と女神は思いました。
ごめんなさい。
シェジュ王くんは冒険者カードを持って、指定された色の扉にスタスタと向かいました。
『音声案内があるんだよね……』
シェジュ王くんは受付のカノンに聞いた宝箱ルームの説明を思い出しているようです。
うん、とひとつ頷いたシェジュ王くん。
いざ宝箱をオープンです!
【フクタさんへのお手紙セットです。専属のカノンにお話を聞いてフクタさんにお手紙を出してみましょう】
『……フクタ、さん? フクエルのおっお友だちかな? なんだろう?』
おおお!
さっそく有料プランでしか出ないお宝!
パチパチパチ!
拍手!
これはですね。
サンタさんならぬフクタさんです。
ジェフクタールの新春の日にフクタさんからのプレゼントが届くのです!
フクタさん第一号はシェジュ王くんかあ。
お手紙が届いたらプレゼントを考えねば。
【カジノコイン百枚交換券です。娯楽島のカジノでカジノコインと交換出来ます】
『あっ、まっママと一緒のだ。リーセイリウにあげなきゃ……!』
お?
リーセイリウが欲しがったのかな?
シェジュ王くんがうれしそうにカジノコイン百枚交換券を小袋に入れました。フクタさんへのお手紙セットも小袋の中です。
シェジュ王くんは最後の宝箱をオープン。
【妖精たちの楽器シリーズです。妖精が素敵な演奏をしてくれるでしょう。人魚国は分身フクエルも楽しい演奏をしてくれるでしょう】
『…………フクエルが?』
シェジュ王くんの時が止まりました。
宝箱の中のちっちゃな箱を見たまま時間停止状態です。
ちっちゃな箱はラッピングされています。
『フクエルにあげなきゃ……』
そっ。
震える指でそれはもう優しく丁寧にちっちゃな箱を取り出したシェジュ王くん。
あきらかに他のお宝と扱いが違います。
『うん。ぼくはがんばるんだ』
大切に取り出したちっちゃな箱を見つめて、自分に言い聞かせるように囁いたシェジュ王くん。
何を?
シェジュ王くんは何を頑張る気なんだ?
フクエル、だよね?
フクエル以外の理由が女神には思い当たらないんだよ。
人魚族特別ご招待の日にママが手に入れたポークくんのミラクルポシェットをシェジュ王くんは欲しがっていたけど、それは双子親衛隊と一緒に行くってお約束をしてたんだ。
シェジュ王くんはひとりでは、ポークくんのミラクルポシェットを目的にこのダンジョンに行こうとしないはずなんだよ。
宝箱から何が出てもポークくんじゃなくてガッカリした様子じゃないし。
何か他の目的があるはずなんだ。
フクエルしかないよな理由……。
女神はそんなことを考えつつシェジュ王くんを見守っています。
扉から出るとシェジュ王くんはまた無表情。
無言でスタスタ歩いて、スターシールになるトレーニングダンジョンのミニパンフレットをしっかりGETして、行き先は冒険者ギルドです。
シェジュ王くんはトレーニングダンジョンでミラクル鞄を借りたので、冒険者ギルドに行くしかないんですけどね。
『こっ、これ、あっあの』
「人魚国に出ている依頼ですか?」
冒険者ギルド受付の茶色のカノン。
リーセイリウと顔見知りのカノンです。
茶色のカノンはシェジュ王くんが来るので実は待っていました。
こくこく頷くシェジュ王くん。
買取り査定の待ち時間はどうにも出来ませんが、人魚族のリミーちゃんに売り切れ御免の限定品を買われた音色族はヤケ食いと休憩を兼ねた聖地観光、リーセイリウが持っていたフクエルのミラクルポシェット探し、若返り薬のために娯楽島のカジノに行っていて冒険者ギルドにはいません。
音色族レイガ王の妹、カメコたちのモデルをしていたレティ姫はフードコートで泣きながらヤケ食いをしています。くやしいね。うん。
獣族のライ王子がミラクル大当たりしたのでほぼファンタジーダンジョンにいる獣族と人族がいないので、そう待ち時間はないでしょう。
今冒険者ギルドにいるのは、たぶん美容室用のお金目的の森の葉族と、きっとレストラン用のお金目的の鉱石族がちらほらです。
鉱石族は若返り薬などを求めて、トレーニングダンジョンで無料三十分を繰り返してるんですよ。
冒険者ギルド、今かなり空いてます。
『……』
そんな冒険者ギルドで受付からちょっぴり離れてじっと待つシェジュ王くん。
カノンたちは、全速力で査定を終わらせたと思います。頑張りました。
「人魚国のシェジュ。査定が終わりましたので別室に行きましょう」
茶色のカノンがシェジュ王くんに声を掛けて一緒に別室へ向かいます。
ほんと、このタイミングで空いててよかった冒険者ギルドだよ。
「依頼ありの買取り価格で査定をしました。査定の結果、三億三百万クルになります。この査定結果でよろしければ冒険者ギルドが買取ります」
さ、さささ三億超えてるーッ!
え?
ギラデス王とリミーちゃんが無料三十分を二回、一時間で六千万クルくらいだったよね。
ちょっと待って。
シェジュ王くん、一分で十二体くらい倒したのか……。
『うっ、うん。おっお金にして』
「はい。では冒険者ギルドが買取ります。お金は冒険者カードに入金しますか?」
『あ、うっうん』
ひたすらこくこく。
小袋から冒険者カードを出して、シェジュ王くんが稼いだお金は冒険者カードに入金されました。
『あっありがと』
お礼を言うとさっそく椅子から立ち上がるシェジュ王くんです。
「あの、翻訳アクセサリーはここでも販売していますよ」
『……いっいらない』
そうか。
お断りされてしまいました。
いやでも、今はない方がいいのかも。
他族の声。言葉。あー、わからん。
動画でル○ェタお兄さんが神さまくんよりも絶対に強いってわかって、凄く安心はしてたんだよね。
超チート種族でもジェフクタール人だから、神さまくんに自分じゃ傷ひとつつけられないって本能的に理解してるし。
これもどうにかして自分で仕返しさせてあげたいんだけど、いろいろと厳しいんだよね。
はあ。ちょっと落ち着こ。
大丈夫大丈夫。
シェジュ王くんは落ち着いてる。
もう帰るかね?
それとも、このお金で何か買うのかな?
雑貨屋さんや魔法書店、シェジュ王くんが行きたそうにしてた妖精たちのお手伝いダンジョンやゲームセンターは碩学島にもあるけど。
まさかひとりでは行かないでしょう。
『……』
スタスタスタ。
シェジュ王くん。
冒険者ギルドの出口に向かいません。




