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5/5

5 ほんとの名前は


「「「 え 」」」


ロッシが女の子をつかんで来たのを見て男どもが戻ってきた。


「どゆこと?」

あたりがザワつく。


「ロッシ、なぜその子の髪の毛をつかみあげているの?説明求む!」ハチワレが言う。


「その子、髪の色からすると多分あのケガしてた女の子だよ」女の子にまだ会ったことがなかったサバトラ(16)がロッシに教える。


ノーキンの隣にいる透明感のありすぎる少年(8)がノーキンの耳元で何かを言い、

「ベッドから引きずり落トシタノ?」

ノーキンがかん高い声で棒読みで代弁する。


アビーとレナはロッシと女の子を見て驚いて口を押さえている。

さっき寝かしつけたのに、と。



「外で見つけた。逃げようとしてたんでな、ついつかみあげた」


「「「逃げようとしてた?」」」

だからと言って髪の毛をウサギをつかむように持って運んでいいものなのか。


「離してってばよぅ!」

じたばた抵抗するのでロッシが手を離した。その瞬間女の子は脱兎の如く逃げ出した。

ロッシが秒で捕まえる。


「やめてよぅ!痛いぃってばよぅぅ!」


「お前が逃げないというのなら離してもいいんだがな」


「......どうして逃げようとするの?ここにはあなたに危害を与えるような人はいないわ」

逃げようとしていた事にショックを受けたアビーだが落ち着いて声をかける。だがその声は悲しげだ。


それを聞いた女の子が周りを見渡す。警戒しているその目は追いつめられた野生の動物のようだ。見つめられた面々は警戒心あらわの視線にたじろぐが、エメラルドグリーンの瞳にハッとさせられる。

女の子は最後にアビーを見る。


「わたしたちは敵ではないわ」

安心できるよう両手を広げて敵意がないことを伝える。

「大丈夫、大丈夫よ」

この女の子によくかけていた言葉。少しでも警戒心を解いてあげたい。


「大丈夫」



長い沈黙。


しばらくしてから女の子が口を開いた。



「ほんとウニ?」

女の子が疑り深くアビーを見る。

「本当よ。だから逃げないでちょうだい」


「声に聞き覚えがありゅ。ボクの面倒見てくれた人だね」

わかったよ、逃げないから降ろしてくれたまえ、と女の子はロッシに向かって言った。


「今度逃げたら(ピ──ッ)くからな」

ロッシは女の子に念を押してから降ろした。


すとん、と着地した女の子は一旦下に下ろした視線を皆の方にむけた。


「わたし......」


「「「わたし?」」」


「いや君ボクっ娘でしょ?」

「キャラがブレたらだめだよ」

「いやーしかし美しい!俺の嫁にナラナイカ?」

男どもある意味興奮。

レナは白い目で男どもを見ている。


「わたし......」

ロッシがまた髪の毛をつかんでウサギ持ちをした。

「ナニするんだよぅ!ボクの髪の毛離せってばよぅ!」


髪の毛を離して降ろす。


「わたしの髪の毛をつかまないでいただけたらありがたいのですが?」

ちょっとムッとした上目遣いで見てくる。


ロッシはもう一度つかむ。

「やーめろってばよぅ!おまいバカかよぅ!」


プッッ

誰かが吹きだした。それにつられてぷぷぷ、と笑い声がし出した。みんな笑いを堪えている。


「ふふ、コイツは髪の毛をつかまれるとこうなるのか」

ロッシの言葉に堪えきれなくなった皆が爆笑に包まれた。


「なになにかわよすぐるんだが!」

「わざと?ねぇわざとなの?」

「ギャップ萌えたまらん!」


女の子はうつむいている。顔が赤い。

「わ、わたしだってしたくてやっているのではないんです......」

口が勝手に、とうつむいたまま小さな声で言っている。かわよ。


「......わたしは「ストーーーップ!」

アビーがストップをかけた。


「あなたもしかしてこの国の人ではないわよね?この国では本名を名乗ってはいけないの、知らないでしょ」

女の子が名乗るのではないかと思いストップをかけたのだ。


「ほんとの名前はね、この国では親と配偶者と自分の子供と村の長以外に知られてはいけないの。名前とあだ名は生まれた時に親にもらうんだけど、あだ名で育てられてね、ほんとの名前を教えてもらえるのは10才になってからよ」


「そして結婚する時に配偶者に伝える。この国では本名を年頃の独身の異性に教えることは求婚になるわ」


「ほんとの名前は死ぬ時に必要なの。お葬式の時に親、配偶者、子供、村の長のうち誰か一人が百年樹の皮で出来た御札にほんとの名前と精霊王様の元に行ける魔法陣を書いて燃やし、その灰とヒンヌ帝国で採れるエメラルドグリーン色の透明な石を粉々にしたものを混ぜて棺桶に入れるの」

説明しながらアビーは女の子のエメラルドグリーンの瞳をちらりと見る。


「そうすることで死後精霊王様の元に行けるのよ。そしてまた魔法が使える世界になるようお祈りしながら精霊王様に仕えるの」


だから私たちが普段呼び合っている名前はあだ名なのよ、とつけ足す。


「だから名前を言わないでね。あだ名があればそれを教えてくれると助かるわ」


「わたしの名前......百年樹......精霊王...」

ブツブツ繰り返している。

様子がおかしい。


「わたし......何も覚えていないわ......

何もわからない......

わたしは誰なんですか...?」

悲しそうに、しぼりだすようにそう言った。


皆は驚いて言葉が出てこない。

だがロッシは

「お前は誰なんだろうな。そして覚えていないってのは本当なのかな。口ではどうとでも言える。お前が来てから馬がザワついて落ちつかない。一体何者だ?」


ロッシのただですら切れ長で冷たい目がさらに冷たくなり絶対零度となった。

部屋の温度が急激に下がった気がする。


恐怖で皆すくみあがった。



その時遠くから数頭の馬のいななきが聞こえた。














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