4 目覚め
投稿遅くなりもうしわけありません。
チェックが甘いので後で少し表現や言い回し等書き直すと思います。
1~3話は改稿済です。
世界観や村の事が分かりやすくなってます。
読み直して頂けたらありがたいです。
女の子が村に来てから3日経った。
村の長、アビーの家の母屋の2階の一室で眠り続けている。
何度か瞼をピクつかせたりはしたが目を開けることはこの3日間はなかった。
アビーは娘のレナと2人で毎日体を拭いたり髪を梳いたり傷の消毒を行ったりしていた。
(しかし今日は暑いわね、まだ6月なのに)
窓の外の木々は鬱蒼としていて夏が近いことを教えてくれている。日射しがいつもより強い。風通しのいい木製の日除けを閉めるが風があまり吹いておらず暑い。午後はもっと気温があがり蒸し暑くなるだろう。
「お母さん、水を汲んで来たわ」
「ありがとう」
娘のレナが汲んできてくれた井戸水に布を浸しゆるめにしぼり、パン、パン!と引っ張るように強く伸ばす。
その布で体を拭き始める。
(しかし...)
日除けを閉めたことで少し暗くなった部屋でアビーは女の子のお腹の辺りを拭きながら(年頃の女の子の腹筋ではないわね)と思う。
女の子の腹筋はしっかり6つに分かれていた。腹直筋もガチガチ。腹筋だけではなく 腕も足も細いけれど筋肉質だ。
(鍛えていたのかしら……?なんのために……?)
アビーはレナを見る。女の子は13~15才くらいか。13才のレナと似たような年頃だろう。レナは女の子より背が低く、しもぶくれ系の丸顔で丸メガネ、太くなく細くなくなストレート体型。
筋肉なんて必要最低限しかない。これがこの年齢の女の子の標準的な体型だ。
なのに女の子は騎士団にでも入るかのような訓練を受けた体に見える。
レナはこの体を見てどう思ってるのか。
その時外から歌声が聴こえてきた。しかもいつもより近い。そして下手くそだ。
「あーまたミョンの歌が始まった」
「近いわね!どうしてもこの女の子に歌を聴かせたいのね!」
母屋の近くで歌われるとうるさくてかなわないので歌ってはいけないエリアを決めている。今日はどうもエリアの境界線ギリギリで歌っているようだ。
「あいつ、自分の歌に癒しや回復の効果があるとでも思って歌ってるのかしら?絶対ないわ」
歌は佳境に入りだんだん凄まじくなっている。騒音ととられても仕方のないレベルの歌唱。村の墓地の住人が起き出してきそうだ。
「ふふ、お母さん、アレうるさいよねぇ、シメてこようか?」
「そうね、頼もうかな」
ぽわぽわしてるレナなのにたまに物騒なことを言うのでこわい。
「……んっ……」
その時女の子が小さい声でうめいた。初めて聴く声。
2人ともハッとして顔を見合わせる。
「大丈夫、大丈夫よ」
アビーは寝巻きのボタンを閉めながら女の子に声をかけた。
「まだ寝てていいわ、歌で目覚めた、とかあいつが聞いたら勘違いしてまた暴走するから」
いいこ、いいこ、と言いながらトントンしてみる。
その時一瞬だけ女の子の目が細く開いた。
……エメラルドグリーンの瞳?
それはすぐに閉じられた。
「お母さん……」
「……まずは快復してもらわなくては」
さらにめんどくさそうなことになりそうだ、と直感的に思った。
女の子はトン、トン、とされてまた寝入った。
食堂に戻るとこれから農作業に向かうノーキンとハチワレと数人がいた。
「ハチワレともう1人は馬の様子を……
お、アビー」
「女の子は相変わらずかい?」
ハチワレに聞かれアビーは答える。
「あぁ、眠りつづけているよ」
「そうか」
「あの女の子、瞳がエメラルドグリーンだったよ」
レナがしれっと報告した。
「「「はっっ?」」」
「嘘でしょ」
「エメラルドグリーンの瞳なんてこの世の中に存在するの?」
「黒と茶色と青しか見たことないよ」
「見てみたい!会ってみたい!未来の俺の嫁ちゃんかも!」
「よーめっ!俺のよーーめっ!」
「目覚めたら面会キボンヌ!」
そこにいる男どもが一斉にいろいろ反応する。うるさい。
「目覚めたら見てみたらいいよ。キレイな瞳だったよ〜」
レナぁ、煽るなぁぁ!!
「僕は初めて君を見た時から──」
男どもが男女の出会いからの恋に落ちる様子、告白、初めての口づけをやんや騒ぎながら妄想熱演している。
「この変態どもがぁぁ!妄想熱烈合体で萌えキュンする前にあなたたちはさっさと仕事に行きなさい!萌えキュンしたらあなたたちはしばらく使い物にならないからね!」
もう少しだけぇ、おねがーい、などと言っているがとりあえず追い出す。
あんなやつらでもこの村にとって大事な村人で働き手だ。
このカイコ村は自給自足の村である。村人全員が助け合って生きている。
ここで生まれた者、ここを目指してたどり着いた者、逃げてきた者。
誰でもアビーは受け入れる。困った人を見たら放ってはおけない。
助け合うのは家族であろうがあるまいが関係ない。子供が生まれればみんなで育て、病気になったら周りが看病し、歳をとって動けなくなったらみんなで介護する。
安心して生きていき、安心して旅立てるような場所にしたい。それがアビーの願いだ。
元々はエデルの馬の純血種の牧場だった。それをアビーの父親が馬と共に生きていく自給自足の村にした。広大な敷地に簡単な囲いをつけただけの牧場。ほぼ放し飼いで、ここに放牧されている馬は相棒が決まっておらず自由な馬だ。
馬が必要な場合、牧場に赴いて「出会い厨」と呼ばれる決められた場所で大きな声で名前を名乗る。
しばらくするとこの人間とペアを組んでもいいかも?と思う馬が近づいてきて一旦乗せてくれる。
1頭も来ない人もいるし何頭も来る人もいる。
少し走り元の場所に降ろされ、その後に頭に鼻息をかけられ顔をぺろーんと舐められたら馬に選ばれたことになり、その馬は自分専用の馬になりどちらかが死ぬまでずっと相棒となる。
馬は相棒を守る気質がある。時には命をかけて助け、果てることもある。
国の騎士団の馬も全てここの馬だ。
純血種以外に農耕馬も育てており、農業で活躍している。
村には自警騎士団がある。馬の扱いに長けており騎士団の馬の面倒と共に放牧地の馬の面倒も見ている。
その自警騎士団の1人、ロッシがピンク紫の暴れる何かをウサギのように掴んで母屋にやってきた。
「アビー、これは一体なんだ?もしかして例のアレか?」
「やめてよぅ、痛いよぅ、ボクの髪の毛離して!」
アレ、と言われたモノはじたばたポカスカ暴れている。
ロッシがウサギのように掴んでいる髪の毛の下にはさっき拭いてあげていた見覚えのある顔があった。
それは眠っているはずのあの女の子だった。