1 夢幻泡影
...... (ハァ )
...... (ハッ )
...... (ハッ )
明るくなり始めた森の中をわたしは全力で走っている。
聖女ローブが枝に引っかかって走りずらい。
吸う息よりも吐く息の方が増えたような気がするほど呼吸が荒い。
肺が痛い。空気さえ敵のようだ。
魔物討伐しに来たのに、隊の皆が怪我をしないよう祈るために来たのに!
なんてこと!なぜこんなことに!
お願い、誰か、誰か助けて!
大陸暦1236年
魔法が失われた世界となって100年。
元は精霊との契約により魔法が使えた。
人々の生活は魔法により成り立っていた。家事、炊事、農作業、子守り等人々は魔法で潤いのある便利な生活を送っていた。
が、ある時精霊王の怒りにふれ、全ての契約を切られ精霊はこの地を去った。共にエルフも去った。豊かな実りをもたらした北の大地は不毛の地になり、西の海はいつも荒れるようになりそこでは漁業が出来なくなった。
食糧難が続きその後飢饉となり、大陸内で食糧争奪のための戦争が起き元々あった7つの国のうち3つの国が滅び、4つの国家の大陸となった。
「魔法の使えない戦争」に不利な旧魔法大国や力を持たない小国が滅び去った。
残ったのは南にある武力のヒンヌ帝国、穀倉地帯を有する西のアーデリン連邦、中央に皇字軍と聖女の国ネオセント・A・パット聖皇国、魔物が湧き出る沼を持つエデル王国だ。飢饉と戦争で人口は全体の6割にまで減った。
魔物が湧き出る沼を持つエデル王国は沼に見張りを立て魔物が発生する度に魔物を排除せねばならない。
飢饉で国民の5割を失っているエデル王国は人員不足と予算不足に苦しんでいた。
魔物は時を選ばすに発生する。
トカゲのような小さいものから見あげんばかりの大きさの四つ足の魔物まで様々発生し、戦って命を落とす者もいた。
そこに目をつけたヒンヌ帝国が
我が国ガ人員と予算の手助けをしましょうダカラ我が国から行った人員が無事でいラレルよう祈りを捧げられる聖女を用意してくださいアト魔物が我が国土に入ってくることもアルノデ民を守るためコレヲ機に国境に塀を建テマス
という内容の条約を突きつけてきた。
何もかもが火の車のエデル王国はこれにサインするしかなかった。これがヒンヌ・エデル条約である。
聖女の派遣を聖女の国のネオセント・A・パット聖皇国に打診したが断られた。のでエデル王国は自国から女性を聖皇国に派遣するので討伐に必要な聖女の祈りと聖皇歌を歌えるように聖女教育をお願いできないだろうか、と打診したところ、OKが出たのでこれも条約として結ばれた。
(ネオセント・A・パット・エデル条約)
が、次の日から聖皇国による聖女教育のための年間20人もの幼女引渡し要求が始まる。
そしてヒンヌ帝国との国境の端から端には見上げんばかりの塀という名の壁の建設が始まった。
これが、100年前のことであり、
討伐=エデル出身の聖女が付き添うという形は今も変わらない。
そして舞台はエデル王国へ─