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その頃、神川ゴルフ練習場では

 その頃、神川ゴルフ練習場では当人たちを待たずして、お祝いイベントを開催していた。


 というのも、詩穂から準優勝が決まってすぐに連絡があり、その場で美里が決断。

 練習をしに来たお客さん全員に、無料で30球プレゼントイベントを始めたのだ。

 

 これはその場限りではなく、訪れたお客さん全員に行っており、営業終了時間まで続く。

 常連さんたちにとっても、カエデと咲緒里は娘や孫のようなもので、幼い頃から見ていた子たちであるから、喜びも一入なのであろう。

 誰が準備したかわからないが、いつの間にか横断幕まで貼られて、受付のある休憩スペースではドリンク片手に大盛り上がりだ。


 そこに陸斗もちょこんと混ざり、みんなの話を聞いている。

 内容は咲緒里を褒める言葉もあるが、皆カエデの方が印象深いのだろう。


 「まさか、カエデちゃんが全国の舞台へ立つ日が来るとは」


と、一様に驚いた様子であった。


 ただ、最終的には全て瑠利のお陰と結論付けたようで、「あの子は、ここを救うべく現れた、天使様じゃなかろうか」と、それで皆は納得したようである。


 そんなおじさんたちの話はさておき、佳斗は大忙しだった。


 約束のあったゴルフ雑誌の記者だけでなく、その後もいくつかの雑誌社から問い合わせがあり、その対応にも追われている。

 おまけに、夜になると大内雄介プロや、井澤翔馬プロが押しかけ、更に練習場は大混乱となった。

 特に二人は地元静岡出身のプロだけに、人気も高い。

 知らずに訪れたお客さんたちは、「うそっ、大内プロがいる。俺、ファンなんだよ」とか、「あっちには井澤プロもいる。マジかよ」と、憧れのプロたちに会えたことを喜んでいる様子だ。


 そんな大騒ぎとなった神川ゴルフ練習場だが、ここの常連である葛城猛は大人たちに混ざって話を聞いていた陸斗を捕まえ、何やら真剣に話し始めた。


「よう、陸斗」


「なに? おじさん」


「ちょっと、話したいことがあるんだが、いいか?」


「うん」


 彼は陸斗からの了承を得ると、場所を移動する。

 それはすでに確保してあった打席で、一番右の端だ。

 椅子に座り、改めて陸斗を見据えると、猛はこう話を切り出した。


「で、お前はどうするか決めたのか?」


 その問いの意味は、プロを目指すかどうかだ。

 陸斗がゴルフをしたがっていることは誰が見ても明白であり、あとは気持ち次第といったところであった。


 それに対し、陸斗の答えとは。


「ぼく、お父さんのできなかった夢を叶えたい」


「そうか……。言っとくが、あの神川佳斗でも届かなかった道だぞ」


「うん、わかってる。でも、ルリ姉ちゃんと出会って、僕も同じ道に進みたいって思った。今日は団体戦だったけど、明日は個人戦の決勝だから、きっとルリ姉ちゃんは遠くへ行っちゃうでしょう。だから……」


 それは、ただの子供の戯言と変わらないのかもしれない。

 けれど、その目を見れば、陸斗の意志の固さもわかるというもの。


「だったら、俺はずっとお前を応援する。若葉も一緒だ。そして、アイツのできなかった夢を叶えてやってくれ」


「うん、ありがとう」


 

 この約束を機に、陸斗の後援会の代表を彼が務めることになるのだが、それはまだ先のお話。 

 精神的に幼かった陸斗も瑠利と出会ったことで少しずつ変わっていき、その背を追いかけたいという夢ができたのだ。


 そして、この日の夜。

 陸斗は父に自分の意志を伝えるのだった。


「僕、プロになりたい」


 そう言った息子の言葉に、佳斗が出した答えとは。


「わかった。厳しい道だが、後悔しないように精一杯やりなさい。私も協力は惜しまないから、困ったことがあれば遠慮なく聞くんだぞ」


「はい、お願いします」


 この時、同席した美里の目からは嬉し涙が零れていた。

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